茶の心


メルウィン「旦那様、珈琲をお煎れしました。はいどうぞ。」
作者「ありがと。...ふうっ、やっぱモカはいいねぇ。この野生物ある甘酸っぱい味と鋭い香り...」
メルウィン「へぇ... 流石ですね。お砂糖とミルクをふんだんに加えられているのにそこまでお分かりになるなんて。」
作者「.........」
メルウィン「あれ?どうなさいました?旦那様?」
作者「...別に...どうせブラックで飲めないくせに通ぶっているまがい物だよ...」
メルウィン「ご、ごめんなさい旦那様、私、そんなつもりでは...」
作者「別にいいけどね。事実だし。」
メルウィン「拗ねないで下さいよぉ(汗)。」

メルウィン「しかし、日本人の方ってお茶のレパートリー多いですよね。」
作者「世界中のお茶を何でも飲むからなぁ。何でも受け入れる雑多な人種らしいといえばらしいけど。」
メルウィン「旦那様もご多分に漏れずって感じですよね(^^)。珈琲紅茶ハーブティ緑茶に....あ、お抹茶までありました。」
作者「まぁこれでも元茶道部だからね。たまに抹茶が恋しくなる事もあるのさ。」
メルウィン「...でも正直言って私はあまり好きな方じゃありませんね。ただ苦いだけってイメージがあって。」
作者「まあね。しかもそれはメルだけじゃ無くて沢山の人がそう思っていると思うけど...」
メルウィン「旦那様には申し訳ないですけどやっぱりそんな感じでしょうかね...」
作者「...う〜ん... と言うよりおいしい抹茶の飲み方を知らないっていうのが殆どだと思うけどね。」
メルウィン「そうなんですか?」

作者「まぁ一口においしい飲み方って言っても色々要因はあるんだけどね...まずは点てる人の腕に依存している訳だし。」
メルウィン「そう言えば旦那様は茶道部に参加されていたっておっしゃってましたけど元々お抹茶はお好きだったのですか?」
作者全然第一茶道部時代も飲むよりお手前やる方が全然好きだったし。」
メルウィン「はぁ。どうしてですか?」
作者「...まぁ自分の特技を披露している時ってのが一番快感だしさ(^^)」
メルウィン「....何となく不純な動機な気も(^^;)..」
作者「あはは。まあね。まぁそれでも抹茶の飲み方位は分かってきたけどね。」
メルウィン「まずはお建てになる人の腕...ですか?」
作者「そ。まずは抹茶はうまく点てるのが難しいからね。抹茶の銘柄の選別、お湯の温度や、お湯の量と抹茶のバランス、泡立てのきめ細かさ....等々留意点を挙げればきりが無い。抹茶自体も値段や用途(濃茶、薄茶用)で千差万別だし。」
作者「しかもこういう形式なんで味見が出来ないんだねぇ。要するに見かけと手応えで判断しなきゃいけないという(^^)。勿論抹茶自体の味見は事前にするけど、今点てたお茶がそれと同じという保証は無いし。」
メルウィン「点てるのは機械と違って人間の手ですからね。」
作者「そう言うこと。どんなに良い抹茶でもそれを点てる人で於福加減が全然変わってしまうものだからね。そのお茶を生かすも殺すも...」
メルウィン「お手前さん次第と...」
作者「さらに追加しておくと抹茶は原則的に抹茶以外何も加えないからね。正に一切の誤魔化しが効かないって訳。」
作者「だから上手い人が点てたのと下手な人が点てたのをどっちを飲んだかでかなり印象が変わる(^^)」
メルウィン「旦那様はいかがですか?自信はおありです?」
作者「薄茶に関しては結構自信あるよ。茶道部時代もこれにかけては誰にも負けないつもりだったし。」

作者「でもなぁ。これだけじゃダメなんだよな。」
メルウィン「お手前さんの腕だけではって事ですか?」
作者「そ。はっきり言って抹茶はそれだけで飲むものじゃ無いしね。はっきり言って抹茶はお茶菓子とのハーモニーだから。つまり、良い抹茶には良いお茶菓子が必要なんだよん。」
メルウィン「なるほど....」
作者「留学先で友達に安易にお茶を点てない理由もここにあるんだよね。アメリカなんで日本と比べて良いお菓子がなかなか手に入らない。」
メルウィン「それに輸入品ばかりですからかなり高価ですしね(^^)。」
作者「でもまぁお菓子が上等だったらいいってもんでもないけどね。大切なのは抹茶とお菓子の相性。要するにただ何も考えないで高い抹茶とお菓子を用意すればいいっていうもんでもないって事。」
メルウィン「はぁ...」
作者「まぁ百聞は一見にしかず。とりあえず実験してみようか。」
メルウィンい、嫌な予感.が..」
作者「大丈夫だって。ちと抹茶を3杯ほど飲んでもらうだけだし。」
メルウィン「眠れなくなったらどうするんですかぁ(汗)?」
作者「その時は夜伽の相手でも申しつけて.... こら、冗談なんだからそんな目で見るな(汗)」
メルウィン「旦那様ぁ...(じーっ)」
作者「....大体夜伽って本来の意味はそういう意味じゃ無いんだけどね....」

作者「...さて、気を取り直して、まずはここにあるお菓子と抹茶を飲んでみて。お菓子は鶴家安芸の織部最中でお茶は観月(かんげつ)。どちらも僕のお気に入り。まぁ観月は30g2000円程度だからそう高い抹茶でもないけど。」
メルウィン「では.... この最中はあまり甘くないですね... おいしいです...」
作者「上品な味だからね。誰に出しても大丈夫って感じで。さて、んじゃ抹茶飲んで。勿論おいらのお手製。」
メルウィン「...何か凄くクリーミーですね(^^)。いただきます...  (ごくっ)   ....うっ、に、苦いです(泣)....」
作者「だろうねぇ。ちと濃いめに点てたから。ついでに言うと観月は元々濃茶用の抹茶だし。」
メルウィン「...旦那様ぁ?
作者「恨めしそうな顔でみるなってば(汗)。別に苛めているんじゃないんだから。」
メルウィン「.....本当ですかぁ?」
作者当たり前だって(^^;)。で、まあ当然今回のパターンは失敗のパターンな訳ね。お菓子が甘くないのに濃い抹茶を出してしまった。これじゃどんなに上手に点ててもただ苦いだけ。」
メルウィン「すごく苦かったです..と言うことではい、旦那様。」
作者「...え?...もしかして後は僕に飲めと...?」
メルウィン「......ですか?」
作者「...あ、あはははは。そ、そうだね...(しまった、こういう展開になろうとは....)」

1時間後...

作者「って事で、今度はこっちを試してみて。お菓子は虎屋の羊羹で、お茶はさっきと全く一緒。於福加減(濃さの事)も同じ(にしたつもり)。」
メルウィン「...と言うことはまたかなり苦い思いをしろと...」
作者今度は大丈夫だって(^^;)。成功例の例題のつもりだし。もし気に入らなかったらちゃんと又責任とるから。」
メルウィン「それを聞いて安心しました♪ では.... こ、今度のお菓子は随分甘いですね...」
作者「虎屋の羊羹の甘さはかなりの甘党すら舌を巻くからねぇ(^^)。羊羹好きな僕でも3切れが限界だったり(汗)」
メルウィン「...それでは覚悟を決めて.... お抹茶をいただきます.... (ごくっ)  あれ...今度は凄くおいしいです... 苦みがちょうど良いというか心地よいというか...」
作者「だろ? 甘いお菓子の時には濃いめの抹茶が良く合うんだよん。この場合は抹茶がおいしく感じるだろ?」
メルウィン「ええ、そうですねぇ...」
作者「要するにこれが抹茶の正しい飲み方って訳。んじゃついでにこっちもどうぞ。お菓子はらくがん(普通のお干菓子)でお茶は四方の薫。こっちは完全に薄茶用だよん。」
メルウィン「.... なるほど.... かなりさっぱりしてますね... 」
作者「お菓子が甘くない時はこの様に薄めに作るのが正解って事。まぁ、今回の於福加減は厳密に言うと普通とは少し異なるんだけど...今回のは実際お湯に味が付いたって程度だし。」
メルウィン「?」
作者「実はお茶会の席では大抵二服、お客にお茶をお出しするんだよ。一服目は甘いお菓子(饅頭等)にさっきメルが飲んだ様な少し濃いめの加減で、そして二服目はお干菓子にかなり薄めに点てたお茶を。こうする事で抹茶特有の後味の悪さを幾分解消するんだ。場合によったらお湯だけ求めるお客もいるし。まぁ、勿論この場合途中で抹茶を変えたり出来ないからお湯と入れる抹茶の量で加減するんだけど。」
メルウィン「ああ、なるほど。確かにお抹茶って後まで残りますからね(汗)。」
作者「まぁ流石に熟練のお茶人さんでもそう濃い抹茶を何杯も飲みたくはないからね(^^)。ここら辺は昔からの形式というより茶人としてのささやかな心遣いだよ。」
作者「そして...これが茶道の基本理念でもあるって信じてる。「まずお先に」という謙虚さ、そして「お客にお茶席を楽しんでいただこう」という仕える心。その時その時の一瞬を大切にする「一期一会」の精神も、相手に対する思いやりの現れであるべきなんだね。」
メルウィン「旦那様...」
作者「結局それがお茶の味を決定するのかもね。物理的な経験やテクニックが足りなくても、相手への真心が込められたお茶なら、そしてそれが飲み手に伝わればきっとおいしく感じるはず。 ...実際そんな経験も多くしてきたつもりだし。」
作者「ま、そうは言ってもなかなか難しいんだけどね(^^;)。自分では心を込めたつもりでもなかなか伝わらないもんだし。」
メルウィン「旦那様...」
作者「ん?」
メルウィン「ありがとうございます。」
作者「... どういたしまして。」

作者「まぁ、だから抹茶って誰かに点ててもらうのが一番なんだよな。自分で点ててもあまり美味しくない(^^)。」
メルウィン「くすくす。確かにそうかもしれませんね。」
作者「...って事でいつかメルが点ててくれると嬉しいんだけど.... 今日の所はモカのお代わりもらおうかな。」
メルウィン「はい。かしこまりました。 では。」
作者「あ.... ええと、今度はブラックでね。」
メルウィン「...(^^) ご無理は体に良くありませんよ。くすくす。」
作者いいからさっさと持ってこい
メルウィン「は〜い(パタパタ)」
作者「....どうせメルの事からさりげなくミルクと砂糖も一緒に持ってくるんだろうけど(^^)...」


館へ戻る    談話室へ