眠れるお姫様とエトランジェ Phase-7 その1
Phase-7:『桜庭家』
Phase-7-0:おつとめの朝。 メイドさんの朝は早い。 考えてみれば、それも当たり前と言えば当たり前なんだけど、とにかくメイドさんのお仕事って、大半は早朝に集約してるんじゃないかってくらいに、ひっきりなしで忙しい時間帯だった。 「ふう、ふう……」 とはいえ、朝食は契約のコックさんが厨房で準備しているし、庭園の方は庭師の人達がお手入れ中だし、家主である小百合さんのお世話は執事も兼ねている芹沢さんが担当してるので、わたし達の仕事は主に掃除やセッティングとかなんだけど、それでもこれだけ広いお屋敷では、全員で一斉に手分けしても休んでいる暇なんて無いほどの仕事量である。 「みゆりーん、丁寧にやるのはいいけど、あまりのんびりしてる時間も無いから、テンポ良くね?」 「……はーい。どうせ、明日も同じようにやるわけですし……」 だからといって手を抜いていいというコトにはならないけど、いちいちこれが最後の掃除のつもりでやってたらキリがないのは確かだった。 「んー、汚れっていうのはね、目に見えにくくてもどんどん積み重なっちゃうから、定期的に拭い続けるのが大切なのよ。……でないと、後で後悔しちゃうんだから……はぁ……」 すると、わたしのやや投げやりな返事の後で、みゆりんとむず痒い呼び名で話しかけてきた先輩が、なにやら思わせぶりに溜息を吐いてくる。 「えっと、それは単にゴミの話なんですか?それとも……」 「あー、いいのいーの、気にしないで……」 「……わ、わかりました……」 ともあれ、そんなこんなで、支給されたモノトーンのエプロンドレス(ちなみに夏服仕様)に身を包み、モップを両手に自分の持ち場である長い廊下の一角をごしごしと拭き進みつつ、額から滲んでくる滴りをハンカチで拭うわたし。 本当はそれも億劫だから、ちまちまと吸い込ませないで右腕でワイルドに拭い払ってしまいたいものの、それで床へ汗を零そうものなら、お掃除やり直しである。 (はー。やれやれ、また今日も一日、暑くなるかな……?) 午前6時台の今は、まだ気温も上がりきってなくて比較的過ごし易いとはいえ、こうやって床の拭き掃除をしていたら、あっという間に汗だくになってきそうだった。 ……ただそれも、こまめに汗を拭き取っているのはルーキーであるわたしだけで、他の人達は涼しげな顔で粛々とやっているのは、流石というか何というか。 (でもまぁ、気持ちのいい日差しではあるんだけどねー……) それから、モップを動かす手をそのままに視線をすぐ近くの窓の方へと向けると、まだ名前を覚えていない他のメイドさんたちが丁寧に拭き掃除をしていて、その向こうからは心地いいお日様の温もりが差し込んでくる。 (朝だなぁ……うん、いかにもって朝だ) 確かに、この陽光はドラキュラさんみたいな不健康体質がちだった自分にとっては、真人間に浄化される心地になるんだけど……。 「……ふぁぁ〜〜っ……」 しかし、やがて我慢していた欠伸が、とうとう漏れ出してしまうわたし。 今までかみ殺しながら何とか我慢してきたけれど、そろそろ限界みたいだった。 「ほら、お仕事中に欠伸はダ・メよ?ココはそんなにお安い職場じゃないんだから」 「あはは、すいません……」 すると、隣を持ち場にランデブー状態で一緒に床掃除を続けている先輩の小姫(こひめ)さんから先輩らしいお咎めが飛んできて、苦笑いを返しつつ頬を軽く叩くわたし。 もっとも、後ろに束ねた髪を揺らせつつモップがけを続ける小姫さんの表情はいつもの様にどこか楽しげで、軽口半分って感じではあるんだけど。 「ま、私だから見逃してあげるけど、あの厳しいメイド長さんの前だったら、”けじめ”が出来てないって、後でお小言ものだったかしらん?」 「うあー、それは朝っぱらからしんどいですよね……」 芹沢さんって面倒見がよくて親切だけど、良くも悪くもすごく生真面目な気質の人だから、こういう時ばかりは大目になんて見てくれないだろうし。 「……けどま、やっぱり受験生との両立生活はつらいわよねー?私も去年はそうだったし」 「あーいえ……。ぶっちゃけてしまうと、そっちの方は停滞気味だったりするんですが……」 一応、それでも手遅れにならない程度には何とかしてくれている相方がいるので、それほど危機感は感じていないとしても。 ……というか、むしろ両立しているのは”嫁”と”メイド”という、よく分からない関係の様な。 「あちゃ、それは困ったわね。……まーけど、多分何とかなるわよ?人間、やらなきゃいけないと思った時はどんなに忙しくてもやるし、やらない人はどんなに暇でもやらないものだから」 「うぐ……」 それから、心配そうな顔を向けながらも、どこか突き放す様な先輩の言葉が突き刺さり、モップを手に持ったまま俯いてしまうわたし。 (正論だけど、何ていうかもう少しこう……手心というものをですね……) しかも、実際に体現した人の言葉だから、余計に効いてしまう。 ……というか、こういう親身さと辛辣さの両立は、曲がったコトが嫌いな桜庭家の家風みたいだけど、元来怠け者なわたしには、なかなか気の休めない職場といえた。 「まぁ、みゆりんもやればデキる子だと思うわよ?実際、出来たコトあるんでしょ?」 「あはは、恥ずかしながら、まぁ……」 だからこそ、今わたしはこうしていると考えれば、何やら誇らしいようで皮肉っぽくもあって……。 ……あと、できればみゆりんは勘弁して欲しいんですが。 「んじゃ、ガンバって。未来を掴むのは自分の手でってね?」 「へぇい……」 とりあえず、欠伸なしで頑張る為にはもう一時間くらいは早く眠りに就きたいところだけど、果たしてわたしのお嬢様は了承してくれるだろうか? 「それに、今はまだ比較的楽な時期よ?真冬とかと比べると、全然起きやすいし」 「あー、それは確かに……」 ともあれ、それから拭き掃除の手を休めないまましみじみと続けてくる小姫さんに、わたしも想像しながら再び苦笑いを返す。 確かに、今は夏休みだからいいものの、これが冬休みの話だったら……。 「もうね、手がかじかむなんて生易しいレベルじゃなくて、激痛が走るのよ……こう、ズキズキと……」 「うわぁ……」 ホント、想像しただけで寒気が走ってきそうだった。 それに比べたら、少々蒸し暑くて汗ばみやすいなんて、全然楽なものである。 「…………」 (まぁでも……) しかし、それからふと思うところが頭に浮かんで、自分の足元を見ながら手を止めてしまうわたし。 「ん?どうしたの?」 「……いえ。考えてみたら、今まで柚奈の客としてお邪魔していた時も、見えないところで小姫さん達にこんな苦労をさせていたんだなーと……」 特に、柚奈と正式に付き合うようになってからは、当たり前のように通ってきてるしね、わたし。 しかも、小百合さんからは、もうあなたは家族同然だから、自分の家と思ってくつろいでくれていいと言われているので、最近は遠慮を感じることもすっかりと薄れてきていただけに、余計に申し訳なさを感じたりして。 「あら、分かってもらえたなら嬉しいわ。……と言いたいところだけど、これも自分で選んだ道だから、どうかお気遣いなく、美由利お嬢様?」 「もう、それはやめてくださいよぉ……」 まったく、婿入りした若旦那じゃあるまいし。 (……けど、自分で選んだ道、か……) 何だかんだで、わたしの方もこれが自分で選んだ償いの道だったわね。 「そりゃーまぁ、私だって朝からテンションMAXってワケにはいかない日も多いけど……」 「あはは……」 でも、確かに欠伸交じりでやってたら、覚悟が足りないって言わ……。 「ヘ〜イ、おフタ方!チンタラやっテると、ラジオ体操始まってしまいマスよ?」 「ぎにゃっ?!」 「ひっ……っ?!」 しかし、それから気持ちを新たにしかけた矢先で、突然に背後からデタラメなイントネーションの日本語が聞こえたかと思うと、わたしと小姫さんは背後から脇を潜って伸びてきた手で同時に胸を掴まれてしまった。 「あらあラ、今日もゴキゲンな感触ネ〜。ムフフフ……」 「ちょっ、だからいきなりやめ……ああんっ」 「もう、ゴキゲンなのはアナタだけでしょう……っっ」 そしてそのまま、鼻息を荒くしながら、ぐにぐにといやらしい手つきで揉みしだいてくるセクハラ魔に対して、即座に身を捩じらせるわたし達。 「……オウッ、二人トもまだグッモーニンも言わないうちから、インペイシェントネ……」 すると、乱暴に振りほどかれた後で、わたし達と同じエプロンドレスを着たブロンドの狼藉者は、悪びれる様子もなく肩をすくめてくる。 「はいはい、朝っぱらから襲いかかってくるヘンタイさんには言われたくないから……」 「ホント、毎日毎日、懲りないですよねぇ……」 ……ってコトで、この朝の挨拶代わりにセクハラしてくるのは、小姫さんの同僚で、わたしにとっては同じく先輩にあたる、舶来メイドのシンディだった。 (……ところで、インペイシェントって何だったっけ?) あとで辞書引いておこう。 「ノンノン、ワタシのクニではこれがアイサツなのデース、アンダスタン?」 「……こぉら、みゆりんが本気にするから、得意げに妙なウソつくんじゃないの、シンディ」 「いやいや、さすがにそれはないですから……」 小姫さんもさらりと酷いというか、欧州とかだとちゅーが挨拶代わりってのは聞いたことあるとしても、シンディの言い分からは、わたしの周囲になぜか多く集まってくる人種と同類の匂いを感じるし。 「んジャ、これがサクラバ家のゴアイサツってコトで♪」 「怒られるわよ……」 「いやぁ……そっちの方は、あながちボケと片付けられない部分もあったりして……」 少なくとも、わたしのヘンタイお嬢様にだけは否定する権利はないし。 (……いや、考えてみたら芽衣子お嬢様の方もだよね……) 何だかんだで、姉妹揃ってセクハラ大好きという……ホント、誰に似たのやら。 「オーケィ、デハ今度はミユリがアイサツしてくるネ?」 ともあれ、それから両手を広げ、エプロンドレス越しでもはちきれんばかりの膨らみをぷるんと揺らせて、バッチコーイのポーズを見せてくるシンディ。 「い、いや、それはちょっと……」 暑苦しい上に、何だかあの谷間に挟まれて窒息させられそうだし……。 「……おふぅ……っ?!」 「まぁマァ、ニューカマーさんはエンリョしないのデース♪」 しかし、モップを持ったまま即座に首を横に振ったのにも関わらず、すぐに向こうから飛び込む形でわたしの頭は胸元へと密着させられ、むぎゅっと強い圧迫が頬を包んでくる。 「〜〜〜〜っっ!!」 柔らかくも弾力あって、まぁ悪い感触じゃないんだけど、やっぱり暑苦しい……。 「むフフフ、ニホンのリュウギでハ、センパイのメイレイはアブソリュートだからネー」 「んぐ……むむむ……」 そんな時代錯誤な流儀なんて知らないってば……っっ。 「くんクん……にしテも、ミユリはもう汗だくネ〜?」 「ちょ……うむぅ……っ」 しかも、匂いまで嗅がれてるし。 ……というか、無駄に暴れさせられた誰かさんの所為でもあるんだけど。 「なラ、コレが終わったアトで一緒にシャワー浴びてサッパリするよ?グフフ……」 「い、いえ、おかまいなく……っっ」 ともあれ、いくら先輩の誘いとはいえ、さすがに女の子同士もののいやらしいDVDを見るのと、それを実践するのが趣味な人とはちょっと……というコトで、全力で引き剥がそうとするわたし。 油断したら危険な相手というのは比較的慣れっこなものの、この人の場合は言葉なんて無視して力ずくで襲われそうな怖さがあったりして。 「……こら、それ以上はダメよシンディ?みゆりんは柚奈お嬢様のモノなんだから、あまり調子に乗ってつまみ食いしちゃ」 「むウ、せっかくワタシ好みのキュートでHornyなガールとお近づきになれたというのに、ディスティニーとは無常ネ……」 すると、そこで小姫さんがようやく助け舟を出してくれると、シンディはこれまた知らない単語を呟きつつ残念そうにため息を吐きながら、スリスリと頬刷りしてくる。 「…………っ」 (うう、キケンすぎる……) 小姫さんに関しては全く異存は無いとしても、こんなヘタしたら柚奈や茜より遥かに危険な青い目のヘンタイさんまでわたしのサポート役に任命するとか、まったく芹沢さんは一体何を考えて……。 「はい、みなさんご苦労さま」 ……と、そこでふと頭に浮かんだところで、件のメイド長が静かな声で顔を出してきた。 「ヘイ、グッモーニン」 「あ、おはようございますチーフ……!」 「むぐ……お疲れ様でふぅ……っ」 「……シンディ、今日も持ち場を離れているけど、もう自分の仕事は終わったのかしら?」 「モチのロンね〜♪ミンナよりハヤク終わったから、こうシテヘルプに来てるのデース」 それから、周囲のみんなが一通り挨拶を返し終えた後で、早速いつもの冷静な口調で追及する芹沢さんに対して、慌てる様子もわたしを放そうとするそぶりすら見せずに、あっさりと受け答えするシンディ。 「むぐ、むぐぐぐぐ……っっ」 (これの、どこがヘルプなのよ……っっ) どう見ても、手伝うどころか邪魔しにきてるだけなんですけどっっ。 「そう。ならいいけど……」 「イエース♪」 (ちょっ、いいんですか……っ?!) しかし、芹沢さんの方も咎めるどころか、納得した様子で認めちゃうし。 ……そりゃまぁ、チンタラやってるわたしと、既に義務を果たして好き勝手やってるセンパイのどっちに言い分があるかと問われれば、肩身が狭いのはこちらの方なんだけど……。 「いやー、でもそろそろ助けてあげた方が……」 「ふふ、そうね……。シンディ、姫宮さんはこれから大事なお仕事が控えているのだから、そろそろ解放してもらえるかしら?」 「オウ……ナゴリ惜しいネ……」 ただそれでも、小姫さんの苦笑い混じりのツッコミを受けて芹沢さんが小さく笑いながら同意すると、ようやくセクハラモンスターさんは渋々と抱きしめる力を緩めてくる。 「……大事なお仕事って……」 「ええ。そろそろ柚奈お嬢様を起こしに行っていただけますか?」 「あ、は、はい……。ほら、いい加減離して……っっ」 「むぅーっ……」 それから、新しいミッションを授かった後で強引に押しのけ、不満そうに頬を膨らませるシンディを尻目に、支給された腕時計へ視線を落としてみると、時刻はお嬢様方の起床時間である、午前7時の十分前。 (しっかし、夏休みなのにこんな時間に起こされちゃうのもねぇ……) 普段ならまぁ、確かにこのくらいの時間には起きなきゃ間に合わないんだけど、なにも休みの期間でまでいつも通りに起こされなくてもいいのに……とは思ったりして。 ……というか、こうやってきっちりとスケジュール管理されているのを考えれば、身の回りの世話をしてくれるメイドさんの存在も、ぶっちゃけ良し悪しなのかもしれないけど……。 「…………」 (あれ……?) 「……でも今更ですけど、柚奈って朝が弱い方でしたっけ?」 しかし、それからふと頭に浮かんだ矛盾を、そのまま独り言のように呟くわたし。 普段はむしろ、わたしを起こしにきてる(というか、先にやってきて布団にもぐりこんでくる)癖に。 「んー、そんなワケないネ。躾がデキてルお嬢様方だカラ、ダマっていても身支度してるヨ?」 「そーそー、むしろ私達には忙しいだろうから、わざわざ来なくてもいいって言ってくれてるし」 「……ってぇコトは……」 「ええ、まぁおそらく、姫宮さんが想像されている通りかと」 「やれやれ……。ったくもう、無駄な手間かけさせてくれやがるんだから……」 そして、推測が確信に変わり、思わず溜息のひとつも吐いてしまうものの、まぁぼやいていても仕方が無い。 「いずれにせよ、貴女にしか務まらないお仕事ですから、よろしくお願いしますね?」 「へーい、分かりました……」 何せ、今回ばかりは、わたしは柚奈にどんなワガママを要求されても断れない立場だし。 「やれやれ……ホント、しんどいコトになったもんだわ……」 それから、もう少しだけ残っていた廊下の掃除はお邪魔虫さんに責任を取ってもらう事になり、まずは更衣室へ寄って接客用の清潔なエプロンドレスに着替えながら、改めて項垂れつつぼやくわたし。 ほんの十日前の今頃は、まさかこんなコトになるなんて夢にも思わなかったけど……。 (自業自得だからしゃーないとしても、受験生が夏休みになにやってんだろう……) 「…………」 けど、本来は取り返しのつかない失態を、特別な温情でチャラになるチャンスを与えてもらっているのだから、不平をこぼしてたらバチが当たるってものである。 (わたしには言わないけど、結構ショックも受けてるみたいだしなぁ……) 実際、ほんの僅かの間だったけど、あの瞬間の直後は、わたしと目を合わさずに俯いてたしね。 「……はぁー……」 まぁ、できるコトがあるだけマシか。 ……と言っても、わたしにできるのは、精々”逃げない”ってコトくらいだけど。 * コンコン 「……おはよ〜。起きてくれてやがりますか、お嬢様?」 ともあれ、着替えと手洗いを終えてから冷水で満たされた銀製のボウルと新品のハンドタオルを乗せたトレイを片手に、すっかり勝手知ったる柚奈お嬢様の部屋に軽くノックして入ると、適度に室温調整された室内はしーんと静まり返っていた。 「…………」 (ったく、今日も手間かけさせるつもりね……) ぶっちゃけ、これまでも普通に目を覚ましてくれたためしなんてないけど、これも自分が起こしに来たときだけとか……。 (ホント、バカなんだから……) 普段は殆ど完全無欠のお嬢様が、わたしの前でだけは甘えんぼう。 今の自分にとっては愛おしさがこみあげないこともないんだけど、やっぱり面倒くさくもあったりして。 (ま、いーわ、とりあえず……) とにもかくにも、まずは手順どおりにサイドテーブルの上にトレイを置き、こちらの視線を避ける様にシーツに包まっている愛しのお嬢様から背を向けて、薄暗い室内へお日様の光を差し込ませようと、手触りのいいレースのカーテンに手をやるわたし。 芹沢さんから受け取ったマニュアルによると、無理にシーツを揺らせたり声をかけるよりも、勝手に目を覚ましてくれて楽なんだそうだけど……。 さわっ 「ひゃっ?!」 しかし、それから一気に開け放とうとした直前に、突然ベッドの方からイヤらしい手つきの感触がわたしのお尻に触れてくる。 「こらぁ……っ、もう、目が覚めてるならさっさと起き……」 「…………」 「……ちっ……」 そこで、振り払うように身体を捻って向き直るわたしなものの、既に不埒な手はシーツの中に隠れて見えなくなっていた。 (ったく、もう……っ) 「す〜、す〜〜っ……」 ……しかも、続けてベッドの上を覗き込むと、こちらから背を向けて横たわるお嬢様から、ワザとらしい寝息が聞こえてきたりして。 「…………っ」 それがタヌキ寝入りなのはとっくに明白なんだけど、ともかくわたしに与えられたミッションは、このヘンタイお嬢様をしっかりと起床させること。 「……ほら、そろそろ起きなさいよ?」 「…………」 とりあえず、まずはゆっさゆっさと揺らせてみるものの、返事はなし。 「もう、起床時間はとっくに過ぎてるんだから、芹沢さんにお小言くらうわよ?」 「んー、まだねむい〜……」 (きたか……) それでも続けるうちにようやく反応が返ってきたけど、やっぱりまぁた、ああだこうだとゴネる気らしい。 「まー、夏休み中だし気持ちは分かるんだけどさぁ、芹沢さんに命じられて来てるわたしの立場も考えてくれるとありがたいんですけどね、柚奈お嬢様?」 「んふふふー、どーしよっかなぁ……?」 それで、まずは情に訴えようとしてみると、後頭部ごしに小悪魔っぽい笑いが帰ってくる。 「……もぅ、意地悪しないでよ……」 そもそも、経緯で負い目を感じている身としては、あまり強くも言えないというのに。 「みゆちゃんこそ、ただ”起きて”だなんて、気が利かなさすぎない?」 「……はいはい、分かってるわよ。目覚めのちゅーでもしてあげるから、こっち向きなさい」 そこでわたしは、想定済みの要求に対して、肩をすくめながらそう告げたものの……。 「…………」 「ん……?」 しかし、大喜びで向き直ってくるかと思えば、まさかの反応なし。 (こいつ……) どうやら、御満足いただけなかったようだ。 「ったく……。んじゃ、どーしろっていうのよ?」 「んーっと、ぱんつ脱いで、またがってきて♪」 「……あほかっ!」 人がちょっと下手に出てやれば、調子に乗り過ぎ。 「む……」 「ったくもう、朝っぱらからどうしようもないヘンタイなんだから……。いやまぁ分かってたけど、これは一種のビョーキ……ひぃっ?!」 しかし、全力でツッコミを入れてやったのも束の間、続けたお小言が終える前に伸びてきた手に腕をつかまれ、強引にシーツの中へと引きずりこまれてしまうわたし。 「ちょ、こら……っっ?!」 「……まったく、ご主人様に向かってクチの利きかたがなってないよねぇー、みゆちゃん?」 そして、抵抗する間もなく後ろからがっちりと捕まえられると、ヘンタイお嬢様はわたしの全身をイヤらしい手つきでまさぐりながら、耳元から息を吹きかけつつ咎めてくる。 「ご、ご主人様って……ちょっ、やめ……!」 こっちはまだ仕事中……っっ。 「やめ、じゃないでしょー?……ほら、ここはお許しくださいって懇願してくれないと」 「んあ……っ、いきなり何なのよあんたは……ひぅっ」 しかし、戸惑うわたしに構わず、柚奈の手はこちらの弱い部分を重点的に攻め始めてきた。 「や……そこ……だめ……ぇっ」 「んふふー、抵抗はムダなんだから。ほら、素直にゆだねてくれた方が身のためかもよー?」 「うぐ……っっ」 なんかそう言われるとちょっとムカつくし、何とか逃げなきゃ……とは思うものの、恥ずかしながらこのヘンタイお嬢様には触れられたり舐られていない部分なんて既に無いだけに、エプロンドレスの中にもぐりこんできた指先で全身を擽られて、次第に身体の力が抜けていってしまうわたし。 それはまるで、全身に優しい毒が回っているかのようで……。 「だ、だめ……それ……敏感になっちゃう……っ」 「……わき腹とか太ももとか……うふふ、ぴくぴく震えてかわい〜」 「ひぅ……っ!」 それから、じわじわとじらせてきた後で、いよいよ柚奈の指先が下着越しの胸の先端や太ももの付け根の先にあるショーツへと触れると、わたしの身体は強い刺激にびくんと仰け反らせられてしまう。 「あ……う……これ以上……は……」 「こんなトコロで止められると思う?みゆちゃんだって、すっかりデキ上がってきたじゃない?」 そして、そんなこちらの反応を見るや、当然のごとくヘンタイお嬢様は手を止めるどころか、さらに指をめり込ませる様にして、ぐりぐりと弄り回してきたりして。 「そ、そんな……んぁ……っ!」 こっちは朝食の時間までに食堂へ連れてくるように言われているのに、すっかり火が点いてしまったみたいだった。 「だから……っ、あさごはんの時間に遅れるとわたしが怒られ……ああんっ」 「うんうん、こういう時はホント気が利くよねぇ、みゆちゃんって」 「な……っ?」 「だって、わざわざ適度に抵抗して炊きつけてくれるんだから、もう……」 「ち、ちが……そんなんじゃ……ぁっ」 しかも、相変わらず自分勝手に解釈してるし……っっ。 「ま、まって……お掃除してて汗もかいてるから……」 「ん〜、たしかに下着もしっとりしてるし、お肌にも汗がにじんでるけど……でも、そういうのがまたソソるんだよねぇ」 「こ、こらっ、ダメだって……」 それから、さっき着替えた時に下着も一緒に替えて来ればよかったかもと、一応の抵抗はしつつも諦めが混じってきたわたしに、柚奈の奴は首筋をくんくんしながら、右手でショーツの端を引っ張って秘所を食い込ませてくる。 「…………っ!」 しかも、エプロンドレスごしで見えないというのに、器用な手つきで秘所の付け根にある一番敏感な部分へ指先を伸ばし、押しつぶす様に弄ってきたりして……。 「んひっ!らめ……そこ……そんなにしたらぁ……っ」 「あは、とっても敏感になってる……。ほら、私の指先がじわじわと滲んでくるけど、これは汗なのかなぁ?」 「ば、ばか……ぁひっ」 「ぐふふふ、みゆちゃんかわいい……はぁはぁ……」 次第に、恥ずかしい部分から疼く刺激にカラダが熱くなってくると同時に、ヘンタイお嬢様の方もすっかりと鼻息を荒くしながら、弄り回す指はそのままに耳元や首筋を舐りまわしてくる。 「も、もぅっ、毎日飽きもせず……んっ」 「そう言われたって……みゆちゃんは毎日ごはん食べたりお水を飲むのに飽きたりするの?」 「どーいう開き直りかた……ああんっ」 そりゃまぁ、わたしだって弄られ飽きてるワケじゃないけど……っ。 「ふぁ……っ、せ、せめて先に汗流させて……」 「だぁ〜め、その甘酸っぱい汗の匂いが余計に燃え上がらせてくるんだってば。ホント、分かってるんだから分かってないんだか……」 「そ、そんなコト言われても……ぁっ!」 ちょっ、ぴったり張り付いてるのに乳首つまんじゃ……。 「ぃひ……っ、らめ……」 「……まぁでも、だから心配になってもくるんだけど……」 しかし、それから一気に激しく攻めてくると思いきや、柚奈はふと手を止めてぼやいてくる。 「え……?」 「……ね、一応確認しておくけど、他のヒトにヘンなコトされてない?」 「えっと……いやまぁ、大丈夫……だと思う……うん」 心当たりはあるようなないような、だけど。 「むぅ……なんか曖昧……。メイドさんの間でも、みゆちゃん可愛いって評判だったからなぁ……」 「……えっと……」 「ほらぁ、そこだけが心配なんだよね……。みゆちゃんにこういうコトしたいって思ってるのは、きっと私だけじゃないはずだし……」 ともあれ、そんなコト言われてもどう反応していいのやらと返事に困っていたわたしへ、ため息混じりに愛撫を再開してくるお嬢様。 「あひ……っ、やぁぁんっっ」 「……ん〜いちおー、栞ちゃんや小姫ちゃんはおそらく大丈夫だと思うけど、シンディとか手癖の悪さが茜ちゃん並だしなぁ……」 「う……」 ぎくっ。 ……というか、未だにちょっと恨んでいるのか、柚奈の茜評が酷い。 「あ、今ちょっと心臓がドキっとしたよね?やっぱり、つまみ食いとかされてる……?」 「いや、そ、そんなコトはないと思うけど……」 少なくとも、気持ちの上では浮気心はありませんし。 ……ちょっと、不意打ちで揉まれたりしてるくらいで。 「むぅ、歯切れが悪いなぁ……」 「もう……その話はもういいから、そろそろ着替えてってば……っ」 ともあれ、あまり話をこじらせたくないわたしは、強くなってきたお嬢様の指先の圧力と、それに伴う刺激に耐えながら懇願するものの……。 「……やだ。着替えてあげない」 しかし、拗ねた口調であっさりと拒否されてしまった。 「ちょっ……?」 そんな、駄々っ子みたいな反応返されても……っ。 「んー、でもその代わり、みゆちゃんが言うコト聞いてくれるならいいよ?」 「いうコトって……。またヘンタイな要求するつもりでしょ?」 「もっちろん♪」 「う……」 即座に肯定ですか……。 「そ、それで、わたしにナニをしろってのよ……?」 「んふふ、ちょおっと恥ずかしいコト♪……いいよね?」 「〜〜〜〜っ」 そして……。 「……ほら、脱いだわよ……?」 「えへへ、ありがとー」 やがて、一旦開放された後に遠慮の感じられない要求を受けて、汗ばんだ手で下着を下ろしたわたしが脱ぎたてのしましまショーツを差し出すと、ヘンタイお嬢様は残った温もりを確かめる様に、それを早速頬ずりしてゆく。 「こ、こらぁ……っ!」 いきなりナニをしやがりますか、うちの学園きってのお姫様は。 「あはは、手が勝手に……うーん、このみゆちゃんの温もり……いい……」 しかも、その表情は思いっきりだらしなくて、くねくねと気持ちの悪い悶え方までしてるし。 「……こらこら……」 もう、”ど”が付くヘンタイ行為なのに、何故かちょっとだけ胸がきゅんとしてしまうのが、癪に障るやらなんとやら。 「ほらほら、みゆちゃん。まだこれで終わりじゃないでしょ?むふふ……」 「…………っ」 それから、パンツを握り締めたまま続けて促され、わたしはベッドの上へ腰を落として躊躇いがちに両腿を開くと、続けてよく見えるようにスカートのすそを持ち上げてゆく。 「こ、これで……いい……?」 「んふっ、そのつるつるでぴったり閉じた状態も可愛いんだけど……やっぱり、もっとよく広げて見せてくれるかな♪」 しかも、胸の鼓動が痛んでくるのに耐えながら躊躇いがちに尋ねるわたしに対して、更に遠慮なく要求してくるヘンタイお嬢様。 「…………っ」 それでも、約束は約束なので、言われるがままに右の指で閉じた秘唇を左右に押し広げながら応えてみせるものの、お互いに裸の時ならともかく、自分だけがこうやって晒しているのは、恥ずかしさがいつもより何倍にも感じられてしまう。 (ああもうっ、どこがちょっとだ、どこが……っっ) そんな今の自分の状況を意識すればするほど、顔から火が噴き出しそうなんですが。 (ううっ、ゴメンなさいお母さん……) まぁ、セキニンは取ってくれるかもしれないけど、それはともかくとして……。 「んふふー、もう濡れ濡れじゃない?……それに、汗と混じってイヤらしい匂いが……」 「や、やぁ……っ」 やがて、何だかスースーする感覚と共に柚奈の視線が奥のほうまで侵入してくると、続けて伸びてきた繊細な指先が、小さな音をたてながら敏感になった入り口から粘膜へと触れてくる。 「……んぁ……っ!」 「ほらほら、もうあふれ出してきてるよ?ふ……っ」 「…………っ!」 だめ……息……吹きかけられたら……。 「んふふ、このむわぁって蒸れてる感じが、とってもえっち……」 「……もう、いちいち実況しなくていい……から……ぁっ」 こんなコトになるなら、来る前にシャワーを浴びておくんだった。 って、それはそれで最初から期待してたみたいだけど……。 「ほぉら、中もこんなにあったかくてぬかるんでるし……。エッチなお汁でシーツを汚しちゃいそうだなんて、困ったメイドさんだよねー?」 「あ、あう……っ、も、もうっ、ちょっと性格悪くなってない……?」 特にわたしが今のメイドさん生活を始めてから、執拗に言葉攻めをしてくるようになった気がするんだけどっ。 「ん〜っ、これでも愛しのみゆちゃんにご奉仕させるなんてって、最初は葛藤もあったんだけど、でもせっかくだから貴重な機会を楽しまないとね?って結論になっちゃったから。ぐふふふ……」 「う、うう……っっ」 わたしとしては、そんなカミングアウトなんて聞きとうなかったというか。 「……だけど、みゆちゃんの方も案外まんざらでもなさそうじゃない?」 「…………っ」 「むふふ、トロトロでおいしそう……もうそろそろいいよね?」 「んあ……っ、だめ……今そんなコトされたら……」 わたしのカラダもアツくなって、止まらなくなっちゃいそう……。 「いただっきまーす♪」 「……んひ……っ?!」 しかし、ヘンタイお嬢様の方はまったく聞く耳持たずにいただきますを告げてきた後で、両手でわたしの両腿を固定しつつ顔を埋めて、さっきまで指で弄り回していた窪みへ口付けすると……。 「ふぁっ、ぁ……っ!らめ……そんなじゅるじゅる……ひっ」 「んっ、おいひい……みゆちゃんの……」 そのまま、恥ずかしい音を立てながらわたしが分泌してしまったものを吸い取りつつ、やがて貪るように舌をねじ込ませてきた。 「あふ……っ!」 「はぁっ、ゆいな……はげし……はぁぁ……っ!」 進入してきた舌は躊躇いなく敏感な粘膜を這い回り、わたしの背筋に頭の中が真っ白になりそうなぞくぞくとした感覚が走る。 ……もう幾度となく繰り返されているのに、決して飽きたりすることのない、この刺激。 「ん……っ、どんどん溢れてくる……」 「こ、こら……すこしは加減し……あひ……っ?!」 それはきっと、解き放たれてしまったこのヘンタイお嬢様への愛情やら、まったく躊躇いの感じられない舌づかいのせいだろうけど……。 (でも、がっつきすぎぃ……っっ) 「あ、ふぁぁぁぁ……ぁ……っっ」 一応、この体勢からだと表情を見られる心配がないのは救いとしても、多分親とかにはとても見せられない蕩けた顔になってしまっているような。 「はぁ、はぁ……っ、らめ……ああんっ」 (だめ、このままじゃすぐに……) 「…………」 「……え……?」 しかし、それからすっかりと柚奈の攻めに為すすべもないまま、早々に絶頂を迎えかけたところで、執拗に舐りまわしていた舌の動きが突然にピタリと止んでしまったかと思うと……。 「……ね、ホントにやめて欲しい?」 口元をべとべとにさせたまま顔を上げて、意地の悪い問いかけを向けてくるお嬢様。 「う……っ」 それは……。 「時間が無いから、ここで終わりにしちゃう?」 「も、もう、ずるいよ……ここまでしておいて……」 すっかりと、こちらのカラダにも火を点けておいて言ってくるんだもん……。 「ふふーん。……それで、みゆちゃんは誰のモノなのかな?」 「そ、それは……」 「ちゃんと答えて。……このえっちなメイドさんのイヤらしいお○んこは誰のもの?」 それから、ここぞとばかりに聞いている方が恥ずかしくなる直球の表現で尋ねつつ、わたしのヘンタイご主人様は促す様に指先を少しだけ埋めてきた。 「あう……っ」 「……ほら、ちゃんと言わないと続けてあげない。こっちのお口はこんなにひくひくさせてるけど、心とカラダは別ものだしね?」 「〜〜〜〜っっ」 むしろ、こーいう時こそ「カラダは正直だよ〜?」と一方的に攻めて欲しいのに、最近はこういう意地悪を覚えられてしまったのが困る。 「で、どーなのかなぁ?」 「……う〜っ、このヘンタイめ……」 そんなの、今更わたしが言葉にしなくても分かりきってる癖に、これも散々焦らせてしまった反動なんだろうか? 「んふふー。言われるまでもなく、みゆちゃん限定のヘンタイさんですからー。……けど、こんな私でも悪くないって思ってくれてるんだよね……?」 「……ああもうっ、分かったわよ……っ。わっ、わたしの……は柚奈のものだから……」 「んー、ごにょごにょ言っても分からないよぉ?もしかして、ココのコトかなぁ?」 ともあれ、開き直った言葉と抵抗を失わせる殺し文句に陥落させられたわたしは、顔を火照らせながらも肯定してやるものの、柚奈の方はまだ満足してない様子で、秘所のさらに下にある窪みを指でつんつんしてくる。 「ひ……っ!こ、こらぁ……っ」 「ふふふ、ココも弱いもんねぇ?このえっちなメイドさんは……」 「〜〜〜〜っっ」 指先でひだをなぞられるたびに走ってくる、ぞわぞわとした刺激。 素直に気持ちいいと認めてしまうにはあまりにも恥ずかしいトコロだけど、またその羞恥心が余計に敏感にさせられてる感じで、自然と腰が小刻みに震えてしまう。 「ホント、この反応の良さが可愛いやら、心配になってくるやら……」 (あー、もう……) 相変わらず、妙なところで小心者になっちゃうんだから……。 「ん……っ、し、心配しなくても、ぜんぶ丸ごと……だってば……」 「みゆちゃん……」 「それに……わたしにはこのくらいのコトしか出来ないし……」 だって、これは償いなわけで。 「んー、それはさすがに卑下しすぎだと思うけど……まぁでも、そーいうカクゴなら……」 すると、柚奈は少しだけ苦笑いを浮かべた後で、ニヤリと意地の悪そうな笑みを見せると……。 ぬぷっ 「んぃ……っ?!」 不意に、入り口を弄くり回していた柚奈の指先が、慣れない異物感と共に窪みの中へ埋まってくる。 「あは、結構すんなり入っちゃった」 「ち、ちょっ……そんな……」 まさか、いきなりお尻の中へ指入れてくるなんて……っ。 「こーいうの今までやってなかったから、ちょっと苦しいかな?……けど、きゅうきゅうと締め付けてきてあったかい……」 「だ、だって……んく……っ!」 ふんばってしまえば余計に圧迫するのは分かってるのに、身体が反射的に入ってきた指を追い出そうとして、結果的には締め付けてしまっているみたいで、慣れない苦しさともどかしさに困惑してしまうわたし。 今まで、舌先をねじ込まれたコトは何度もあるけど、それとは違って何だか串刺しにでもされてしまった様な感覚。 「はぁ……はぁ……っ」 ……まぁ、痛みはないのがせめてもの救いかもしれないけど……。 「んふふ、がんばって出そうとしてるみゆちゃんのお尻かわいい……ほら、ひくひくって……」 「……っ、い、いい加減に抜いて……はぁ……っ?!」 それから、さらに言葉で羞恥を煽られ、顔に火が点きそうな熱を帯びながら懇願しようとしたものの、ヘンタイお嬢様はお構いなしで挿入した指を更に奥へと押し込んでくる。 「く……ぅ……!」 といっても、実際はほんの少しだけ深く潜り込まれただけなのに感触が大きく変わってきて、何だか知らない方がよかった様な刺激をどんどん植えつけられてる恐さを覚えてしまうわたし。 「ほら、少しずつ慣れて気持ちよくなってきちゃったりしない?」 「な、なるワケな……あひっ?!」 そして、このまま妙な快感を覚えたらどうしようと不安になるわたしをよそに、ヘンタイお嬢様は挿入した指先を傾けてグリグリとこねくってきたりして……。 「ちょっ……それダメ……!やぁ……っっ」 敏感なトコロへ柔らかい指先の感触が蠢いて、段々と妙な気分に……。 「……っ、はぁぁ……」 「あは、いい反応♪……みゆちゃんってお尻も敏感だから、一度やってみたかったんだよねー」 「はぁ……はぁ……っ、だからって、イキナリなんなのよ……っ!」 こっちは全くの想定外で心の準備もしてなかったから、不意打ちにしても心臓に悪すぎである。 「だって、”今”じゃなきゃぶっ飛ばされそうだし……」 「ぐ……っ」 確かに、本当なら「後で覚えてなさいよ」とでも捨て台詞を吐くところだけど、今はこのお嬢様にはナニをされても甘んじなければならない身……。 「……でも、一応これってお仕置きのつもりだったんだけどねぇ?」 「な、なにがよ……?ん……っ!」 しかし、そこから不意に心を見透かした様な言葉を向けられてドキっとさせられた後で、柚奈がもう片方の指で花弁の入り口を弄り始めると、イヤらしい音が小さく響いてくる。 「んふふ、カラダは正直ぃ〜」 「――っ、し、知らない……っっ」 ……いや、もう充分なお仕置きは受けてる気はするんですけど……っっ。 主に羞恥プレイの方向で。 「んふふー、この調子なら、”こっち”は、ちょっとだけイロイロしちゃってもいいかな?なーんて……」 「い、いいワケないでしょ?!……んひ……っっ」 いくら、もう既にお互いにカラダの隅々まで触れたり舌を這わせた仲だからって、更にディープな世界へは心の準備というものが……。 「ま、そーだね。……時間はたっぷりあるんだし、慌てずじっくりと……ぐふふ……」 それでも、わたしのヘンタイお嬢様は聞き入れる様子もなしに不穏な呟きを残しつつ下腹部へ顔を埋めると、お尻に入れた指を出し入れしつつ、再び花弁へ舌先を這わせてくる。 「ふぁっ!ちょっ……いい加減抜いて……」 「ん……っ、だぁーめ……今回はこのまま……」 「や、やぁ……っっ」 そ、それはいくらなんでも……。 「んふ……っ、処女(バージン)なのにお尻は仕込まれ済みとか、結構ゾクゾクしちゃうよね?」 「ちょっ……まさか、本気でやるつもりじゃないでしょーね……んあっ!」 「さーて、ね……。けどもし、茜ちゃんたちが聞いても引いちゃうかな?んふふ……」 「ば、ばか……悪趣味ぃ……っ」 しかも、ここで茜たちの顔を思い浮かばせるなんて……。 (う〜っ、もしかして、こっちもヘンな道に目覚めかけちゃってる……?) 「はぁ……ふぁぁ……っ」 やがて、そんなキケンな予感と共に、絶え間なくお尻を掻き回されつつ、一番敏感な部分を執拗に舌で舐られ、わたしの背筋にぶるっと来る様な感覚が上ってくる。 「や……らめ……わたし……もう……っ」 「ん……いいよ……いっぱい気持ちよくなって?」 「そんな……や……せめて……ゆび……抜いてぇ……」 「だーめ……」 「……っ?!」 そして……。 「い……っ、ふぁぁぁぁぁ……っ?!」 いつもと違った背徳感やら困惑やら刺激やら、言い表せないフクザツな気持ちと共に、もう通算で何度目か分からない柚奈の指と舌で絶頂を迎えさせられてしまった。 「はぁ、はぁ……はぁ……う〜〜っ」 「……あは、みゆちゃんがイッた瞬間に、お尻もきゅって締まっちゃって可愛かったよ〜?」 「…………っっ」 それから、ほぐれきったお尻からようやく白くて細い中指が引き抜かれた後で、脱力感の赴くままにシーツの上へぐったりと背中をもたれかけると、ヘンタイお嬢様からトドメの言葉を告げられ、思わず両手で顔を覆ってしまうわたし。 ……さすがに、いくら好きな人相手だからといって恥ずかしすぎる。 「やっぱり、満更でも無かった感じ?んふっ」 「ばか……」 「まぁまぁ……ほら、いつまでも顔を隠してないで、ちゅーさせてよ?」 「……もう……」 しかも、柚奈お嬢様の方は構わずそう続けると、覆いかぶさりつつ強引にわたしの手を取って赤面した素顔をさらけさせると、そのまま遠慮なく唇を重ね合わせてくる。 もちろん、今のわたしがそれを拒む理由は無いんだけど……。 「ん……っ、あの、念を押しとくけど、茜たちに言いふらすのはやめてよね……?」 「そりゃもちろん、茜ちゃんにあたしも試してみるーとか思われると困るし」 「いや、そーいうイミじゃなくて……」 ……というか、茜にちょっと負い目のあるわたしはとっくに水に流しているというのに、柚奈の方は相当根に持ってるみたいだった。 (ま、いーけどね……) そんな柚奈の独占欲が、今は心地いいのも確かだし……。 「うふふ、ごちそうさま。……さて、今度はみゆちゃんから……と言いたいんだけど、さすがにそろそろ着替えないとまずそうかな?」 ともあれ、やがて何度か目の口付けの後で、ようやく身を起こした柚奈はパジャマを脱ぎつつ攻守交替を告げかけたものの、すぐに苦笑い交じりにそう続けてくる。 「もう、何だかんだでちゃんと考慮してたんじゃないのよ……ったく……」 「んっふっふー♪ま、ご主人様はそうでないと」 「……まーね……」 (ご主人様、か……) まさか、追いかけっこの関係から脱却した後でこんな立場関係になってしまうなんて、運命とは数奇なものと言わざるを得ないというか。 「じゃ、そろそろ着替えさせてくれる?」 「へいへい……かしこまりました……」 しかし、くどいけどこれもわたしが自分で選んだ選択。 「……んじゃ、そこのお水とタオルで手とお口を清めたら、そのまま大人しく待ってて下さいな、柚奈お嬢様?」 わたしは小休止もそこそこに主の求めに応じて再び身を起こすと、居住まいを正しながら”お仕事”に戻ってゆく。 「はーい♪」 「……あ、それと下着も返しなさい」 「えー……。みゆちゃんいない時に寂しいから、お供にしたいんだけど……」 「おだまり……。ったくもう、なるべく早く片付けて戻ってくるから」 「うん……」 「…………」 まぁ、そこで急に寂しそうに視線を落とされると、わたしも胸は痛んでくるんだけど……。 「……でも、やっぱりいつまでも握り締めてないで返しなさい」 ぶっちゃけ、見てる方が恥ずかしいんだから。 「ぶ〜……」 (やれやれ……) ともあれ、わたしはひったくる様に剥ぎ取られたショーツを奪い返した後で手早く身に着けると、心の中で小さくため息を吐きつつ、室内のクローゼットの前へ向かってゆく。 「…………」 「……ところでさ、先輩たちから聞いた話だと、元々着替えとかは自分でやってたそうじゃないの」 それから、このお仕事を始めてから新たに請け負った毎日のお勤めの一つを果たす前にふと思い出したわたしは、衣服を選ぶ手を止めないまま水を向けてみたものの……。 「うん。それがなにか?」 「……いや、なんでもない……」 確かに、今さら愚問でしたかね。 「……でも、いちおーは私ってわざわざ頼むより自分で動くタイプかなって思ってるんだけど……」 「まー、ムダに行動力あるもんね、あんたは……」 そして、選択は一任されてる着替えを見繕って戻り、未だ慣れない手つきで着付けてゆく中で柚奈お嬢様がそんなコトを呟いてきたのを受けて、とりあえず苦笑いを返すわたし。 おしとやかな大和撫子イメージにそぐわずというか、芽衣子さんも含めて姉妹揃ってだから、もしかしたら血筋なのかもしれないけど。 (……あるいは、小百合さんも……かな?) 「けど、こうしてみゆちゃん相手にまた受け取る側になって、やっぱりこっちも悪くないかなって思ってるのは、ちょっとフクザツなんだよね〜、あはは」 「まー、”両面”持ってるってコトなんでしょ?……っていうか、また……?」 「えっと……あー、ううん……今のは忘れて?」 ともあれ、それから続いた会話の中に、なにやら引っかかりを覚えて突っ込んだわたしに対して、柚奈は最初に少しだけ躊躇うように口ごもった後で、結局は首を小さく横へ振って取り消してしまった。 「……えー、そう言われても……」 気になる言葉を聞かされた時ほど忘れてとか、気にしないでと言われる法則。 「それより、ホントにこの夏休み期間中はずっとメイドさん生活を続けるの?みゆちゃん」 「んーまぁ、本来は夏休みどころか、10年かかっても返せないおハナシなんだし……」 それを、特別に一月に圧縮してもらったんだから、わたしの方からギブアップする道はない。 「…………」 「それにさ、大切なモノだったんでしょ?」 「うん……けど……」 「けど、はなし。……今回ばかりはあまりわたしを甘やかさないで、柚奈?」 でなきゃ、この心苦しさは晴れないし、これからの二人の為にも、ね。 「……わかった。みゆちゃんがそこまで言うなら……」 「ありがと。……すまんね、柚奈の方が被害者の方なのに気を遣わせちゃって」 「むぅ……加害者とか被害者とか、そういうのも好きじゃないなぁ……でもまぁ、これで望みの一つは叶ったんだけど」 「望み?」 「……だって、この夏休みはうちで合宿しようと言っても、みゆちゃんなかなか色よい返事をくれなかったじゃない?どうせ、ゲームが無いからって理由なんだろうけど」 「あー、思い出させないで……せっかく、きっぱりと断ち切ってきたつもりなのに……」 「もー……償いのつもりなら、せめてヤキモチ妬かせないでよね?でないと……」 そして、続く言葉の代わりに、右手を腰の後へ回してお尻をむんずと掴んでくる柚奈。 「う……心得ましたよー、ヘンタイお嬢様……。あと、どうかお戯れもお手柔らかに……」 「んふふー。それは保証できないかなぁ?」 (ううう……ホント、これからどうなっちゃうんだろう、わたし……?) 何だかんだで状況を楽しんでくれる気があるのは結構だけど、やっぱり受難の予感は尽きなかったりして。 「…………」 ちなみに、どうしてこうなってしまったかと言えば、話は夏休み前までに遡るわけだけど……。 続く 次のページへ 戻る |