遇接待#SS 『翼』

…正直言って、私は水泳が嫌いだった。
別に苦手という訳でも無いし、泳ぐ事自体が決して嫌いだった訳じゃない。

ただ、私にとって”水泳”という存在は拘束具とも言える存在だから、私の方からそれを進んで受け入れる気にはなれないというのが本当の所だろうか。

かつてオリンピックにも出場した経験を持つ水泳選手を両親に持ち、代々水泳選手を輩出してきた家系に生まれた私には、生まれた時から自由は存在していなかった。
物心つくと同時に、否応無しで水泳のイロハを叩き込まれ、気付けば私の将来の目標は周囲の人間達によって勝手に定められていた。

そして、私が厳しい練習に耐えかねて弱音を吐くたびに、「そんなんじゃ、両親の様に立派な水泳選手になれないぞ」と怒られる。
でも、私自身から水泳選手になりたいと言った事なんて、ただの一度も無かった。
…だからって、別に水泳選手以外に何かなりたいモノがあった訳じゃないけれど、私の場合はそれを探させてくれるという事すら許されなかったという方が正解だと思う。

連日連日、厳しいスケジュールに管理され、学校とトレーニングを往復しながら消化されていく日々。
出来るものなら、放課後みんなと一緒に遊びたかったし、何を書こうかと悩みながら将来の夢をテーマにした作文を書きたかった。

そんな焦燥と共に、やがてこの家に生まれてしまった事への苛立ちは絶望へと変わっていき、いつしか水泳なんてこの世に無かったら…の様な事も考えてしまう様になっていく。
…そして、時には手足を怪我してしまえば、もう厳しいトレーニングを強要される事も無い、そんな風な事を考えてしまう事も少なくなかった。

しかし、結局は勇気が出なくて必ず思い留まってしまう。
勿論、怖いのも確かだったけど、何より水泳を憎む反面で、選べる選択肢を奪われていった私にとって、最早これしか自分を表現していく術がなくなっているという気持ちが、既に自分の心に強く根付いていたのも事実だったから。

身体能力の向上と共に伸びていく水泳の技能の反面で、乾き続けていく心。
次第に苛立ちから反抗する事を諦めた諦めの感情が自分の心を支配していくうち、次第に私は
無口になっていき、そして笑えなくなっていった。

やがて、そんな私はクラスメート達から敬遠される様になり、次第に孤立していく。
このまま最後に目指す事を宿命付けられたモノを手にした時は…私はきっとこの世で独りぼっちになっているだろう。

しかし、そんな孤独感に苛まれる日々の中で、転機は突然に訪れてしまった。
…今でも、それが幸だったか不幸だったかは分からないけれど。

「…ん…?」
 いつもの様にスクール水着に着替えてプールサイドへ出ると、ざわざわと喧騒に包まれた人だかりが出来ているのに気付く。
「……?」
 こんな地方のしがない温水プールに誰か有名人でも来ているのだろうか?私も人ごみの隙間から覗いてみると、その視線の先では1人の女性が泳いでいた。

バシャバシャ

「しっかし、相変わらず大したもんだよな…見惚れちまうよ」
「またこの前の大会で記録を更新したんだろ?天才っているもんだよな…」
「ああ、しかも決勝戦で前回の五輪に出場した真田に対して真っ向から挑んで負かせてしまったんたよな?」
「それで大会後、本人はすっかりと凹んで、しばらく出場しないって言ってたんだっけ?」
「そうそう。だからこの春日が入れ替わりで次の候補に…って話もあるな」
「ま、決勝まで出られなかった上に、ほんの少し前まで無名に等しかった選手に負けたんじゃな」
「…………っ」
 そんな無責任な会話が続く中、私は思わずその当事者の姿に目を奪われてしまった。
 技術もさる事ながら優雅で無駄の無い、正に華麗と形容するに相応しい泳ぎ。それは、昨日今日で出来る動きでは無い事は一目瞭然だった。
 …もしかしてこの人も、私と同じく全てを犠牲にされてきたんだろうか…?
「…………」
 そんな推測から、私は次第にあの人に親近感を覚えはじめていく。
 しかし、そんな親近感より何より、あの自信に溢れた姿は…。
(…かっこいい…)
 純粋にそう思った。幼い頃より一番であることを義務付けられた私が、他の人の泳ぐ姿に見惚れてしまうなんてあってはいけない事なんだろうけど…それでも、視線を外せずにいた。
「…コーチ、あの人は?」
 やがて、人ごみの中に自分のコーチがいる事に気づいた私は、指先で腕を突付いて尋ねてみる。
「ん?瀬名か。…ああ、学年が違うから知らないのも仕方が無い。彼女は春日渚(かすがなぎさ)。聖華学園の生徒なんだが、彗星の如く現れた天才として最近注目されてる選手だ」
「春日…渚…天才…」
 すると、コーチの口から出た”天才”という言葉に、思わず反復してしまう私。
「…………」
 …しかし、随分と尊大な定冠詞が付けられているにも関わらず、今目の前で見事な泳ぎを披露している春日と呼ばれた女性の姿からは、違和感も嫌味も感じなかった。
「能力もさる事ながら、大会で名前が出始めたのはここ1〜2年前でな。お陰で水泳を始めたのも聖華学園入学後っていう噂もあって、それが天才と呼ばれる所以の1つになっているが…さすがにそれは無いと思うけどなぁ…」
「…うん…」
 もしそれが本当なら、一体今までの私は何だったんだろうと問い返したくなってしまう。
「ともかく、彼女と所属している水泳部は最近すっかりと有名になってきていてな。春日の活躍のお陰で最近は学園の知名度も上がり、学園長も頭が上がらないんだそうだ」
「…凄い人…なんですね…?」
 そのダイナミックなフォームも経歴も、女性なのに”豪快”って言葉が似合うと思った。
「確かに、水泳選手としての能力は申し分ないんだがな…」
 しかしそんな私の台詞に、表情を曇らせながら言葉を続けるコーチ。
「え…?」
「…頼むから、お前はああなるんじゃないぞ、瀬名」
「……??」
 そして、苦々しい口調でそう吐き捨てると、「準備運動が終わったら声をかけてくれ」とだけ続けて、すたすたと歩いて行ってしまった。
(…ああなるんじゃないぞって…)
 一体、どういう意味?
「…………」
「……あ……?」
 その意味が分からずにその場へ立ち尽くしていると、やがてプールから上がった春日さんが、スクール水着に水滴を滴らせながらこちらへと歩いてきているのに気付く。
「…………」
 胸こそ控えめだが、痩せすぎてる訳でも筋肉質でも無い高バランスのスタイル。
 比較的長身の体躯に、滴る雫がキラキラと光るロングヘアと、やや目つきは鋭いながらも綺麗な顔立ち。美しさと水泳選手としての理想体型を両立したその姿は、再び私の目を釘付けにしていた。
「…どうしたの?」
「…はい…?」
「さっきから、じっと私を見つめてるけど?」
 しかし、それからしばらく硬直していた私に、春日さんがウィンクを向けながら尋ねてくる。
「…あ、ちょっと考え事してたから…」
 それを受けて、慌てて目線を逸らせながら返す私。
 まさか、ずっと見惚れてましたと正直には言えないし。
「考え事?ふふ…その割にはずっと視線を感じていたけど?」
「…そ、そんな事は…」
 しかしそんな私の言い訳を、春日さんは今度はからかう様な笑い声と共に追及してくる。
「あら、もしかしてひと目惚れかしら?」
「…え??」
 そして、突然向けられた突拍子も無い台詞に目を見開いて視線を正面に戻すや否や、私の視線のすぐ前に春日さんの姿が迫っていた。
「あ……っっ」
 相手の存在感が急速に高まり、一瞬どきりと高鳴る心臓。
 しかし、春日さんはそんな私に構わず…。
「うふふ…あなたも可愛いわよ?」
「……っ?!」
 そう言うと、今度はくいっと私の顎を持ち上げて私の視線を自分の視線のすぐ前へと運んだ。
「…………」
 何処か威圧感すら纏った様な鋭い目つきなのに、ここでも私が感じたのは畏怖ではなくて、まるで魅了される様な感覚。
 …どちらにせよ、動けなかったコトに変わりは無いけど。
「…………」
「ほら、目が泳いでるわよ?ちゃんと相手の目を見ていないと…どんなコトされるか」
 そんな囁きが届いた次の瞬間、水着越しに胸部を鷲掴みにされてしまう。
「いた……っ?!」
「あらら、やっぱりまだまだ育ってないわねぇ?」
 胸の痛みで思わず顔を歪める私に、からかう様な笑みを浮かべてくる春日さん。
「…あ、あなたに言われたく、ないです…」
「へぇ、なかなか言ってくれるじゃない。そうこなくっちゃね?」
 すると、春日さんは私の頭に手を乗せて前髪をくしゃっと乱した後で、軽くウィンクを1つ向けて立ち去っていってしまった。
「…………」
(カッコいいけど…ヘンな人だ)
 とりあえず、何を考えているのか分からない人なのは確かみたい。
(でも……)
 …また会えるかな?
 そんな思いと共に、私はその場にぼんやりと立ち尽くしたまま、既にプールサイドからいなくなってしまった、綺麗なストレートロングの後ろ姿を思い浮かべていた。

 それから数日後、いつもの様に着替えてプールサイドに向かうと、この前の様に人だかりが出来ている事に気付く。
 …もしかして、またあの人が来ているのだろうか?
「…あれは…?」
 そこで、小走りで向かった人ごみの隙間からプールを覗いてみると、ぷかぷかと、コースロープを枕にして水の上で寝転がっている女性が1人。
「…………っ」
 図々しいとか、傍若無人とかいう言葉で表現するには、それはあまりにも滑稽な姿。
 そしてそれが、先日私が目を奪われてしまった相手だと気付くのに時間はかからなかった。
「…春日…さん…?」
「まったく…春日は相変わらず我が物顔だな。全て自分中心に回ってるとでも思ってるのか」
 そう言って、近くにいたコーチが溜息を落とす。
「…だったら、注意しないの?」
「注意って、あの春日にか?」
 そして、当然の質問を向ける私に、あからさまに嫌そうな顔を見せるコーチ。
「そりゃ、言って聞く様な相手なら苦労はしないけどな…」
「…………」
 情けない。それでも指導者のつもりなのだろうか。大柄な外見だけは偉そうでも、その内心では怯えた子猫の様に震えてるなんて。
 所詮、男なんて虚勢を張るしか能が無いって事だろうか。
「…………」
「…それじゃ、私が言ってみる」
「お、おい…」
 軽い失望感と共に私はコーチへそう告げると、春日さんが佇んでいる場所に一番近いプールサイドへと歩いていく。
「…………」
「あら、この前のコじゃない。どうしたの?」
 やがて近づいた後、手を腰へ当てて見下ろす体勢でじっと見つめる私に、春日さんは余裕たっぷりの顔を向けて尋ねてきた。
「…ど、どうしたのって…」
 そこまで自信たっぷりで先手を取られると、私の方が困るんですけど…。
「こうしてると、気持ちいいわよ。あなたもやってみる?」
 そして、春日さんから向けられた台詞に思わず呆然とさせられてしまう私。
「…迷惑だから、やめて」
「んー?別のレーンを使えばいいじゃない?」
 そこで、どうにか振り絞る様にして出した台詞にも、春日さんはまるで意に介していないとばかりにあっさりと返してくる。
「…………っ」
 …確かに見た目はカッコいいけど、悪い人だ。そう思うと、私の中で次第に腹が立ってきた。
「ここは、みんなのプールだから…」
「だから、みんなに迷惑かけちゃダメっての?お生憎様ね、私はアメリカ式に公共の場では自分の権利を主張するタイプだし」
 そう言って、今度はニヤリとした目を見せる。
「……っ!!」
 信じられない。自分1人の為にみんなが迷惑してるのに、なんとも思ってないなんて。
 何故かそこで、私の心に沸々と怒りの感情が湧いてくるのを感じていた。
「…だったら、誰もいない時間に使えばいいでしょ?!そんなに好き勝手したいなら、出て行ってください…っっ!!」
 驚いた。まさか自分がこんなに感情を爆発させるとは。
 実際に出てきた言葉とは裏腹に、私の内心は呆然としていた。
「出て行け…ねぇ。嫌だって言ったら、どうする?」
 しかし、そんな私の剣幕にも全く動じる様子は無く、春日さんはぷかぷかと身体を浮かせたままで小馬鹿にする様な笑みを見せる。
「そ、それは…」
「何なら、力ずくで追い出してみる?」
 そして、そう言ってくすくすと笑みを浮かべてくる春日さん。
 明らかに、私をからかって楽しんでいるというのは見て取れていた。
「…………」
 そんな態度に、今度は叩きのめしてやりたいという敵意が私の中で一気に爆発していく。
 つまり、これは悔しさ。一時期とは言え、こんな人に憧れてしまった自分自身も含めて。
 …だから、ここで全て振り払なければ。
「…お望みなら」
 その感情に逆らう事無く、春日さんを正面から見据えて短く返してやる私。
 勿論、殴り合いの喧嘩をする訳じゃない。水泳選手同士でその方法は1つだけ。
 …そして、これが私から初めて勝負を挑んだ瞬間でもあった。
「へぇ…言っておくけど、あなたじゃ私には勝てないわよ?」
「…そんなの…やってみなきゃ分からない」
「ま、それもそーね。んじゃ、100メートル自由形で勝負といく?」
「…わかった…」
(…あんな人に、負けちゃダメだ…)
 不思議な位ムキになってる自分に戸惑いを感じながら、鋭い目つきで威圧を込めてくる春日さんの視線を逸らす事無く、私は正面から受けて立つ。
 天才だかなんだか知らないけど、私の方が絶対正しいんだから。

「ああ、タイムは計らなくていいわ。どっちが先にゴールしたかで構わないから」
 その後、2人で隣接した飛び込み台に立つと、春日さんはストップウォッチを持って近づいてきたコーチに声を掛ける。
「あ、ああ…分かった…」
「…私が勝ったら、言う事を聞いてもらうから」
 飛び込み台に上がり、スタートの構えを取る前に、独り言の様にそう呟く私。
「いいわよ。ただし、あなたが負けた時には…覚悟は出来てるわね?」
「…その時は、春日さんの好きにすればいい」
 そこで余裕しゃくしゃくといった口調で返してくる春日さんに、私はまっすぐ前に広がる自分のレーンを見据えながらそう吐き捨てた。
 水泳の勝負で負けるハズが無い。例え相手が年上だろうが天才だろうが…今まで私は誰にも負けない為に全てを犠牲にされてきたんだから。
(負けるもんか…絶対に…)
「それじゃ、位置に付いて…よーい…スタート!!」
 やがて、コーチの掛け声と同時に飛び込む。
(……っ?!)
 しかし私が着水した時、既に春日さんは遥か向こうへと進んでいた。
(…嘘…っ?!)
 しまった。スタートで出遅れた?
 慌てて取り戻そうとするが、彼女との距離は一向に縮まらず、逆にどんどんと離されていく。
(違う…っ、私がミスったんじゃない…力の差があり過ぎるんだ…)
 早くも遥か彼方となってしまった春日さんの後ろ髪を見ながら、思わず目の前が真っ白になる様な感覚に襲われる私。
(く……っ!!)
 しかし、それに飲み込まれてはいけない。勝負とは、ゴールするまで分からないものだし、このペースが最後まで続くとも限らない。
(…落ち着きなさい、私。春日さんの凄さは勝負の前から分かっていたし、並の泳ぎ手じゃないのも分かってた事。だけど…)
 …だけど私だって、今までの全てを水泳につぎ込んで来たんだから…負けるわけにはいかない。
 ここであんな不真面目な人にあっさり敗北したら、一体今までの私は何だったというの…?
 私は必死で自分の焦りに叱咤しながら、がむしゃらに手足を掻くペースを上げていく。
(負けない…絶対に負けない…っ!!)
 オーバーペースで故障したって構うもんか。来週に大会を控えて無理はするなって言われてるけど、ここで今まで積み重ねた私のプライドや意地を失う位なら…っっ。
(…だからお願い、追いついて…っ!)
「…………」
「…………」
 しかしそんな気合も空しく、結局、私が最後の5メートル地点にたどり着いた頃には、春日さんは既にゴールした後で、濡れた髪に勝ち誇った顔を浮かべ、未だに泳いでいる私を見下ろしていた。
(…しかも、スイムキャップも被らずに…)
 あんなに長いロングスレートの抵抗なんて、ハンデにもならないって事…?
(…そんなの…って…)
 やがて、春日さんに遅れること数秒余りでゴールすると、私はそのまま気持ちがプールの底へと沈んでいくのを感じていた。
「…はぁ、はぁ、はぁ……っ」
「…………」
 振り返ってみれば、勝負を挑むには、あまりにも実力が違い過ぎと言える程の大敗だった。
 そしてその結果は、今まで自分の心の拠り所にしていた、私は誰にも負けるはずが無いという自信を一瞬で粉々に打ち砕かれてしまった訳で。
(しかも……よりによって、一番負けたくないと思った相手に)
 こんなにムキになったのは、水泳を初めて以来の事なのに…。
「ま、そういう事ね?」
「……。中学生相手に、大人気ない…」
 呼吸が整った頃合を見計らって、得意気に肩を竦めながらそう告げる春日さんに、自棄っぱちにそう吐き捨てる私。
「あら、手加減して欲しかったの?」
「…………」
 そう。間違いなく、この人は私との勝負で全力を出して泳いだ。実力の差は最初の飛び込みで既に分かっていただろうに、最後まで決して緩める事も無く。
 …人を馬鹿にしていても、水泳に関しては真剣そのものなんだ。
「でもあなた、なかなかいいセンスしてるわね?」
「…それはどうも…」
 でも、負けてしまえば意味は無い。
 いい勝負じゃダメなんだ。これは、両親からもずっと言われ続けている台詞。
「でもまぁ、負けてしまえば同じなんだけど」
 すると、私がそう続ける前にあっさりとそう告げる春日さん。
 それは誇らしげでも無ければ、私に対する侮蔑とかの感情を込めている訳でも無く、淡々と事実だけを述べている様な口調だった。
「…………」
 それでも、自分では理解している勝負の鉄則だろうと、こうしてワザワザ相手に指摘されれば悔しさが倍増してしまう。
「悔しそうね…?」
「……。たった1回位の勝負じゃ、分からない…」
 だからこそか、そうやって負け惜しみも出てくるのかもしれない。
「それもそうね。んじゃ、3本勝負に変更して第2ラウンド行ってみる?」
「い、今じゃ無くて…」
「…でもまぁ、私には一生勝てないとしても、あなたなら良い所まで付いて来れるかもね?」
「…………」
 そんなふてぶてしい台詞にむかっ腹は立つものの、今は反論できなかった。
 再戦を挑むにも、この人に勝てるイメージが、私の中ではまだ生まれていないし。
「ふふ、気に入ったわ。あなた」
 しかし、そこでただ唇を噛んで目の前の相手を睨む私を見て、春日さんは突然不敵な表情を緩めると、ウィンクを飛ばしながらそう告げてくる。
「…はぁ?」
「それで、あなた名前は?まだ聞いてなかったわよね?」
「…せ、瀬名…汐里…」
「汐里ね。私は春日渚。よろしくね」
 そして、促されるがままに名乗ると、今度は先ほどまでとはうって変わった無邪気な笑みと共に、馴れ馴れしく私の手を取る春日さん。
「ど、どうも…春日先輩…」
「ちっちっちっ、渚でいいわよ、汐里?」
 そこで思わず、呆気にとられながらも相手の名を呼ぶと、春日先輩は私の台詞を訂正しながら、濡れた腕を肩へと乗せてきた。
(…う…っっ)
 …何だろう?今、一瞬ドキっと感じた胸の高鳴りは…。
「…そ、それじゃ、渚先輩…」
「よろしい。それじゃ汐里、今日から私があなたを指導してあげるわ」
 そしてそう宣言すると、今度は肩に乗せていた手でバンバンと私の背中を叩いてくる渚先輩。
「…え、ええ…っ??」
「私に勝ちたいんでしょ?だったら、無能なコーチに教わるより、私の側で一緒にやった方が手っ取り早いわよ?」
「…………」
 やっぱり、傲慢で自分勝手な人だ。祖父母や両親の様に…私の最も嫌いなタイプ。
(……でも……)
 何故だか、それも悪く無いって思っている私がいる…。
「う、うん…分かった…」
 そして、まるで私は渚先輩に魅入られてしまったかの様に頷いていた。
「決まりね♪言っておくけど、私は甘くないからね。しっかりと私の後を付いてきなさいよ?」
「…………」
 まぁ、いつか追い越してやるには、その方がいいかな…。


ザーーーーッッ

「…ふう…」
 やがて練習後、シャワー室で疲れを洗い流しながら、私は今日の事を反芻していた。
(…まったく、本当に甘くないのね…)
 まさかあれから、一緒に遠泳を繰り返させられる羽目になるとは思わなかった。
 全力勝負の後だと言うのに、全く容赦が無い。
(…しかも、ちょっとでも遅れると言いたい放題言われるし…)
 本当に、自分主体なんだから…。
「…まぁ、それでも約束通りに面倒見てくれる気はあるみたいだけど…」
 嫌味は言われても、私が追いつくまではちゃんと待ってくれてるし。
 そして、当然ながらうちのコーチが「勝手な真似をしないでくれ」と抗議していたものの、「汐里はあなたじゃなくて私を選んだの。文句ある?」と突き返してしまった。
 まぁ、その時に黙って先輩の後ろに付いて、コーチに何のフォローもしなかった私も私だけど。
(やれやれ、またうちの家族が騒ぎ出しそうね…)
 それでも、何となく痛快といえば痛快だった。彼は所詮、口ばっかりだったし。同じついて行くなら、あの人の方が楽しいし、渚先輩の下で結果が出れば同じ事でもある。
(…それに…)
 どうしてだろう…?ヘトヘトに疲れてしまってるというのに、普段の虚脱感と違って、今は不思議とワクワクしてしまってるし。
 一緒に練習すればする程、渚先輩が凄い人だって事が分かってきたけど、それでも今感じているのは先ほど勝負した時の絶望感じゃなくて、むしろ嬉しく感じている自分がいる。
(やっぱり、自分で決めた目標が出来たからかな…?)
「…………」
「…………」
 そして、これはあまり認めたくはないけど…もしかするとそれだけじゃなくて…。

こんこん

「……?私、使ってますけど…?」
 そんな時、自分が入っているシャワーボックスの入り口がノックされたのを聞いて、一旦流していたシャワーを止めてそう答える私。
 そもそも、シャワーの音で分かろうものなのに、非常識な人だなぁ。
「汐里ちゃん?」
 すると、入り口の向こうから聞こえてきたのは、既に聞き慣れてきていた渚先輩のハスキーながら、意外と女性的な甘ったるさもある、聞き心地のいい声。
「…は、はい…そうですけど…?」
 どうして、渚先輩が…?
「ちょっと話があるんだけど、入れてくれるかな?」
「え?わ、分かりました…」
 後になって思えば、どうしてここで開けてしまったのだろう?どう考えたって、普通に話をするのに向いている場所とは言えないし、猜疑心も抱かず素直に招き入れる理由なんて無いのに。
 それでも、私は慌てて半脱ぎだったスクール水着の肩紐を正しながら、内から掛けていた施錠を開放して、扉を開けてしまう。
「あの…お話とは…?」
「…ありがと♪」
 …そして、そこからは目にも止まらぬ早業だった。
「え……っ?!」
 ドアの前にいた私を再び奥へと押し込む様にして素早く入り込むと、そのまま後ろ手で鍵をかける渚先輩。
「あ、あの、渚先輩…?」
「ふふふ、お邪魔するわよ?」
 その勢いにやや怖気づいく私に、渚先輩が妖艶な笑みを浮かべながら密着してきた。
「…………っ」
 その目は、まるで獲物を捕らえた肉食獣の様で…。
「どうしたのかしら?そんなに怯えた顔をして」
 そして壁際に追い詰められ、完全に逃げられなくなった後で、渚先輩は左手を私の顎へ添えて自分の顔を近づけてくる。
「お、怯えてなんか…ないです…」
 そこで、恐怖感と昂揚の混じった感情に抵抗しながら、視線を逸らせながら反論する私。
「くすっ、そういう気の強い所は嫌いじゃないわ。足元は震えてるのにね」
 渚先輩がそう告げると共に、残った右手が私の太ももの方へと伸びていく。
「……っ!や…あ…っ」
 ダメ、抵抗して逃げなきゃ…。身の危険を感じて私の頭の中では警告ランプが鳴り響いていたのに、それでも身体は動けなかった。
(…渚先輩の手で…撫で回されてる…)
「ふふふ、スベスベの太ももね…顔を埋めて嘗め回しちゃいたいくらい」
「……っ、そんな……っ」
 太ももをなぞる繊細な指先の感触と、耳元で吹き込まれる妖しい囁きを受けて、どきんどきんと痛い位に脈打つ私の心臓。それでも、まるで金縛りにあった様に動けない私の身体はまるで、蛇に睨まれてしまった蛙…いや、この態勢なら、どうやっても逃げられないから…ううん、それも違う。
「ほらほら、どうしたの?もう抵抗は諦めた?」
「あ…っ?!ダメ…っっ」
 やがて、渚先輩の指先が太ももを伝わって付け根の方へ移動してるのに気付いて、慌てて腰をよじって抵抗する私。
「くすくす…必死になって可愛いわね…ゾクゾクしちゃう」
「…悪趣味、変態…っっ」
 前から思ってたけど、この人絶対サディストか、それとも…。
「そうやって、気丈に睨んでくる所がまた可愛いのよね。キスしちゃおうかしら?」
「…あ、あの…やっぱり渚先輩は…その…そっちの趣味の人…なんですか…?」
「あらあら、そんな雰囲気も感じないで私と関わり合いになったの?」
「うう…っっ」
 そこで開き直られても困ります、先輩…。
「…ううん、違うわね。本当はこういう展開になるのを期待してたんでしょ?」
 そして更に、渚先輩は必死で逸らそうとしていた私の視線を強引に自分の方へ引き寄せ、勝ち誇った目を正面から向けながらそう告げてくる。
「…そ、そんなコト…」
「今更、否定したって無駄よ。初めて会った時、ずっと私の背中に向いていた汐里の視線に気付いてないとでも思ってたの?」
「それは、ちが…んう…っ?!」
 しかし、そんなに勝手な言い草に抵抗して首を横に振ろうした所で、水着越し胸を掴まれて遮られてしまった。
「ほら、こんな心臓だってドキドキしてるじゃない?怯えた時の高鳴りじゃ無いわよ、これ?」
「……くっ……」
 …どうして、そんな所だけ勘が鋭いんですか…。
「それに…これだけドキドキしてるなら、この辺とか敏感になってるんじゃない?」
「ひぅ……っ?!」
 渚先輩がそう告げた次の瞬間、胸の先から電気が走った様な強い刺激が走って、私は全身の力が抜けてへたり込んでしまう。
「あらあら。ほら、しっかり立ってないとダメでしょ?」
「…も、もう…許して…」
 そして軽薄な笑みを浮かべながら、強引に手を引っ張って身体を引き起こそうとする先輩に、もう虚勢を張るのも諦め、半泣きになりながら弱々しく訴える私。
 本当に、いろんな意味でこれ以上渚先輩に触れられたらおかしくなってしまいそうだった。
「許してって、本当に嫌なら逃げればいいじゃない?何なら、方法を教えてあげるわよ?」
「…………」
 そんなの、言われなくたって分かってる。
 …そう。本気で逃げたかったら、シャワーを止めて大声を出せばいいだけの話なんだから。
 でも……。
(…声が…出ない…)
 もしかして…逃げられないんじゃなくて、私の本能が逃げ出す事を嫌がってる…?
 このまま、先輩に身を委ねてしまいたいって…。
(くっ、そんなコト…っっ)
「い、一体…どういうつもりなんですか…?」
 そんな自問自答の中、再び瞬間的に沸騰した反発心と共に、私は精一杯強がって見せた。
 …そう簡単に、好きにはさせないんだから…っっ。
「どういうつもりって…今日から一応他人同士じゃなくなったんだから、隠し事はナシにしたいでしょ?それに…」
 しかし、渚先輩の方はそんな私の抵抗も意に介す事も無く、余裕に満ちた表情を崩さないまま、最後の「それに…」の部分に威圧を込めてそう告げる。
「そ、それに…?」
「ふふふ…それに、汐里ちゃんはまだ約束を果たしてくれてないじゃない?」
 そしてそう続けると、渚先輩は伸ばした指先を縫い目の上へと宛がい、ゆっくりと首筋をなぞってきた。
「…あ…っ、や、約束…??」
「そ、負けた方が何でも言う事を聞くって…ね?忘れたとは言わせないわよ?」
「……っっ」
 そう言えば、そうだった。
 元々あの勝負は、勝った方が負けた方の要求を飲むって約束で…。
「どうする?大声出して反故にしちゃう?」
「……。…分かりました…渚先輩の好きにして…いいです…」
 まさか、あの時の会話がここで影響してくるなんて想像もしてなかったけど、それでも勝負は勝負だから…。
 つまり最初から、私には拒否権は無かったという事か…。
「よろしい。それでこそ一流の器ってものよ?」
 すると、観念した私に渚先輩は満足げに微笑むと、再び顎を掬い上げる様にして、自分のすぐ目の前へと近づけてきた。
「……っ、あ、あの…でも…せめて…」
「分かってる。こういうのは初めてなんでしょ?大丈夫よ。大人しくしていれば優しくしてあげるから」
「…………」
 …つまり、逆に言えば下手に抵抗したりしたらどんな目に遭うか分からないと脅されている様なものだった。
(…悪党…っっ)
 中学生相手に…可愛い後輩相手に、優しさのカケラも無しなんて。
 …本当に、最悪な先輩だった。
「それじゃ、まずはその可愛い唇から頂いちゃおうかしら?」
「…………っ」
 最悪なのに…。
 どうして…目を閉じてしまうんだろう…。
「あらあら、もしかしてキスも初めて?」
「…………」
 そんな台詞に、思わず小さく頷いてしまう私。
 これじゃまるで…。
「不服かしら?私が初めての相手で」
「…不服も何も、拒む権利は私には無いですから…」
「ふぅん?どうしても嫌って言うなら、考えてあげるわよ?」
「…うそつき」
「まぁ、嘘なんだけどね」
 そこで、殆ど間伐入れずにそう答える私に、渚先輩はニヤリとした笑みを浮かべてあっさりと覆してしまう。
「…………」
「でも、初めてなのに一方的…ってだけなのもね。本当の所はどうなの?」
「本当のって…あ…っ?!」
 しかし、それ問いただす前に渚先輩の両手が私の胸へと伸びると、そのまま水着の上から感触を確かめる様にゆっくりと指を動かしてきた。
「や…あ…っ…はぁ…っ」
 別に強く押さえ込まれてる訳じゃ無いのに、何故か心臓が握り潰されてしまう様な圧迫感で息苦しくなる私。
「うふふ、色々しちゃうわよ〜?あんなコトとかこんなコトも…ね?」
 そんな私に構わず渚先輩はそう続けると、人差し指で胸の先端を探る様に弄り回してくる。
「ひ…あ…っっ?!」
 そして目的の場所を探り当てると、渚先輩の指が今度は指先で擦る様に刺激してきた。
「…や…っ、そこは…だめ…んくっ!」
「あら、もう水着の上からでも分かる位に固くなってるじゃない?」
「ち、ちが…んっ!」
 しかし強がろうにも、今まで味わった事が無い、身体の力が抜けていく様な強い刺激に唇をかみ締めて耐えるのに精一杯で、反論もマトモに出来ない私。
(…こんなの、ズルい…)
 一方的なのは嫌って言ってる癖に、結局力ずくなんだから…。
「違うって、何が違うって言うの?ん〜?」
「…し、勝負に負けたから…仕方が無いだけです…っっ」
 …おかげで、その勝ち誇った態度がどうにも気に入らなかったけど…結局そう答えるのが精一杯だった。
「ふふ、あくまで強情ね。まぁ、いいわ…これからゆっくりとその心も溶かしてあげる」
 そんなわたしに、胸の先端を弄る手を止めないまま渚先輩がそう告げたかと思うと、次の瞬間、私の唇に生暖かい感触が重なってくる。
「…………っっ?!」
 その、渚先輩が首を僅かに傾けて私の唇を奪うまで、おそらくゼロコンマの世界。驚いて躊躇ったり避ける暇すらなかった。
「…………」
「……ん……っ」
 でも、思ったより違和感も不快感も感じなかった。
 むしろ、この温もりや溶け合う様な一体感が不思議な位に気持ちよく感じてたりして。
(…今まで私にはこういうのは縁が無いって思ってたけど…こんな形で…)
 しかも、同じ女性相手に…。
「…………」
(…まぁ、仕方がないか…)
 気持ち悪いって感じないなら、きっとそういう事なんだろう。
(…むしろ、思ったより悪くないし…)
 しかしそんな心地も束の間、今度は重ねた柔らかい厚みの向こうから、ぬめりけのある柔らかいモノが唇を通って私の咥内へとねじ込まれてきた。
「…………っ?!」
(ち、ちょ……っ)
 さすがに、いきなりそこまでは…と慌てて抵抗を試みるものの、突き放そうとした腕を先に掴まれ、更に顔全体で奥まで押し込む様にして、私の舌と絡め合わせようとしてくる渚先輩。
「ん…ふぅ…んん…っ?!」
 ちょっと…苦し…。
「んふふ…ほら、逃げないの。これが大人のキスってものよ…?」
「…………っっ」
 くちゅくちゅと淫猥な音を響かせながら、生き物の様に私の口内を蹂躙していく渚先輩の舌遣い。
 こんなのイヤ…と、心はそう思いながらも、身体の方はまるでじわじわと毒が回るかの様に抵抗する力を奪われていった。
「…………」
 やがてその毒は私の身体を痺れさせ、思考すら奪われていく様な感覚と共に、私の身体は渚先輩の為すがままになっていく。
「…はぁ…く……っ、んふぅ…っっ」
「…………っっ」
 薄く開いたままの口元から涎が零れてるし、息苦しいのに…。
「…んん…っ、はふぅ…っっ」
 でも…もう少しだけなら、このままでいいかなって自分もいて…。
「…………」
「…ぷぁ……っ、はぁ…はぁ…っっ」
「んふふ…ごちそうさま♪」
 やがて長い時間の口付けの後で、2人分混ざりあった唾液の糸を引きながらようやく私を解放すると、満足そうな笑みを浮かべる渚先輩。
「……。初めてなのに、いきなりここまでするなんて…」
 一応、次第にイヤでもなくなったけど、それでも文句の1つも言わずにはいられないと言うか。
「ふふ、あんまりにも汐里ちゃんの唇が美味しそうだったから。ついつい貪っちゃったわ」
 すると、それに対して更に軽く舌なめずりをして見せながら、全く悪びれる様子もなくそう告げる渚先輩。
「…………」
 お陰で、こっちはショックと酸素不足で頭がぼ〜っとしているんですけど…。
「…ほら、ぼんやりしてる暇は無いわよ?むしろ、ここからが本番なんだから」
 そして、渚先輩はそんな私に構わずそう続けると、ぼんやりとしている私の肩口に手を伸ばし、両方の肩紐を同時にスライドさせていく。
「…………っ?!」
 そこで、ようやく我に返って慌てて逃げようとするものの、時既に遅し。
 胸元まで下ろされてしまったスクール水着に縛られる形で、自分の乳房が先輩の目の前で露になってしまったのと同時に、両手の動きも封じられてしまった。
「あ…っ、く……っっ」
「今更抵抗しても無駄よ。旧タイプのスク水は伸縮性を犠牲にしてる代わりに、頑丈なのが取り柄なんだから」
 その後、何とかもがいて見せる私に、ご丁寧な解説交じりにちっちっちっと指を左右に揺らせる渚先輩。
「…悪趣味…っっ」
 わざわざこんなコトしなくたって、もっと優しくさえしてくれたら…。
「何とでも言いなさい。それにしても…ふふ、丸みを帯びた小さな膨らみかけ…それに、乳首も小さくて綺麗な桜色だし…ホントに可愛いわよ、汐里ちゃん?」
「……っ、そんなにじろじろ見ないで下さい…恥ずかしいです……」
 そんな呟きと共に私の乳房を舐める様に凝視する渚先輩の目は据わっていて、恥ずかしさと幾分かの恐怖心、そして何やら脊椎がジンジンとする様な感覚で、身体が熱くなっていく。
「そして、頬を染めながらもか細く訴える、その恥じらいがたまらないのよねぇ。うふふふふふ…」
 そう言って、渚先輩はわたしの胸に手を触れながら再び自分の顔を近づけると、視線を逸らせる私の頬に口付けした後で首筋へ舌を這わせてきた。
「ひ…ぁ…っ、あの、だから…んく…っ!」
「形だけじゃなくて、手触りも最高ね。仕事してるわ」
「は…ぁ…っ、あ…くぅ…っっ」
 しかし私の願いに反して、なんかもう渚先輩の台詞回しも目つきも行動も、完全に変態さんのそれになっていたりして。
「やっぱり、女のコの胸ってのは大きければいいってもんじゃないわよね。大切なのは形と、手触りと、感度と…」
「…そ、それって、ん…っ、もしかして…自画自賛も入ってません…?」
 それが何だか自分自身に言い聞かせてる様に聞こえた私は、ちらっと渚先輩の胸元へ視線を移しながらそう呟く。
「あら、言ってくれるじゃない?…ふふ、まぁいいわ、すっかり固くなってる可愛いつぼみちゃんの感度の方はどうかしらね?」
「…え……?…んひぃ…っ?!」
 渚先輩がそう告げた次の瞬間、両胸の先端を同時に爪先で掻かれた感触と同時に、私の全身に身体が仰け反ってしまう程の電気が走る。
「あ…ああ…っっ」
「ふふふ…どうやら悪くなさそうね。まぁ、スクール水着の上からでも分かる位に固くしてたんだし」
「…く…っ、あ…っ、ダメ…っっ」
 むしろ、さっき水着の上から散々弄られた所為だと思うんですけど…っっ。
「これは調教し甲斐がありそうね。ほら、こうするとどうかしら…?」
 そして、強い刺激にびくびくと身体を震わせる私を見て、ニヤニヤとイヤらしい笑みを浮かべながら小刻みな指遣いで休む事無く弄り回してくる渚先輩。
「や…は…ぁ…ん…っ、ふぁ…っっ」
 ダメ…っ、唇をかみ締めて我慢しても、喘ぎが漏れてしまう…。
「ねぇ、気持ちいい?」
「…そ、そんなの…分からない…っ」
 自分でも良く分からない言い分だけど、でも素直に認めるのは癪に障る以上はこんな言い方しか無いのも確かだったりして。
「分からない…?そんな曖昧な受け答えは嫌いよ?」
 しかし、そんな私の台詞に渚先輩は尖った視線と冷酷な口調でそう告げると、突然胸の先端から押しつぶされる様な鋭い痛みが走った。
「いぐ…っ!…い、痛くしないで…ください…」
 いきなりつねるなんて、酷い…。
「それじゃ、正直に言いなさい。ねぇ、どうなの?」
「…き、気持ち…いいです…」
 その後で、更に幾分の威圧を込めてもう一度尋ねられてしまえば…そう答えるしかない。
「ふーん。何が気持ち良かったの?」
「…………。な、渚先輩に…胸…弄られて…気持ちいいです…」
「そう。それじゃ、もっとして欲しい…?」
「…………」
 …ううっ、今一番聞かれたく無かった言葉だけど…。
「……して、欲しいです……」
 でも、そう答えるしかなかった。
 逆らったら酷いコトされるっていう恐怖心だけじゃなくて、たとえ素直に言いたくなくても、もっとして欲しい…って願う自分も確かにいたから…。
「…そうそう、そうやって素直になればいいのよ。…だったら、お望み通りにもっといいコトしてあ・げ・る」
 ともあれ、ようやく渚先輩も満足したのか、妖艶さと幾分の優しさを込めてそう告げた後で、口元を私の胸元へと近づけると、さっきまで指で散々弄り回されていた先端部へ向けて舌を伸ばしてきた。
「…あ……」
 それが頂点へと近づくにつれ、ドキドキと心臓が高鳴ってくる。
 もしかして今度は…渚先輩の舌で…。
 さっきキスした時も、柔らかくて気持ちよかったし…それでこんな敏感なトコロを舐められたら…。
「や…あ…っ!」
 そして伸びた舌先が右の乳頭へちょんと触れた瞬間、再び、私の身体にぴくんっと電気が走った。
 瞬間的な刺激そのものはさっきの指程じゃなかったものの、その代わりになんとも言えないゾクゾクとする様な感覚が脊椎を突き抜けていく。
「あ…あ…っ、ひ…ぁ…あ…っ」
 それから、味わう様にねっとりと周囲を舐め回してくる渚先輩。先程私の口内を蹂躙した舌遣いが、今度は私の敏感な乳頭に絡みついていた。
 …それはまるで、脳髄を掻き回される様な刺激。
「んふ…っ、汐里ちゃんの乳首、おいしいわよ…ちっちゃくて、コリコリしていて…」
「あひ…っ、く…あ…っっ、はぁ…っっ」
 やがて、舌を尖らせて先端を重点的にぐりぐりと攻めたり、唇で挟んだり軽く吸ってきたりと、愛撫のバリエーションが増えていき、弥が上にも息が荒くなっていく私。このままだと、シャワーの音で誤魔化せなくなりそうなのに…何だかそんな事もどうでも良くなってきているというか…。
「ふふふ、ちゃんとこっちも弄ってあげるわよ」
「んふぅ…っ、あ…ん…っ、あ…ふぁぁぁ…っっ!」
 更に、もう片方の胸も同時に渚先輩の右手でいじり回され、それぞれの刺激が相乗効果となって私の心と身体を攻め立て、頭の中が真っ白になっていく様だった。
「…はぁ…はぁ…っっ、こ、こんなの…」
「でも、指よりも気持ちいいでしょ…?」
「…ん…ふぅ…っ、き、気持ちいいです…けど…」
「けど…?」
「…………」
「…な、何でもありません……っ」
 そこで、少しオーバーアクション気味にぷいっと渚先輩から視線を逸らせる私。
 …このままだと、何だか癖になっちゃいそうなのが困るんですけど…。
「くすっ、別に癖になっちゃっても、私は全然構わないわよ?」
 すると、私の閉ざした言葉を悟り、ニヤリとした笑みと共にそうのたまう渚先輩。
「…わ、私が困るん…っ!…です…っっ」
 こういうのは、相手は誰でもいいって訳じゃ無いんだから。
「んじゃ名残惜しいけど、そろそろメインディッシュの方へ移行しようかしらん」
「め、メインティッシュって…?」
 その響きに、心臓がどきんと大きく跳ねた後で、戸惑いがちに尋ねる私。
 …勿論、わざわざ尋ね返す様な事でも無いのは分かってるけど…。
「もちろん、ここよ、コ・コ♪」
 すると、にっこりと笑みを浮かべる渚先輩の右手が、私の下腹部、つまりスカートの下へと伸びてくる。
「やぁ…っ、そこは……」
「あらあら、そこって何処かしら?」
 思わず身をよじってしまう私に、今度は口元を僅かに歪めた邪悪な笑みへと変貌していく渚先輩。
「…………っ」
 意地悪……っっ。そんなの言えるワケないのに…。
「汐里ちゃんが言えないなら、かわりに説明してあげよっか?」
 そして、渚先輩の指先が布地を通して軽く触れると、もぞもぞと無作為に指先を動かしてくる。
「…そ、それもダメ…です…あ…っ」
「あらあら、水着の上からでも熱くなってるわね?もうすっかり準備はOKかしら?」
「はぁっ、はぁ…っっ、何の…準備ですか…っっ」
「ふふ…勿論、この私に美味しくいただかれちゃう準備が、よ?」
「…う〜〜っ…」
 今まで、誰にも見せた事も触らせた事も無いのに…。
 触れる前に、心の準備をする暇すら与えてくれないなんて。
「まさか、今さら嫌です…なんて言わないわよね?」
「……悪党……っっ」
 しかも、ずるい。
 ここぞという時には、そんな言い方で押してくるんだから。
「そりゃどうも。私にとっては褒め言葉ね。それで…いいんでしょ?このまま続けても」
「…………」
 別に最初から覚悟を決めてなかった訳じゃ無いけど…。
 それでも言葉で返すのを躊躇った私は、しばらくの間を置いた後で小さく頷いた。
「ふふふ、可愛いわよ、汐里…それでこそ私の…」
 そこで全て喋り終える前に、もう一度、渚先輩の唇が私の唇と重なり合う。
「…ん……ふぁ…っ?」
 しかし、今度はさっきと違って短めのキスだった。
 それはまるで、約束でも交わしたかの様な…。
「それじゃお許しも出たし、改めて見せてもらおうかかしらね?」
「…で、でも…っっ、勘違いしないで…っ、これは…」
 そうなれば、当然私としても、調子に乗り過ぎないでと釘を刺しておかなければならないというか。
「はいはい、勝負に負けたから…でしょ?」
 しかし、渚先輩は意に介さないといった感じで軽く受け流すと、腕を封じる様に半端にずらせてた肩紐をお腹の辺りまで下ろして、私の両手を解放した。
「…あ、あの……?」
「ほら、しっかり手で支えておきなさいよ?」
 渚先輩の意図が分からず、どういうつもりが尋ねるものの、その答えが言葉として返ってくる前に、私は強引に右の太ももを大きく持ち上げられてしまう。
「え?…やあ…っ?!」
 ち、ちょっと…こんなカッコ…恥ずかしい…っ。
 右足が浮いて身体のバランスが崩れかけた所で、慌てて両手を伸ばして壁に手を付いて支えたものの、これだとある意味、別の態勢で縛られてるのと変わらなかった。
「ふふふ、いい格好ね。この状態でココをぺろーんとめくっちゃえば、どうなると思う?」
 そして、しゃがみこむ様にして股間のすぐ前まで顔を持ってくると、空いた右手の指先で布地の表面を弄りながら尋ねてくる渚先輩。
「……ま、丸見えに…なります…」
 そんな返事を返すと、まだ見られてる訳じゃ無いのに、私の顔が火が点いた様に紅潮していく。
(…変態…っっ)
 めくるならさっさと捲ってしまえばいいのに、ワザワザそんなコトを尋ねてくるなんて…。
「…………」
 でも…どうしてだろう…?嫌悪感どころか、心臓を更にドキドキと高鳴らせながら、先輩の次の動きを待っている私がいた。
 シャワー室に乱入してきての渚先輩は、美女の皮を被った変態オヤジそのものなのに…。
「ところで、汐里ちゃんってどの位生えてるの?処理してる?」
 しかし、そんな私に対して渚先輩は更に調子に乗って、今度は窪みの辺りを指先でぐいぐいと押し付けながらそう続けてきた。
「…んあ…っ!し、知りません…っっ」
「知らない?…教えてくれなきゃ、直接確かめちゃうわよぉ?」
「…………」
 ううっ、最初からそのつもりのくせにっっ。
「まぁいいわ…そろそろ、ご開帳〜♪といきましょうか」
 やがてもう暫くの間、ぐりぐりと指先を押し付ける様に感触を確かめた後でそう告げると、スクール水着の股布を指で引っ掛け、くいっと横へとスライドしていく渚先輩。
「…………っっ」
 とうとう、自分の一番恥ずかしい部分が渚先輩の目の前で露になってしまった。
「…あら…あらあらまぁ…」
「…や…ぁぁ…っっ」
 しかも、こんな片足を上げて大股開きの状態で…丸見えに…。
「おおお…タテスジ1本の可愛いワレメちゃんが…ホントに天然の無毛だし、変色もしてないし…すごいわね、これは…」
「…いっ、いちいち言葉にしないで下さい…っっ、それと、あまりジロジロ見ないで…っっ」
 そして、感嘆の溜息と共にしみじみと解説する渚先輩に、顔が真っ赤に茹であがるのを感じながらそう訴える私。
(…もう、ホントに変態、悪趣味…っっ)
 息が吹きかかる位の近くで、そんなにじっくり見るなんて…っっ。
「だって、こんなに綺麗なワレメちゃんなんて滅多に見られないし、じっくりと味わう様に拝見しないと、失礼ってもんでしょ?」
「…そっ、そんなコト…やあっ、広げないで…っっ」
「中も薄いピンク色で、とっても綺麗よ…なるほど、ちゃんとバージンなのね…?」
「く……っっ」
 しかし渚先輩は私に構わず、今度は指でゆっくりと広げながら、奥まで凝視していく。
 そしてその渚先輩の視線は、触れられてもいないはずなのに、何だか物理的な感触となって私を刺激していた。
(…やぁ…っ、そんなに見られたら…)
 なんだか、下腹部から熱いモノが込み上げてくるみたいな…。
「いいわねぇいいわねぇ。正に未発達のつぼみちゃん…て、あら?」
 その後、指先がほんの少しだけ私の中へ埋もれた所で、渚先輩の指がぴたりと止まる。
「〜〜〜〜〜っ」
 ううっ、バレちゃった…。
「…あららら、中はもうぐっしょりじゃない?イヤらしい娘ね…ほら、見える?」
 それから、窪みの入り口付近を指先で軽く掻き回した後でゆっくりと引いた渚先輩の指先から、唾液にも似た透明な粘液が糸を引いた。
「…いや…見ないで…ください…」
「さっき乳首を弄られて、こんなになっちゃったのかしら?それとも、こんなに間近で一番恥ずかしいトコロを奥まで私に見られたから?」
 そんな台詞と共に、渚先輩は離した指を再び少しだけ私の中へ埋め込ませると、ワザとくちゅくちゅと恥ずかしい音をたてさせながら掻き回していく。
「ふふ…もしくは、キスの時からもう濡れてたりしてね?」
「…し、知りませ…あ…っっ!は…あ…っ、やぁ…っっ」
 今まで指なんて入れられた事がなかったのもあって、怖さも半分だったけど、それでもジンジンと痺れるような刺激に耐えるのが精一杯で、抵抗する力は沸いてこなかった。
「ほらほら、どんどん溢れてきてるわよ?幼いワレメちゃんからこんなにエッチな音立てて…」
「はぁ…はぁ…っ、でも…ちょっと怖いから…あんまり…」
「はいはい、分かってるわよ。バージンの女の子に無茶はしませんって。…でもこの感じ具合じゃ、自分で弄ったり位はしてそうね?」
「…そ、そんなの…無い…んっ、です…っ」
「ホントかしら?最近の子はオナニーくらいは知ってると思ったんだけど…」
 そんな囁きと共に、渚先輩の指先が入り口の表面を通って、一番先へと伸びていく。
「んじゃ、クリトリスも自分で弄ったコトないの?」
「…いひぃ…っ!あ…ああ…っっ」
 そして、粘液で濡れた指先が目的の部分へと触れた時、私の身体に今までにない瞬間的な強い刺激が走る。
「こんなに敏感なのに、勿体無いわねぇ。気持ちいいコトは、積極的にならないと損よ?」
「…し、知ってはいたけど…今まで練習ばかりで、そんな暇無かったし…」
「そうやって、自分から世界を閉ざしちゃってるのは良くないわね。アスリートの資質としても好ましいとは言えないわよ?」
「…べ、別に…私が閉ざしてたんじゃなくて、親に無理やり…」
 だって私は…生まれた時から自由なんて無かったんだから…。
「違うわ。きっかけはどうあれ、実行したのは自分自身。当然、それに対する結果も責任も自分自身が享受するものよ」
 しかし、渚先輩はそんな泣き言をぴしゃりと遮ると、見上げた鋭い視線で私を見据えた。
「…そ、それは…」
「例えば…そうねぇ。今こうして汐里ちゃんが私の前で一番恥ずかしいトコロを大股開きで晒しているのも、私の事を良く調べもしないで、その場のいきり立った感情で勝負を挑んできたりするから、こういうコトになる訳であって」
「…………っ」
 それは…単なる居直りと言うんじゃないでしょうか、渚先輩…。
「勿論、今日ここに至るまでの過程には、汐里が水泳を習っていた事、そして元日本代表選手なんて肩書きを持つ親から問答無用で仕込まれて、中途半端に誰にも負けられないって自負を持ってしまった事など、不可抗力に近い因果の影響で辿り着いたのは否めないかもしれないけど…それでも今現在、この場で私に襲われちゃってるのは一体誰なのかしら?」
「…………」
 そんな事、言われなくても分かってる…つもりだったのに…。
 でも、言葉が出なかった。過程がどうあれ、渚先輩に勝負を挑んだのは確かに私だったし、負けたら何でも言うことを聞くという口約束を交わしたのも私。元々の根元である私に水泳以外の道を閉ざした両親には、殆ど何の影響もない…。
「…まぁいいわ。せっかくだから、その辺は私がしっかり解放してあげる。所詮、世の中やっちゃったもん勝ちってね?」
 そこで黙り込んでしまった私へ一方的にそう告げると、持ち上げた左手を更に伸ばして広げた後で、自分の顔をその奥にある私の秘所へと埋めてきた。
「え…あ…っ?!やぁ…っっ」
 そして心の準備をする間もなく、ぬるりと先ほど乳頭を這いまわった柔らかい感触が入り口のクレパスをなぞる様に這い回り、やがては舌先から少しずつ中へ入っていく。
「だっ、ダメ…そんなトコ舐めちゃ…あひぃ…っっ!」
「ほらほら、あまり大声を出すと、隣の人に聞かれるわよ?」
「……っ!…うく…っっ」
 意地悪…っ、だったら、そんなに強く掻き回さなくてもいいのに…。
「はぁ…はぁぁ…っっ、こんなの…はぁぁ…っっ」
 先程の指と違って、渚先輩の舌はいきなり容赦なしといった感じで激しく暴れ回り、先程より遙かに強い刺激が私の身体を熱く火照らせていく。
 このままだと声が抑えられないって分かってるのに…それでも動けない。
 …いや、正確にはもう余計な事は何も考えないで、このまま渚先輩の愛撫に溺れてしまいたいという気持ちが高ぶってきているというか…。
「ん…っ、汐里のお汁、美味しいわよ…?それに、どんどん溢れてくるし…」
「あ…ふぅ…っ、んあっ、はぁぁぁ…っっ」
(私のアソコ…渚先輩にこんなに激しく舐められて、掻き回されてる…あの渚先輩に…)
 そして何より指でされた時と違うのは、ぬめぬめと柔らかい舌の感触の良さだけでなく、自分の一番恥ずかしいトコロを舐められてるという事実そのものが、私に言い様のない興奮を与えていた。
「…………」
 もちろん、その理由まで考えてしまうと癪には障るけど。
「どう…?初めて自分のワレメちゃんを舐められてる感覚は?」
「…ん…っ、何だか、ヘンな感じ…はぁっ…です…」
 何だかくすぐったくて、すごく恥ずかしくて…そして、心の芯からゾクゾクしてきて…。
「ヘン?これでも女のコを喜ばせるテクニックには自信があったんだけど?」
 そう告げると、今度は渚先輩の舌先がクリトリスへと移動して、包皮を指で剥きながら、その中にある敏感な肉芽を狙って転がす様に小さく円を描いていく。
「ひぁ…っ?!や…っ、そこは…刺激が強すぎて…あん…っ!」
 その痙攣してしまう程に強い刺激を受け続け、私は声を抑えるどころか、身体を支えている支える手や左足に力が入らなくなってきていた。
「…あっ、ああ…っ!…だめ…らめぇ…っ!」
「ほらほら、これで落ちない女の子なんていなんだから♪」
「…あひっ!…そ、そんなコト…今、自慢しないでくださいっっ」
 デリカシーがないにも程があるというか…。
「あら、ジェラシー?」
「…ち、調子に乗らない…んっ、でぇ…っっ」
 誰が…貴女みたいな人に…っっ。
「ちっちっちっ、甘いわねぇ。調子に乗ってるってのは、こういう事を言うのよ?」
 すると、渚先輩は小さく首を振った後で、包皮をめくっていた右手を離すと、ずらせたクロッチからスクール水着に包まれた奥の方へと素早く潜り込ませてくる。
「…え…?…い、いや…っ、そんな所まで…」
 その渚先輩の手が、一体私の身体の何処を目指しているかはすぐに分かった。間違いなく、その行き先は…私のお尻の谷間。
「そんな所って、どこの事を言ってるのかしら?」
「そんなの、言えな…んあ……っ?!」
 しかし、そんな会話が終える前に、私の身体は再び電気が走った様にぴくんと跳ねた。渚先輩の指先が触れたのは、お尻の谷間の一番奥にある…。
「ら…めぇ…っ、そこは…ぁ…っ」
 右手の2本の指でお尻を軽く開きながら、潜り込ませた中指でお尻の穴の周囲をグリグリと弄り回し始める渚先輩の指先の感触に、私の身体は左右にビクビクと揺れながら過剰反応していく。
(…なに、この感覚…)
 自分でも戸惑いを感じるほど、渚先輩にお尻を弄られて感じてる…。
 …どうして…。一番恥ずかしくて…屈辱的なコトのはずなのに…。
「あらら、こっちの方も随分と敏感なのね?もしかして、Mの素質があったりして」
 それを見た私の反応に、ニヤリと嫌らしくも心底楽しそうな視線を上目遣いで向けてくる渚先輩。
「か、勝手な事言わないで…いぐ…っ?!」
 そこで渚先輩の言い分にムカっときた私は気丈に反論しようとするものの、その前に中指が突然強く押し込められ、窄まったお尻の中へと強引にねじ込まれていく。
「いた…っっ、痛いです…やめて…ぇ…っ」
 その慣れない遺物感と痛みに、一瞬で気丈な気持ちは消え失せ、泣きが入ってしまう私。
「…あら、ゴメンなさい。やっぱり、この態勢じゃ無理があるわね」
 すると、そんな私を見て渚先輩はあっさりと右手を水着の中から引っ込めると、持ち上げていた左手も下ろして解放してしまった。
「…はぁ…はぁ…っ、もしかして、終わりですか…?」
 自由になったはいいものの、そのあっけなさに少し呆然としながら、私は着衣も整えないまま、目の前で乱れた髪を整えている渚先輩にぼそりと尋ねる。
「ええ、さすがに持ち上げてた左手も痺れてきたしね」
「…………」
 なんだかホッとした様な、不完全燃焼ですっきりしない様な…。
「…それじゃ少し待っててあげるから、水着を脱いでこっちにお尻を向けて広げて見せなさい。今度は後ろからしてあげるわ」
 しかしそんな空気も束の間、髪を束ねて整えた渚先輩から、そんな爆弾発言が飛んでくる。
「…え、ええ…っ?これで終わったんじゃ…」
「さっきの無理な体勢でするのは終わったってだけよ。まだまだ、こんな中途半端な所で止める訳なんてないじゃない♪」
 そして、困惑の顔を見せる私に、迫力を込めた満面の笑みを見せる渚先輩。
「……っっ、だからって…」
 よりによって、四つん這いになって…広げて見せろだなんて…。
「ほらほら、文句言わずに従うの。汐里ちゃんは勝負に負けたんでしょ?」
「…悪党…っっ」
 ホントに…信じられない…っっ。
 …信じられない…けど…。
「……。わ、分かりました…」
 でも、確かにこれは約束だから…。
 渚先輩が見たいって求めてくるなら、私は逆らう事は出来ないから…。
「ふふ、いい子ね…思わず、愛してるなんて言っちゃいそうよ、汐里?」
「…ぬ、脱いでる時にヘンな事言わないでください…っっ」
 こんな時に、渚先輩からそんなコト言われたら…私は…。
「…あ、あの…脱ぎました…先輩…」
 やがて、言われるがままにスクール水着を脱ぎ捨てると、握りつぶされる様に脈打つ心臓からの圧迫に耐えながら、腕組みでニヤニヤとした嫌らしい目を向ける渚先輩へ上目遣いをしてみせる。
 殆ど隠している効果はなかったとは言え、先程までの半脱ぎ状態と、一糸まとわぬ裸になった今では、渚先輩から受ける視線の感触はまるで違っていた。
「ふふ、脱いでもスクール水着の日焼け跡がくっきりね。とっても綺麗よ、汐里…」
「…恥ずかしいから…あまり見ないでください…っ」
 うう…っ、胸とか下腹部とか…自分の目で渚先輩の視線を追わなくても、見られている部分がはっきりと分かるくらいに、視線が熱い…。
「何言ってるのよ?今からもっとイヤらしくて恥ずかしい格好して見せてくれるんでしょ?」
「…は、はい…」
 そして促されるがまま、私は先程の命令通りに顔を壁の方へ向けてお尻を差し出すと、自分で双丘を広げ、今まで誰にも見せたコトの無い部分を渚先輩の前へと晒していく。
「…こ、これで…いいですか…?」
 恥ずかしさと屈辱感と、そして開放感の様な感覚が混ざって、私の両足は震えていた。
「ええ、つるつるの可愛いワレメちゃんに、きゅっとすぼんだお尻の穴までよく見えるわよ?」
「…………っ」
 意地悪…っ、変態…っっ。
「色も黒ずんでないし、綺麗なピンク色ね…ホント、誰にも見せた事が無いってのが勿体ないくらい」
 しかし、羞恥で身体をプルプルと震わせていた私に構わず、今度は自分の手で広げて、私のお尻の穴をじっと間近で凝視する渚先輩。
「…そんなにジロジロ見ないで…はぁ…っ」
 そんなに近いと…息も吹きかかってくすぐったいし…。
「初めて見た時から、美味しそうなコだと思ってたけど…想像以上ね。あの日本人離れした野獣の様な風貌で有名だった瀬名巌(いわお)から、こんな娘が生まれるなんて、お母さんの遺伝だけ受けたのかしら?」
 そう言って、渚先輩は掴んだお尻をくすぐってくる。
「…ひっ!…し、知りません…っっ」
 こんな時に、親の話なんて出さないで下さい…っっ。
「それで、お尻で感じるようなエッチな娘に育ったのは、一体どちらの遺伝なのかしらね?」
 そして渚先輩がそう告げると、ぽたりとお尻の穴の上へ粘液の様なモノが落ちた後で、私のお尻の穴へぬるりとしたモノが触れてきた。
「あひぃ…っ?!」
 その瞬間、ぴくんっと私の身体が跳ねる。その、くすぐったさを高密度に凝縮したかの様な未知の刺激は、私の目から火花が散るかの様な強い快感だった。
「あら、やっぱり敏感ね?嬉しくなっちゃう」
 それから、渚先輩の舌は休む事なく、周囲のしわを辿る様にじっくりと舐め回していく。
「あ…ああ…っ、うああ…っ、らめ…ん…っ!」
 そんなにされたら…おかしくなっちゃいそう…。
 私に残った最後の理性の砦まで壊れてしまいそうで…。
「ふふ…いい声で鳴くじゃない?それだけで私まで濡れちゃいそうよ?」
「はぁ…はぁ…っ、だって…こんなの…はひぃぃ…っっ」
 もうダメ…とても声なんて抑えてられない…。
「それじゃ、こういうのはどうかしら…?」
 やがて、入り口を嘗め回していた柔らかい舌先が固くなると、ぐいっと押し付けられる様にしてお尻の中へと入り込んでくる。
「や…っ!…あ…ダメ…っ、舌入れちゃ…んっ!」
「さっきと違って、痛くないでしょ?」
 その後、そのまま舌先で入り口周辺を出したり引っ込めたりしながら、両手に掴んだお尻を揉みしだく渚先輩。
「…あん…っ、は…はぁぁ……っ、確かに…痛くないですけど…んく…っ!」
「けど、なぁに?」
「…………」
(そんなコトまでするなんて…本当に、変態…っっ)
 何か、身体の隅々まで渚先輩に蹂躙されていく様で…。
「はぁ…っ、あはぁ…っ、んん…っっ」
「ふふふ、こんな弄り甲斐のある可愛いコが私だけのモノになるなんて、今日は本当にツイてる日だったみたいね」
 やがて舌先の出入りがしばらく続いた後で、渚先輩は不意に顔を上げると、両指でお尻の表面を軽く擦るようにしながら、嬉しそうにそう切り出してくる。
「…だ、誰が先輩だけのモノだって…んあ…っ?!」
 ちょっと…それ…凄く…くすぐったいんですけど…。
「敗者が文句を言う資格はありません。違うのかしら…?」
「…………っっ」
 そ、それは…確かにそうかもしれないけど、でも…。
(コトあるごとにそればっかりで、ずるい…)
 それを盾にしてるんじゃなくて、私の心に「仕方がない」って逃げ場を用意してるんだから…。
「ま、精々覚えておきなさいね。勝負に負けるってのは、こういう事よ…ってコトで」
「…正確には、渚先輩の様な人に負けたらじゃ…」
 普通の人は、いたいけな中学生相手にこんなコトまでしません。
 …多分。
「ふふふ、そうね。…私は気に入ったら、ノンケでも平気で食っちゃう女だから」
「…………。今まで、一体何人の女の子を襲ったんですか…?」
 そして、同じ様にこんな恥ずかしい格好をさせて…それで…。
「ん〜、いちいち数えたりしてないから分からないけど…やっぱり、やきもち?」
「ち、違います…っっ」
「でもまぁ、こうやってお尻の穴まで舐めたいって思った女の子はそうはいないかな?」
 そう告げると、小休止していた渚先輩の舌が、再び私のお尻を這い回っていく。
「んあ…っ、はぁ…はぁぁ…っっ、あんっっ」
「はぁ…はぁ…っ、はあああ…っ」
 最初に触れられた時から少し慣れたお陰で、刺激そのものは弱まってきたものの、今度は別の要因が私に快楽を与えていた。
「うふふ、すっかりお尻の快感の虜って感じね。気に入って貰えて嬉しいわ」
「…そ、そんなコト…んんあ…っ」
「だって、イヤなら腰を引いちゃえばいいのに、さっきから逆に自分からお尻を付きだしてねだってきてるじゃない?」
「…そんな…私、そんなつもりじゃ…」
 少なくとも、意識の上ではそんなコトしてるつもりは無かった。
 無いんだけど…。
「ほらほら、いい加減正直になっちゃいなさいよ。憧れの先輩にお尻の穴をじっくり舐められて嬉しいんでしょ?」
「……っっ…そ…っ」
 そんなコトは断じて無いです…っ!
 …そう突き返して、腰を引いて渚先輩の舌から逃れてしまえば意思表示も出来るのに…。
「…はぁ…はぁ…っっ、ふぁぁぁ…っ」
 でも…動けなかった。
 …ううん、悔しいけど…動きたくないんだと思う…。
「ふふふ、大丈夫よ?汐里ちゃんなら、十分本命クラスだから」
「…………っっ」
 だから、違うのに…。
 …そんな軽い言葉を真に受けて、嬉しいなんて思っちゃダメなのに…。
「…先輩…信じちゃいますよ…?」
 絶対に言葉にするつもりはなかったハズの台詞が出てしまう。
 こんなコト言っても、つけ上がらせてしまうだけというのは分かってるのに…。
「ええ…いいわよ。素直で可愛い汐里ちゃんには、これから私が天国へ連れてってあげる」
 すると、渚先輩は一度私のお尻に埋めていた顔を上げると、静かにそう答えた。
「…え…?」
「そろそろ、いいかしら…」
 そして、指先を渚先輩の唾液でヌルヌルになったお尻の穴の入り口へと伸ばし、しばらくペタペタと音をたてながら慣らしていたかと思うと、不意に指先へ力が込められて私の中へと入ってくる。
「んひ…っ?!」
 同時に、先程感じた異物感が私を襲うものの、先程の時の様な痛みは感じなかった。
「今度はちゃんとほぐしたから、痛くはないでしょ?」
「…は…あ…んっ!…い、痛くは…ないですけど…」
 やっぱり、慣れない異物感で落ち着かないというか…。
「最初は戸惑うだろうけど、すぐに良くなるわ。前の方がバージンで無茶できないけど、その分こっちは大丈夫でしょ?」
 戸惑う私に渚先輩はそう告げると、挿入した指をゆっくりと出し入れし始める。
「や…あ…っ、やめて…ん…っ!…くださ…はあ…っ!」
「…そう焦らないの。慣れてくる頃にヤミツキになる快感だってあるのよ?これもその1つなんだから、少し位は我慢しなさい」
「…で、でも…ん…っ!」
(…何、これ…凄く…ヘンな感じ…っ)
 指が奥へ入る時は圧迫して苦しいんだけど…反面で出て行ってる時は妙に気持ちよくて…。
「それに、本気で嫌がってる声じゃないわね?何だかんだで感じてるんでしょ?」
「…そ、そんなコト…やぁぁ…っ」
「否定したって無駄よ。こんなに私の指をぎゅうぎゅうに締め付けてるんだから…ね?」
「…ちっ、違います…っ、私そんなつもりじゃ…」
「心と身体が一致していない場合は、身体の方が真実ってものよ。どれ、もう一本いけるかしら?」
 そう告げると、既に中指が入っている私の中へ、人差し指が追加で入ってくる。
「く…ぁ…あ…っ!…はぁ…っ」
 再び強い異物感と共に2本目が入ると、更に私のお尻の中で異物感や圧迫感が強くなるものの、何だか満足感の様なものも感じられてきたりして…。
「大体、お尻って2本位で掻き回すのが一番気持ちいいのよね?」
 そして、今度は出し入れの代わりに、入った2本の指が内部を掻き出すようにして動いてきた。
「は…うぁ…っ、んんぁ…ぁぁぁ…っっ」
「どう?気持ちいいでしょ?」
「…く…苦しい…です…っ、そんなに…動かさない…んっ!…で…ぇ…っ」
「ふふ、トップを目指そうってアスリートがそんなに簡単に泣き言吐いてどうするの?すぐに慣れるから頑張りなさい」
「ああ…っ、はぁ…ぁ…っ!はぁ…はぁ…っっ」
 懇願しても決して止めてくれない渚先輩の指遣いを必死で歯を食いしばって耐えながら、うめき声もなんとか抑えようとする私。
「…あ…はぁっ…ん…っ…」
 本当に苦しいんだけど…でも、確かに少しずつ慣れてくるに従って、気持ちよさの比率も少しずつ増えてきてたりして…。
(…こういうのを、調教されてるって言うのかな…?)
 不快だけど…実はそんなに悪くもないと感じてるのは、単なる気の迷いに決まってるけど…。
 それとも…渚先輩が相手だから…?
(…いや、それはますますもって気の迷い…)
 本命クラスだ、なんて言われたって、きっとみんなに言ってるに決まってるんだから…。
「それで、まだ苦しい?」
「……。大分慣れました…お陰様で…」
 情けないけど…本当の事だからそう答えるしかない。
 もう、すっかりと抵抗する気力は失せてしまったと言うか…。
「それは良かったわ。それじゃ、そろそろ次に…」
「…あ、あの…っ、でも、これ以上増やすのは…」
「ふふ、大丈夫よ。今度は、こっちも一緒に攻めてあ・げ・る」
 そこで慌てて泣きを入れる私に渚先輩は優しく答えると、再びわたしの股間へと顔を埋め、すっかりとお留守になっていた秘所の方へと舌を這わせてきた。
「…ふぁ…っ?!せ、せんぱい…?」
「んふ…まだ、これだけじゃないわよ…」
 そしてそう続けると、今度は渚先輩の左指がクリトリスの方へと伸びてきて、包皮に包まれた中の芽を剥き出す様にして弄り始めてくる。
「…あひぃ…っ!そ、そこは…らめぇ…っ!」
「くすくす、この3点攻撃にいつまで耐えられるかしらね?…まぁ、少しくらいは頑張ってもらわないと弄り甲斐もないんだけど」
「う…ああ…っ、はぁ…はぁぁぁぁ…っっ!」
 そんなの…無理…っっ。
 突然刺激が3倍になって、私の頭の中はすっかりとパニック状態になっていた。
「ほら、手が空いてるなら、自分で乳首も弄ってみなさい」
「…は、はい……ん…っ!?」
 そこで先輩に促され、恐る恐る自分の胸の先端へ触れると、頭の中が一瞬真っ白になってしまうかの様な強い刺激が加わってくる。
「はぁ…っ、あ…っ、すごい…これ…っ」
「うふふふ、貪欲に快感を求める姿…とっても綺麗よ、汐里…ほら、記憶が無くなるくらいにぶっとんじゃいなさい」
「はぁ…あ…はぁ…っ、そんなの…困る…んあっ!」
 …困るのに…。
 でも、指が止まらない…っっ。
「あっ、ああ…っ、ふぁぁぁ…っっ!」
「…はぁ…はぁぁ…っっ、らめ…こんなの…」
「んふ…っ、いいのよ。残った理性なんて捨てて、快感のみに身を任せるの。そうすれば、新しい扉が開くから」
「…あふ…っ!…で、でも…何だか…んっ!…怖い…」
 何だか、もう後戻りできない所へ行ってしまいそうで…。
「その怖さに負けていたら、この先ずっと壁は超えられないわ。いつか私に勝ちたいんでしょ?だったら、超えて見せなさい」
「…はぁ…はぁ…っ、いつか…先輩を…超え…」
「別に難しい事じゃないでしょ?そのまま、自分の気持ちいいコトを続ければいいだけなんだから」
「…………っ」
 …確かに、私の両指は既に私の理性を無視して、貪欲に敏感な部分を弄り回しているし…。
 私の身体全体が、そんなモードに入ってるのは確かみたいだった。
「はぁ…はぁぁ…っ、んんあ…っ、ひぅ…んっっ」
 それはすごく恥ずかしくて浅ましくて…獣みたいでイヤなのに…。
「あ…あああ…っ、こんなの…んあああ…っ!」
 …でも、こうして渚先輩の言われるがままに身を委ねてると、今まで圧迫していたものが解き放たれる様な開放感もあって…。
「はぁ、はぁ…っ、あああ…っ!あ…く…っ」
「…んっ、くっ、……っっ、な、なんか…きちゃう…っっ?!」
 そんな中、やがて何かが昇りつめて行く様な感覚が意識の中で高まるにつれて、頭の中がホワイトアウトしていき…。
「いいのよ…そのまま、全てを開放しなさい…っ」
「ああ…っ、く…っ、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ?!」
 …程なくして、痙攣する様な震えと同時に、それは頂点へと達した。
「はぁ…はぁ…っ、はぁ……っっ」
 …というか、良く分からないけど、そんな言い方しかできないというか…。
「ふふ、初めてのイっちゃった感想はどうかしら?」
「…はぁ…っ、いく…?…そっか…」
 …これが、話に聞いていた絶頂を迎えた感覚…なのね…。
「…………」
 もしかして、知らなきゃ良かった事なのかなぁ…。
 …だって何だか、癖になりそうで困るというか…。
「ほらほら、余韻に浸るにはまだ早いわよ?私はまだまだ満足してないし」
 しかし、絶頂後の虚脱感に任せて呆けてしまった私にそう告げると、渚先輩は一旦止めた舌や指を再び激しく掻き回してくる。
「…え、ちょっ、もう許し…あふ…っっ?!」
 さすがに、連続は厳しいですってば…っ。
「出したら終わりの男とは違うんだから、1回だけじゃもの足りないでしょ?まだまだたっぷりとイかせてあ・げ・る」
「ひ…っ、だ、ダメ……っ、さっきより身体が敏感になって…」
 またすぐに果ててしまいそうで、おかしくなっちゃう…っ。
「…だから、イジメ甲斐があるんじゃない?」
 そう告げると、渚先輩は左指で弄っていたクリトリスをきゅっと摘み…。
「ふああああああああっ?!」
 次の瞬間、私は全てが決壊してしまったかの様な嬌声をあげていた。

「はぁ、はぁ…っ、はぁぁ…っっ」
「…うふふ、よく頑張ったわね。最後はお漏らしまでしちゃってたけど…」
「…………」
 あれから、渚先輩が入ってきてから…どれ位時間が経ったんだろう…。
 いや、まだ閉館時間の予告放送も聞こえないから、もしかしたらそれほど時間が経っていないのかもしれないけど…。
(…もうダメ…)
 最後に果てた時に図らずも漏らしてしまった時に引っ掛けてしまった左手をかざし、ニヤリとした目でこちらへ見せる渚先輩に恥ずかしがったり、怒ったりする気力も残っておらず、私はただぐったりと壁に背中を預けて項垂れていた。
「あらあら、精根尽きた顔をしてるわね…ちょっとやりすぎちゃったかしら?」
「……う〜っっ……」
 まだ自慰すら試したこと無くて、当然人からこういうコトされるのも初めてだったのに…。
 結局、あの手この手で色んなトコロを弄り回され、連続で5回も…。
 …いや、6回だったかな。もう、最後はカウントするのも億劫だったけど。
「あら、何だか不満そうね?」
 そして、恨めしそうな目で見上げる私の視線を受けて、余裕しゃくしゃくの目で尋ねてくる渚先輩。
 やり過ぎちゃったかしらって割には、反省の色は全く見られなかった。
「…だって、初めてだって言ってたのに…無理やりこんなに激しく…」
「ま、それだけ汐里ちゃんが可愛かったってコトよ。敢えて言うなら、可愛すぎるのも罪なもの…って所かしら?」
「…罪はそっちでしょう…犯罪者…」
 犯罪者は言い過ぎかもしれないけど、その位は言ってやらないと気が済まない私だった。
「ちっちっちっ、残念ながら同性には強姦罪は適用されないのよ。問われるとしたら、せいぜい暴行くらいだけど…」
「…………」
 法律を制定している人達には、世の中にはある意味男よりも危険な女性がいるって事を、もっと認識して欲しいんですが…。
「それとも、汐里ちゃんにとっては苦痛でしかなかった?」
「…そ、そんな事は無いけど…」
「けど、なに?」
「…………」
 けど、もうちょっと優しくしてくれても…と言いかけた所で、私は口を閉ざした。
 さすがに、ちょっとそれは癪に障るし。
「むしろ、悪くは無かったでしょ?」
「…………」
 そして、返答を待つ前に続けて出たそんな渚先輩の台詞に、思わずこくりと頷いてしまう私。
 今更、否定なんて出来ないだろうし。…悔しいけど。
「ふふふ…汐里、可愛かったわよ?これからは水泳だけじゃなくて、こっちの方もたっぷりと仕込んであげるわ」
 すると、私の反応を見てニヤリと満足そうな目を向けてくる渚先輩。
 …正に、してやったりと言わんばかりである。
「…う〜っ、変態、犯罪者…っっ」
「あら、だったら汐里ちゃんは感じすぎて放尿までしちゃった変態中学生じゃない?」
「……っっ」
「まぁまぁ。お互い世俗とは相容れない捻くれ者同士、仲良くやりましょ?」
 そう言って、渚先輩は満面の笑みを浮かべながら、私の肩をぽんぽんっと叩いた。
「……はぁ……」
 …自覚もあるのね。タチの悪い事に。

「…………」
「…………」
「何をぼんやりしてるの、汐里?」
「…いや、どうしてこんな人に惚れちゃったのかなぁ…って」
 喋れば吐息が吹きかかる程の距離で尋ねる渚先輩に、私は大きなダブルベッドのシーツに背中を傾けたまま、溜息混じりに呟いた。
「…………」
 改めて見渡すと、本当に広いお部屋。
 これに比べれば、私の部屋なんて靴箱同然の広さしかない。
(…自信家な訳よね。これだけ揃っていれば)
 水泳の実力だけじゃない、この人にはそれだけの色んな要素が備わっている。美人で学業成績も優秀だし、水泳に限らず優れた身体能力でスポーツ万能。数多くの運動部から引く手数多だったけど、その中で水泳を選んだのも、単なる気まぐれなんだそうで。
 いや、確か水着姿の女の子がいっぱい見られるから、みたいな不遜な事を言ってた様な…。
(…いや、それは聞かなかった事にしたんだっけ)
 それなら、気まぐれの方が遥かにマシである。
 …ただそれでも、「遊びも全力を出さないと本当に楽しめないもの」との言葉通り、始めた以上は真剣にやってはいるんだけど。
(…それと…)
 もう1つ付け加えるならば、渚先輩が某大手企業の社長を親に持つお嬢様だって事を知ったのも、あれからすぐ後だった。
「あら、この天が二物も三物も与えた才色兼備な私に失礼ねぇ?」
「…そして、途方も無い自信家だし」
 1つ1つのパーツを検証していけば、本当に嫌な人だなぁ…とは思う。
 性格的にもワガママで自己中心派で、他人の事なんてこれっぽっちも気にかけない。
「そりゃ、それに相応しい才能が備わってるからね、私には」
「…………」
 …でも、そうやって常に余裕と自信に満ち溢れた先輩は、ズルい位にカッコいいから…。
「…渚先輩…」
「なぁに?」
「本当に、行ってしまうの?私を置いて…」
「…ふっ、何を情けない事言ってんのよ、あんたは」
 やがて、そんな感傷めいた台詞を呟く私に、渚先輩は呆れた様な顔を見せた後で、軽くデコピンを返してくる。
「…だって…」
 明日の朝には、スポーツ推薦で合格した大学へ通う為にここを離れてしまうんだから。
 私がこうして渚先輩の部屋のベッドに身体を預けられるのも、とりあえず今日限りという事になる。
「そりゃ、私だって寂しいわよ?こんなに可愛い汐里ちゃんと離れるなんて」
 そう告げた後で渚先輩は私の上に覆い被さると、指を伸ばして太ももからその先にある敏感な部分へと指を滑らせてきた。
「…あ…っっ」
 そこで私は一瞬だけ抵抗しようとするものの、自分の弱い部分を的確に攻められて、次第に力が抜けていく。
 こうなってしまえば、もう私は為すがままだった。
 だって…もう既に、私の身体で渚先輩の指や舌で触れられていない部分なんて無いし、敏感な部分は全て知られてしまってるのだから。
「だからって、お互い独りじゃ何も出来ない様な、弱い人間じゃないでしょ?」
「…その私を弱くしたのは、誰のせいだと…」
「そうね。本当の汐里ちゃんは、とっても甘えんぼさんだしね?」
 そこで非難する様に口を尖らせる私に、渚先輩はくすくすと笑いながら、意地悪な視線を向けてそう告げてくる。
「…………」
 それも、渚先輩のせいなんですけど。
 指導は容赦なく厳しいながらも、倒れそうになった時はいつでも支えてくれる位置に立ってた、私にだけは時々らしくない優しさを見せてくれた先輩の…。
「大丈夫よ。ほんの少しくらい会えない期間があっても、私は汐里を捨てたりはしないわ」
 しかし、その後で渚先輩はにっこりと約束の笑みを向けてくれた。
「…うん…」
 普段の言動は軽薄だけど、交わした約束は守る人だって事は知っている。
 だからこそ…水泳選手として羽ばたく為に私を置いて地元を離れてしまう先輩の後ろ姿も、何とか涙を堪えて見送れそうだった。
「それでね、行く前に1つ私と約束しなさい。次に会った時は、あの時のリターンマッチをするってね」
「リターンマッチ…?100メートル自由形で?」
「勿論、勝った方がお姉様。汐里ちゃんが私に勝てれば、立場を逆転できるわよ?」
「…………」
 私としては、今の関係の方がいい気はするけど、しかし渚先輩はどうやら本気で私との再戦を望んでいるというのは伝わってきていた。
 それは、単に妹分として私を可愛がってくれている意味じゃない。自分のライバルとなり得る存在として、私を認めてくれているからこそだった。
「だから、様子を見に来たりはしないけど、私がいなくなっても練習をサボっちゃダメよ?」
「…分かった。次に会う時までに追い越してみせる」
 だけど、そんな貴女が手を差し伸べてくれたからこそ、私は私でいられる。
 あんなに心の中では嫌がってた水泳も、自分の意志で楽しむ事が出来る…。
「それともう1つ。その時まで、私以外の人に負けちゃダメよ。分かってるわね?」
「…渚先輩こそ、大海の広さを知りました…なんて、情けない事言わないでね?」
 勿論、その条件の中には、渚先輩が誰よりも大きな存在であるって事も含まれる訳だけど。
「あらあら…汐里のくせに、そんな台詞を吐くのは十年早いわよ」
 そして、二度目のデコピンがわたしのおでこに炸裂する。
 今度は、さっきよりちょっと痛かった。
「…痛い…」
「まぁ、少しは大口も叩ける様になれれば一人前ってね。1年にも満たない短い期間だったけど、良くここまで付いて来れたわ」
「…別に、褒めてもらう事じゃない。確かに練習は厳しかったけど、辛いとか、止めたいとか思ったことは一度も無かったから…」
「ふふ、ますます言ってくれるじゃない。それじゃ、次にもしまた私が勝ったら、勘弁してくださいって泣きついてくるまでしごいてやるから。…いいわね?」
「……うん」
 それでもきっと、私は決して渚先輩の側を離れたいとは思わないだろう。
「…だから…約束の印に…して…」
 既に今日は何ラウンドも済ませたけど…まぁせっかくだし。
「あら、汐里から求めてくるなんて、これが始めてかしら?」
「…大丈夫。最初で最後にする…つもりだから…」
「…それでいいわ。あなたはあなたの翼で羽ばたきなさい」
 そう囁くと、私の望みを叶える為に、自分の唇を私の元へと近づけてくる渚先輩。
「…と言っても多分、私の翼は制御不能だと思うけど…」
「ん?どういう事…?」
「…何でも、ないです…」
 そして、私は近づいてきた渚先輩の唇を、相手の背中に手を回しながら、自ら重ね合わせる。
「……んっ……」
「…………」
(…だって…)

 …私の翼は、あなたなのだから。

****おわり****

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