使の舞い降りた街 美幸編 その4


第七章 聖夜

 痛みというものは、傷付けられた瞬間に感じるものではなく、その後で傷口が空気に触れた時に発生するものらしい。
 もちろん、それは切り傷を受けた時の話だけど、もしかしたら、心の傷も似たようなものなのかもしれない。
「ふぅ……」
 その夜、いつものように一人で夕食を食べてお風呂にも入った後で、わたしは机に向かったまま何をする気もなしに溜息を吐いてばかりだった。
 宿題もまだ終わっていないし、メールの返信も滞っているのに、まったく困ったものである。
「…………」
「…………」
(はじめての唇を奪われただけじゃ飽き足らずに、教室に連れ込まれてあんなコトまでされちゃうなんて……)
 十六夜さんから解放された直後は、自分よりも落ち込んでしまった夢叶の方に気を取られて、それほど気にしていないつもりになっていたものの、それから誰もいない家に戻り、こうして独りになった後でジワジワと心が蝕まれる痛みを感じるようになって、思っていた以上に傷付いていたのに気付かされていた。
『ご協力感謝するわ、美幸ちゃん?大丈夫、傷は付けていないから』
「…………」
 確かに身体の痛み(主にお尻方面)は残っていないものの、心の方はこうして後遺症が残っているわけで、一体こちらはどうしてくれるのだろうか?
 ……まぁ、だからといって「ケアしてあげるからまた二人きりになりましょう?」なんて言い出されても困るんだけど。
(いや、それはないかな……?)
 わたしの精気が好物だからと近寄り、悪戯を楽しんでいた様でも、実際には何か別の目的を持っていたのが分かっちゃったし、実際の話、あの人の視界には夢叶しか映っていないんだと思う。
 ……つまり、わたしは所詮、天使にちょっかいを出す為のエサとして利用されているに過ぎないワケであって。
「まったく、何なんだかなぁ……」
 いずれにせよ、こんな調子でわたしは今後も天使と悪魔のイザコザに巻き込まれ続けてゆくのだろうか?
「…………」
 ただ、それでも不思議なことに、夢叶との縁を切って災いの種を排した方がいいのかな?みたいな考えにはならないのよね。
「……夢叶、かぁ……」
 そこで、わたしはそのコの名をぽつりと呟きながら、夕暮れ時のコトを回想していった。
 ……結局、あれから自分の胸で泣きじゃくる夢叶が落ち着くまで待った後、殆ど言葉を交わさないまま一緒に校舎を出たところで別れてしまったけど、そういえばあの打たれ弱いヘタレ天使様は今頃どうしているんだろう?
 やっぱりわたしと同じく、何もする気が起きなくてぼんやりとしているのかな?
 あの涙の理由は分からずじまいだったものの、随分と落ち込んでいたのは確かみたいだから、ちゃんとご飯を食べていればいいけど。
 それで、お風呂に入って汗も涙も全て洗い流した後で……。
「…………」
「……ちょっと早いけど、もう寝ようかな?」
 まぁ、自然とそういう流れになっちゃうわよね、やっぱり。
 今日はもう何をやっても手に付かないだろうし、このままぐっすりと眠って明日の朝に目が覚めた時には頭の中がすっきりと切り替えられているのを祈るしかないか。
「…………」
 いや、本当は何だか無性に夢叶の声が聞きたくなっているんだけど、電話をかけるにしてもどんな話をしたらいいのか分からなくて行動を起こせない。
(あはは、ヘタレはお互い様、か……)
 ならばせめて、夢で逢えるかな?
「……まぁいいや。おやすみぃ……」
「…………」
「……ん……?」
 それから、照明のリモコンを手にして部屋の明かりを消したところで、カーテンの向こうのベランダから月明かりとは明らかに違う不自然な発光を放つ存在が“居る”のに気付くわたし。
(まさか……)

 ガラッ

「……こんばんは、美幸ちゃん♪」
「…………っ!」
 やっぱり、そのまさかだった。
 カーテンを乱暴に広げ、引き戸を開けた先にいたのは、ベランダの手すりに腰をかけながら満面の笑みを浮かべる大天使様が一人。
 その背中には幾重にも広がった、白銀色に輝く翼を広げて。
「やっぱり、夢叶……一体、いつから来ていたの?」
 おそらく、一年で最も寒い時期の深夜、暖房なしだと室内でも凍える程の気温だというのに。
「さて、そんなコトには興味無いですねぇ」
 しかし、夢叶の方は寒さなんてどうでもいいとばかりに、いつもの笑顔を絶やさないまま肩を竦めてくる。
 そして……。
「……んで、こんな夜更けにどうしたのよ?」
「夜這いにきました」
「よ、よば……?」
 極めて直球な短い言葉で用件を告げるが早いか、夢叶は翼を羽ばたかせてわたしの胸へと飛び込んで来た。
「わ……っ?!」
 それから、目を見開いているうちに抱きかかえられ、そのまま奥にあるベッドの上まで運ばれた後で、綺麗な羽根を撒き散らせながら押し倒されてしまうわたし。
「……もう、結局夢叶も力ずくじゃないのよ」
「不躾なのは分かっています。けど、嘘をつけないのが天使ですから」
「自分の欲求にも?」
「ほんと何なんでしょうかね、この気持ち……やっぱり自分でも良く分からない位ですけど、でもこの胸が締め付けられるような苦しさや、昂ぶりきった気持ちを鎮めるには、もうこうするしかありません。だから……」
「だから……?」
「美幸ちゃんを、抱きたいです」
 そして、一旦止まったセリフの続きを要求するわたしに、夢叶は覆い被さったまま澄んだ蒼い瞳をまっすぐに見据え、またも飾りっけのない直球な言葉で告白してきた。
「夢叶……」
「嫌われてしまうのはイヤですけど、平手打ちぐらいは我慢します。ですので……」
「…………」
「美幸ちゃん、このままキスしちゃってもいいですか……?いえ、是非させて下さいっ」
「……いいの?わたし、今日も十六夜さんにまた唇を奪われてしまったわよ?それも、二度三度と念入りに」
 一応、お風呂ではいつもより丁寧に身体を清めた後で、歯もしっかりと磨いてはいるけど。
「だったら、尚更です。私がしっかりと浄化しておかないと」
「……また、知らないうちにヘンな呪いを仕込まれていても困るしね」
 使い捨てとは聞いたけど、また新しいのがこっそり埋め込まれている可能性もなきにしもあらず。
 ここは、ちゃんと調べておいてもらった方がいいかな……?
「じゃあ、目を閉じてもらえます?」
「うん……」
 というワケで、流れも決まって促されるがままに目を閉じるわたしなものの……。
「…………」
「……ゴメンね、夢叶。あんなにコトになる位なら、ファースト・キスをさっさとあげればよかったのに」
「いいえ、それだけ美幸ちゃんが真摯に私とのお付き合いを考えてくれていたからですし」
 しかし、無粋とは分かっていながらも、何だか申し訳ない気持ちが再燃して、唇を受け入れるより先に顔を背けて謝罪の言葉が出てしまうわたしに、夢叶は優しい笑みを浮かべながら首を横に振って見せる。
「そういう所も、私が美幸ちゃんに惹かれている理由の一つですし、特別に思ってくれているんだって解釈していますから♪」
「夢叶……」
「だけど、やきもちを焼いているのは事実ですよ?だからこうして……」
「あはは、夜這いに来ちゃったと」
「……本当は、これも天使にとっては許されない感情なんです。だけど、だけど……」
「ううん、もう何も言わなくたっていいよ、夢叶」
 それから、会話をループさせながらも必死に訴えかけてくる夢叶に、今度はわたしの方が首を横に振ってそれ以上の言葉を制した。
「美幸ちゃん……」
「実を言うとね、さっき明かりを消すまでは夢叶の声が聞きたいってずっと思ってたの」
 そうしたら、電話をかけるのを躊躇っていた一方で、まさか当人がベランダまで来ていたなんて思わなかったけど。
「え……?」
「……だから、夜這いってのはさすがに驚いたけど、こうして会いに来てくれたのはわたしも嬉しいんだよ、夢叶?」
「ほ、本当に……?」
「うん……今から、その証を立ててあげる。夢叶、目を閉じて?」
 そして、わたしはそう言って瞳を見開く夢叶の頬に手を添えると、相手が指示に従うのを待たずして自分から引き寄せ、やや強引に互いの唇を重ね合わせてやった。
「……んん……っ?!」
 今回で唇へのちゅーは三度目になるものの、自分から進んでしたのはこれが初だから、一応はこれで夢叶にもわたしの“はじめて”の一つをあげられたかなと。
 ……うんまぁ、こじつけっぽいのは自覚しているけど、所詮は気持ちの問題だしね。
「…………っ」
(それに、すごくきもちいい……)
 ともあれ、あたたかくて柔らかいっていう直接的な感触は十六夜さんの時と大きく違わないものの、今回はようやく差し出すべき相手にあげられたという気持ちが、何とも言えない心地よさと安堵感をわたしに与えていた。
「ぷぁっ……美幸ちゃん、ありがとうございます……」
「お礼を言われるコトじゃないってば。……それに、わたしの方も案外悪くないかなってね」
 そう言って、一旦離れた唇をもう一度自分から重ね合わせるわたし。
 学校や街中とかで公然とってのは困るけど、二人きりの時なら、今まで散々もったいぶってきた分は取り戻させてあげてもいいかな、なんて思ったりして……。
「ん……んぅっ?!」
 ……と浸っていたのも束の間、わたしはすぐに添えた手を夢叶に奪われ、そのまま絡み合わせながらシーツの上へと押さえ込まれてしまった。
「ぷはぁ、はぁ……っ、美幸ちゃん……っ」
「……もう、そうやって息を荒くしてると、何だかアブない人みたいよ、夢叶?」
 まぁ、連続して息が苦しくなるまでしてるんだから、当然ではあるんだけど。
「だって、夜這いをかけてきているヘンタイさんですから。んふふ〜♪」
「あはは……完全に居直ってもいるのね……」
 しかも、背中の翼を子犬の尻尾みたいにパタパタと羽ばたかせているし。
(あ、やば……)
 だけど、苦笑いを見せながらも、夢叶にならどんなコトされてもいいや……なんて思い始めてるわたしもいたりして。
「ほら、この世界の諺で、せっかくの据え膳を美味しく頂かないのは恥と言いますし」
「……何か色々間違ってる気もするけど、まぁいっか」
 据え膳にしてしまったのは、紛れもなくわたし自身だしね。
「では、お許しもいただいたトコロで遠慮なく……」
「あっ、でもちょっと待った……っ!」
 しかし、それから夢叶の口元と手がそれぞれ首筋と胸元へ伸びてきたところで、慌てて一旦引き剥がしつつ制止をかけるわたし。
「え〜?今更お預けなんて殺生ですよぉ……」
「そうじゃなくて、コートと翼がちょっと邪魔なの」
 部屋の照明を切っているから、余計に眩しいってのもあるんだけど。
「……あ、そういえばコートも靴も脱いでいませんでしたね?」
「ついでに、戸も開いたままみたいだし」
 夢叶が飛び込んで来た後で引き戸を閉めた者はなく、あれからエアコンを効かせていた室内に冷たい風が吹き込み続けて空調も台無しになっていたりして。
「あ、す、すみません……」
「ほら、まだ夜は長いんだし、ちゃんと仕切りなおしましょ?」
「はい……ええと、こういう時は確か『今夜は寝かせませんよ?』とか言うんでしたっけ?」
「……ばか……」
 部屋の本棚にあった漫画に影響されすぎ。

                    *

「さて、これで改めて準備完了ですね♪……んふっ」
 それから、脱いだ靴をベランダの入り口に並べ、ちゃんと戸締りもした後でコートをハンガーに吊るして翼も消して……と、手伝う暇もないぐらいの手際で片付けてしまうや、夢叶は口元をだらしなく緩めた嬉しそうな笑みを見せながら、せかせかとベッドの上で待つわたしの元へ舞い戻ってくる。
「……もう、すっかり欲望丸出しって感じよ、大天使さま?」
 と、思わず苦笑いは浮かべるものの、そんな美人が台無しの助べえでしまらない表情を見せられても嫌悪どころか逆に愛おしさすら感じてしまう辺り、既にわたしは夢叶の魅了魔法にかかっているのかもしれない。
「あはは、十夜や同僚達に見せたら、また渋い顔をされちゃうかもしれませんけど……でも、今はすっごく幸せな気分なんです。美幸ちゃんが私の存在を信じて認識してくださったあのクリスマスの夜から、ようやく次の一歩へ踏み出せそうですし」
「そりゃ悪かったわね……今まで散々焦らしちゃって」
 ……けど、その魔法はきっと昨日今日で突然に発動した即席的なモノなんかじゃないはずだった。
「いえいえ、これからたっぷりと取り戻していけばいいだけですから♪うふふふふ……」
「…………」
 だから、そうやって両手をワキワキとイヤらしく動かされても、今宵ばかりはいつものツッコミの言葉が出なかったり……。
「んで、この電気を点けたままってのも、その一環なの?」
「もう、野暮なコト聞かないで下さいよ〜」
「……えっとつまり、隅々まで見る気まんまんってコト?」
「ダメですか?」
「うっ……別に、いいけど……でも……」
 恥ずかしいから部屋の明かりも消して欲しいと強く要求しきれずに……。
「でも?」
「……夢叶のえっち……」
 結局、今のわたしは顔を赤らめながら呟く位が関の山だった。
「むふふふふ、たまらない位に可愛いです、美幸ちゃん……!」
「あぅ……っ」
 ……だけど、十六夜さんに脱がされた時は怖さとか不安ばかりだったのに、今は決して悪い気分なんかじゃない。
 夢叶の手によってゆっくりとパジャマの上着が両腕を通って身体から離れてゆく中で、胸がドキドキと高鳴っているのは同じだけど、今は何だかくすぐったいような、怖さじゃなくて、その、えっと……。
(期待感……?)
 さすがに夢叶には言えないけど、多分そんな感じなんだと思う。
「んふっ、下着もかわいらしいですね〜。上下お揃いですか?」
「って、脱がしながら聞いてくるんじゃないわよ、もう……っ」
 そして夢叶の予告通り、本当に遠慮無しにズボンの方も引き下ろされた後で、更にそのドキドキ感が高まってゆく。
「やっぱり、お揃いでかわいいです♪……というか、確か温泉スパに行った時もこの下着でしたよね?」
「よく覚えてるわね、そんなコト……目ざといんだから」
 同時に、このお揃いの組み合わせ(薄桃色ベースの、どちらもピンクのリボンとフリフリ付き)はわたしの一番のお気に入りでもあるワケで、まったくこの天使様はタイミングが良すぎるやら恥ずかしいやら。
「だって、天使には自らの五感を通して得られた情報を正確に記録し続ける能力がありますし、今の私にとって美幸ちゃんと共に過ごした記憶は最優先で保存されるべきものですから」
「えっと……それって、つまり浴場で色々されちゃったコトも含めて?」
「もっちろん、美幸ちゃんのおもらしの温もりまで、です♪」
「ば、ばかっ、それは今すぐ忘れなさいっ」
 そう言って、あの時に受け止めた右手をかざしてうっとりと眺めはじめた夢叶に、わたしは慌てて身体を起こして止めようとしたものの……。
「それに、美幸ちゃんって学校で着替える時は私の視線をいつも気にして、なかなかじっくりと見せてもらえる機会も無かったですしね?……ましてや、こうやって触れられるなんて」
 しかし、それも夢叶はあっさりと押さえ込みつつ、しみじみとした口調でそう続けると、今度は感触を確
かめるようにブラとショーツへそれぞれ手を這わせてくる。
「んぁっ!……そりゃ、イヤらしい視線を感じれば誰だって隠すってば……ぁっ」
 ただ、それでも何故か他のクラスメート達は夢叶を咎めるどころか、「少しぐらいなら見せてあげたら?」と、わたしに促してくる連中ばかりだったりするんだけど。
「……でもだからこそ、ようやくお許しを貰えた感慨もひとしおですが。うふふふふ〜♪」
 ともあれ、それもこのヘンタイ天使さまには燃え上がらせる燃料になってしまっていたらしく、達成感に溢れる満面の笑みと共に、胸の先端や太ももの付け根にある大事な部分を指先で擦りつけてくる。
「あっ、はぁぁっ、そんないきなり……ぃっ」
「美幸ちゃんにはいきなりでも、私にとってはもう我慢の限界なんです。……それに、美幸ちゃんだってもうほら、こんなに……」
 思わず身をよじらせるわたしに、夢叶は耳元で囁きながら、その証拠とばかりに薄い生地の上から形が浮き出た乳首を優しくこねくりはじめた。
「んあっ?!や、やぁ……っ、も、もう、いじわ……んぅ……っ?!」
 そこで、夢叶の繊細な指先が敏感な場所を踊りまわす刺激に喘がされつつ、わたしは恥ずかしさに顔を背けようとしたものの、それも唇を重ねられて遮られてしまう。
「ん……ん……っ、ふぁ……っ」
 やがて、キスを保ったまま今度は夢叶の両手が脇の下から背中へ回り、慣れた手つきであっという間にブラの留め金が外されると、わたしの胸からカップが浮き上がってゆく。
「…………っ」
「では、遠慮なくいただきますね♪」
 そして、夢叶は留め金の外れた下着を剥ぎ取ってしまうと、露わになった乳房に手を添えながら、伸ばした舌を先端へと這わせてきた。
「あひっ?!あ、そこ……ゆかなぁ……っ」
 指よりも柔らかくて滑った夢叶の舌が、敏感な部分を念入りに舐め上げてゆくたび、シーツを握り締めつつ背中を震わせられてしまうわたし。
 ……そういえば、乳首を舐め転がされるのってこれが初めてな気がするけど、以前に指で弄られた時とはまるで違う、未知の刺激だった。
「むふっ……そこが……どうしました……?んっ」
「や……っ!ああんっ、はあああ……っっ」
(う、そ……こんなに気持ちいいなんて……)
「んふっ♪美幸ちゃんのつぼみ……あったかくてコリコリしていて、おいしいです……」
 それから、しばらく円を描くように舐め続けた後で、今度はすっぽりと先端部を口の中へ閉じ込めてしまうと、まるで生き物みたいな舌遣いで執拗に掻き回してくる夢叶。
「ひ……っ!ち、ちょっ、そんなの、らめ……あひぃっ?!」
 まるで、柔らかいドリルでグリグリと抉られているような刺激に、いつまでも耐えられそうもないと夢叶の頭を押し込みながら抵抗するわたしなものの……。
「んっ、だーめです。もっと味わいたいんですから♪」
 それでも、このヘンタイ天使様は一向に緩めようとする様子もなく、更に唇で挟んで圧迫したり、吸い上げたりと容赦無くわたしの胸を弄り倒してくる。
「はぁぁぁぁっ、ち、ちょっとは手加減してよぉ……んあっ!」
 しかも、空いた方の手がもう片方の乳首を弄り回しているのが地味に効いていて、何だか下腹部の辺りがジンジンと痺れる様な感覚と共に、頭の中が空っぽになってくる心地だった。
「はぁ、はぁっ、はぁぁ……っ!」
「んふ……想像していたよりもずっといい反応ですけど、美幸ちゃんって右の方が感じるひとでしたか?」
「し、知らないわよ……ぉっ」
「……では、両方とも試してみるしかありませんねぇ?」
 それからやがて、デリカシーのカケラもない問いかけを向けられてぶっきらぼうに吐き捨てるわたしに夢叶は悪戯っぽくそう告げると、今度は左の乳頭へ向けて口元と指を交代させてくる。
「ひ……っ!や、ああっ、はぁ……っ」
 確かに、左と右で微妙に受ける感覚は違う気がするけど、それでも仰け反るような強い刺激には変わりがないワケで……。
「あは、同じ様に身を震わせて……んふっ、嬉しいです……」
「嬉しいって……ああん……っ」
「だって、私の指や舌で感じてくれているってコトですよね?」
「…………」
「……うん。気持ち……いいよ……」
 そこで、夢叶の問いかけに一瞬だけ間を置いた後で、こくりと小さく頷いてみせるわたし。
「美幸ちゃん……」
「に、二度は言わないけどね……」
(……でも、なんだろう、この感じ……)
 今までは素直に認めたら負けみたいな拗れた感情を抱いていたけど、こうして意固地な部分を取り払った途端、何やら言い知れない開放感みたいなものがわたしを包み込んでくる。
「それでも、すっごく嬉しいです……。んじゃ、もっともっと気持ちよくしてあげますね〜♪」
「い、いいけど、そろそろ夢叶も脱ぎなさいよね……っ」
 すると、言葉通りの嬉しさを満面の笑みに込めながら、今度は夢叶の手がお腹からショーツの端へと延びてきたところで、その手を押さえながら制止をかけるわたし。
 やっぱり、自分だけが脱がされるのは恥ずかし過ぎるのもあるけど……。
「……あはは、そう言えばそうでしたねー。では、すぐに脱ぎますから、ちょっとだけ……」
「待って、わたしが脱がせてあげる」
 何より、夢叶の肌のぬくもりが恋しくなったわたしは、身を起こしてタイトスカートのホックを外し始めた愛しの天使様へそう告げた。
「あ……はい……おねがいします……っ」
 それから、やや緊張した面持ちで下着の上に白のブラウス一枚という格好でシーツの上へ正座して待つ夢叶の姿に、妙な滑稽さを覚えて噴出しそうになりながらも、手を伸ばしてボタンを一つ一つ外してゆくわたし。
「…………っ」
(おお、なんかドキドキする……)
 考えたら、同性を含めて誰かの服を脱がせるなんて経験も初めてだけど、不思議な緊張感や期待みたいなものが混ざり合い、指の動きがいつもよりぎこちなくなってしまっていたりして。
「えっと、美幸ちゃん……何を今更って笑われそうですけど、こういうのって何だかくすぐったい感じでちょっと不思議な感じです……」
「ううん、分かる……。言葉じゃ説明しにくいけど、何か違うよねぇ?」
 これから生まれたままの姿を見せるという行き着く先は同じでも、自分のペースで脱いでいるのと、相手に委ねている違い。
「……だけど、やっぱり嬉しくもありますね。えへへ♪」
「うん、それも分かる……」
 何ていうか、やっぱり好きなひとに求められているという実感に幸せを感じるのかもしれない。
 ……ただ、それ故に髪を結ってもらうのと似ていて、相手によってひたすら苦痛なだけかの両極端なんだけど。
「特に、私は天使ですから。ただひたすら、自らの使命に忠実であり続けるべき存在で、こうして他の人に甘えたり、何かをしてもらうのは人間界に来て初めての経験なんです」
「んじゃ、やっぱりケチケチせずに、もっと色々してあげればよかったのかな?」
 実際、クラスでも夢叶の為に何かをしてやりたいって人は沢山いると思うけど、でもそれが本当に出来る相手は、彼女が自分で決めた“対象者”であるわたしだけなんだろうから。
「……いいえ。むしろ美幸ちゃんには頂いてばかりですよ?この胸のネックレスの様に、形に残っているものばかりとは限らないだけで」
「そう、なの……?」
「ええ……今だって、幸せをいただいてますから」
「夢叶……」
 ともあれ、それからようやく全てのボタンを外した後で袖からブラウスを引き離してやると、久々に見る白雪の様に真っ白で綺麗な肌がわたしの目の前に現れた。
(やっぱり、綺麗だなぁ……)
 ちなみに、夢叶の下着は白に拘る天使様の趣味らしく、ブラウスとは微妙に色合いの違う純白レースの上下お揃い。
 わたしとは対照的に、お嬢様系というか大人っぽい感じだけど、夜這いに来るだけあって勝負下着なのかもしれない。
「はい、ではこちらも外して下さいね?」
「う、うん……」
 そして更に、夢叶が上半身を差し出す様にして促してくるのに従い、背中へ手を回してブラのホックを外してやると、天使様の柔らかそうで、同時に見惚れてしまいそうな高バランスの曲線美を持つ乳房が露わになる。
「……やっぱり、張りがあっていい形をしてるよね。本当に芸術品みたい」
 でも、以前に温泉スパで見た時は、自分の胸と比べて劣等感を受けていたのに、今はそんなネガティブな心地にはならなかった。
「そ、そうですか?私はむしろ美幸ちゃんの控えめで可愛い胸の方が好きですし、自分の身体がどうかなんて興味は無いですけど……」
「んー、それもちょっと勿体ない話かな……?もしかしたら、夢叶が今この世界で一番の美少女かもしれないのに」
 というか、帰宅した後で適当に斜め読みした知識によれば、ハニエルって実際に天界で最も美しい天使と言われているみたいだし。
「いいえ、それはあり得ません。一番は美幸ちゃんです」
 しかし、肩を竦めてみせつつ呟くわたしに、身を乗り出して大真面目に断言してしまう夢叶。
「美幸ちゃんて言われても……」
 ……正直、言われた当人はどんな反応をすればいいのやら。
「けど、美幸ちゃんにそう思っていただけるのはやぶさかじゃないですよ?……だって、私の美幸ちゃんであるのを願うと同時に、美幸ちゃんにとって唯一無二の私でありたいですから」
 ともあれ、続けて夢叶はそう告げてくると、わたしの両方の手を取って自らの胸へと押し当てた。
「あ……」
 すると、それぞれの手の平から、さっきまで寒空の下にいたとは思えない位に熱くて柔らかな感触と、心臓の辺りから強く脈打つ鼓動が伝わってくる。
「これって、所謂“独占欲”……ですよね?本当は天使がそんな執着を持ってしまったり、欲求の赴くままに求めるなんて罪深い事なんです。だけど……」
「……ううん、いいんだよ夢叶。神様がダメと言っても、わたしが許してあげる」
 それから、何やら複雑な表情を見せてくる夢叶へ、わたしは頭に浮かんだ素直な気持ちを囁きかけてやると、自分が今までされた方法に倣って、形のくっきりと浮き出た桜色の先端部へ口元を近づけ、伸ばした舌を這わせてゆく。
「あ……っ!美幸ちゃん……っ」
「……ってのは、さすがに天使様に向かって罰当たりかな?」
 味は殆どしないものの、柔らかくも適度な弾力のある舌触りを楽しみながら、夢叶の乳首を丁寧に転がしてゆくわたし。
 ……ついでに、自分がこういうコトをされたらどうなるかってのを体感した直後だからか、相手の胸を愛撫するのと同時に、何だかわたしの方も下腹部の方が熱くなってくる感じだった。
(こうやって、先っぽをグリグリされると勝手に声が出ちゃうんだよね……?)
「はぁぁぁぁ……っ!い、いいえ、凄く……んっ、嬉しいです……ぅっ!それにもし、“主”が美幸ちゃんに天罰を下されるつもりならば、私は……ぁっ」
「私は……?」
「きゃふっ?!か、噛んだりしちゃ……っ」
 それから、無性にウズウズしてきた衝動に任せるがまま、口に含んだ乳頭へ軽く歯を立ててみると、夢叶の身体は電気が走った様にびくんと反り返ってゆく。
「あ、ご、ゴメン……!痛かった?」
 それを見て、わたしは慌てて傷口を癒す様に噛んだ場所を優しく舐め直すものの……。
「……い、いえ、少しびっくりしてしまいましたけど、美幸ちゃんに痛くされるのも、それはそれでまた……」
 しかし、当の天使様の方は、「ぽっ」と頬を赤らめつつそう告げてくる。
「こらこらっ、やっぱりドMのケがあるんじゃないのよ」
 わたしを弄っている時は、時々Sの顔も見せるくせに。
「んー。そう言われても今までそんな属性なんて意識したことないですし……それに美幸ちゃんが相手なら攻めても攻められても、すごく嬉しいですから♪」
 すると、夢叶はミもフタもない言葉を返してきた後で攻守交替とばかりに再び覆いかぶさり、わたしのショーツの中へ右手を潜り込ませて一番奥へと指を這わせてきた。
「んあ……っ!も、もう……っ、結局は節操がないだけじゃ……ああんっ」
 既に温泉スパの時で覚えてしまったのか、すぐにたどり着いたわたしの敏感な部分を弄くってくる夢叶の指遣いは滑らかで正確で……ついでに、迷いも遠慮も全く感じられなかった。
「まぁそれは、いちいち可愛らしくて愛おしすぎる美幸ちゃんが悪いってコトで……。あは、久々の美幸ちゃんのココ……柔らかくてあったかくて……」
 そう言って、今度は中指を小刻みに震わせながら、花弁の上にある一番敏感な一点をグリグリと押し込んでくるヘンタイ天使様。
「きゃあんっ?!そ、そこはダメぇ……っ」
「……んふふ、そしてとっても敏感……ここを弄られるとそんなにいいですか?」
「あ、あああ……っ、び、敏感すぎて……おかしくなっちゃいそうなの……っ」 
 一応、夢叶の指先は包皮の上からで直接触れてきてるわけじゃないものの、ショーツと素肌の窮屈な隙間の中で圧迫されて余計に強く押し付けられる感じで、これはこれで太股が震えて腰が抜けてしまいそうな刺激だった。
「別に、おかしくなっちゃってもいいんですよ?私がちゃんと責任は取りますから♪」
「も、もう……ばか……ああん……っ!」
 何だかんだで自分勝手さは夢叶も十六夜さんも大差ない気はするけど、でもこのヘンタイ天使様に言われるのは妙に嬉しくもあるのが癪に障るというか……。
「それに、私の指がヌルヌルしてきましたし、別に不快ってわけでも無いんですよね?」
「はぁ、はぁ……っ、ずるいってば、そんな言い方……ぁっ」
 ……ついでに、やり口の方もあんまり変わらないかもしれないし、もしかしたら二人って光と闇の合わせ鏡みたいな存在なのかなとも思ったりして……。
「……でも、こんなにしてるのは美幸ちゃんだけじゃないんです……ほら、私の方も……」
 ともあれ、それから夢叶は熱い吐息で喘ぎ続けるわたしの耳元でそう囁きかけると、もう片方の手でこちらの手を取って、自分のショーツの中へと誘ってくる。
「え……」
「ね、美幸ちゃんも触ってくれませんか?」
「う、うん……」
 そして導かれるまま、レースの下着の中へ指を潜り込ませ、やがてシルクみたいな肌触りの下腹部を通って辿り付いた夢叶の柔らかい秘唇は、既に生暖かい滑り気を帯びていた。
「あ……っ、美幸ちゃんのゆび……はぁぁぁ……っ!」
「うわ、夢叶のもこんなになってる……」
 まだ、胸を少し弄られた位なのに……。
 やっぱり、わたしの身体を愛撫しながら、自分も感じてる?
「んぅ……っ、や、やっぱり、ちょっと恥ずかしいですね、こういうの……っ」
「もう、自分から触ってくださいっておねだりしてきたくせに……」
 それから沸き上がる好奇心の赴くがままに指先を少し埋め込んでみると、熱くて柔らかい粘膜がわたしの指に絡みついてくる。
「はぁぁっ!美幸ちゃ……んっ、ああ……っ」
(うわ……すごい……これ……)
 それに、外まで染み出してきてるだけあって、内部はもう天使様の分泌した粘り気のある雫でぐっしょりとぬかるんでいたりして。
「み、美幸ちゃんの指が……んっ、わっ、私の……中にぃ……っ」
「う、うん……あったかくてすごくヌルヌルしていて……気持ちいいよ、夢叶?」
 下着の中へ手を入れているから実際には聞こえないけど、多分わたしの指の動きに合わせて、クチュクチュとイヤらしい音が響いてるんだろうなって感じで。
(それに、締めつけもすごいし……)
 この感触は、なんかちょっと癖になってしまいそうな……。
「はぁ、はぁぁっ、美幸ちゃん、私も……いいです……っ、ああ……っ」
「……でも、人には散々言っておいて、夢叶だってすごく敏感じゃないのよ?」
 ともあれ、小刻みに身体を震わせ、秘所の奥から泉のごとく愛液を溢れさせながら恍惚した表情を見せてくる夢叶に、嬉しさと戸惑いを覚えながら呟くわたし。
 相手が同じ女の子といっても、他のコの大事な部分を弄るなんて初めてなのに、まるでテクニシャンなお姉様にでもなったみたいである。
「だって、私は……んっ!大好きな美幸ちゃんに触ってもらってるって、はぁぁ……っ、それだけで……それだけで……っ」
「夢叶……わたしも……っ」
 そこで、荒い吐息混じりに返ってきた夢叶の言葉に胸がきゅんとなってしまったわたしは空いた手で天使様を抱きよせ、再び自ら唇を重ね合わせた。
「ん……っ」
「んふぅ……っ」
 そして、キスが合図だったかの様に止まっていた夢叶の指の動きも再開して、今度は一緒にお互いの秘所を弄り始めてゆく。
「はぁ、はぁ……んっ、ゆかなぁ……っ」
「美幸ちゃん……美幸ちゃ……んはぁ……っ」
(キスしながら、お互いのを弄ってるなんて……)
 改めて意識したらかなり恥ずかしい行為なんだけど、でもそれがすごく官能的で、また一体感みたいなのも感じられて、いつしかわたし達は自然と互いの舌を絡み合わせていった。
「ふはぁっ、んんぁっ、ゆかなぁ……っ」
「んふっ、素敵……ですぅ……っ」
(……なんか、どんどんはしたなくてお下品な方へ向かってるなーとは思うんだけど……)
 でも、唾液が混ざり合った柔らかい舌の感触が気持ちいいし、遠慮なしにまさぐり合っている花弁からの快感との相乗効果で、何だか溺れてゆく様な心地と共に心まで骨抜きになりそうだった。
「はぁ、はぁ……っ、あふぅ……っ」
「ん……んぅ……っ、美幸ちゃん……っ!」
「……ぷは……っ?!」
 しかし、そんな時間も意外と長くは続かず、やがて不意に夢叶が唇を離してしまうと頭をお腹から下腹部の方へやりつつ、ショーツの中に入れていた手も引き抜いて両端に手をかけてくる。
「ゆ、夢叶……?!」
「美幸ちゃん……もう、触るだけじゃ我慢できないです。こちらの方も、直接味わわせてくださいね?」
 それから、思わず腰を捻らせるわたしに夢叶は最後に残っていた一枚を引き下ろし、片足から外した後にゆっくりと力を込めて閉じた両腿を自分の眼前に広げてきた。
「…………っ」
(とうとう、夢叶にも見られちゃった……)
「おお……美幸ちゃんの、とってもきれいです……ごく……っ」
 そして、露わになったわたしの恥ずかしい部分の土手を撫でたり、割れ目を指で軽く広げたりしながら、鼻息荒くじろじろと凝視してくるヘンタイ天使様。
「ああもう、喉を鳴らすんじゃないわよ、このどすけべ天使……っっ」
 ……でも、直視できないほど恥ずかしいのに、全身が妙な火照り方をして胸のドキドキも止まらない。
(う〜〜っ、実はわたしもヘンタイさんだったのかも……)
 見られて感じているの?的な言葉責めのイミが、今ならちょっと分かる気がするというか。
「うふふー、もうヘンタイでもどすけべでも何でもいいです。ほら、中もとっても狭くて綺麗ですし……」
 すると、夢叶の奴は抵抗しないわたしに気を良くした様子で、両手を使って更に秘所の奥まで見ようと押し広げてくる。
「こっ、こらぁっ、十六夜さんだってそこまでしてないわよっ」
「だったら、尚更止められませんねぇ♪……おお、これが美幸ちゃんの純潔の証……」
「い、いちいち声に出さなくてもいいってば……っ、というか、いつまでジロジロ見てんのよ……っ?!」
 十六夜さんに何とか奪われずに済んだ最後の一線ではあるけれど、でもだからといってこんな間近で直接確認されるなんて、一体どんな羞恥プレイだというか。
 ……そもそも、自分ですら見たコトのない部分なのに。
「まぁまぁ、後で私のも好きなだけ見せてあげますから♪」
「……フォローになってないわよ。というか、どうせ見せたいんでしょ?」
「あはは、そうとも言いますけど、でもまずは美幸ちゃんの味を……」
 そして、火照りが最高潮に達しようとするわたしに夢叶は開き直った笑みでそう告げると、指を一旦離した後で再び閉じた割れ目の入り口へと舌を這わせてきて……。
「ふぁ……っ?!」
 そのヌメヌメと柔らかい感触が触れた瞬間、わたしの下腹部から背筋を通って、言葉では表現出来ないぞくっとした刺激が走ってゆく。
「あ……あああ……っ、こ、これ……んひっ!」
(なにこれ、指の時と全然違う……っ?)
「んふ……っ♪美幸ちゃんの味……美味しいです」
 思わずシーツを掴んで仰け反るわたしに、夢叶は更に「味わう」という言葉通りの、ねっとりとした舌圧で執拗に舐め上げてくる。
「はひっ?!ゆ、ゆかなぁ……っ、そこ……ひうっ?!」
「ん……っ、ここですか……?」
「は、はぁぁぁ……っ?!やぁっ、なにこれぇ……っ」
 もちろん、夢叶の舌から伝わってくる直接的な刺激もだけど……。
(ああ……っ、夢叶にわたしの恥ずかしいトコロ……ベロベロと舐められてる……っ)
 加えてそんな認識が、強烈な相乗効果となってわたしの心を昂ぶらせていた。
「はぁ、はぁぁ……っ、こ、こんなのぉ……っ!」
「うふふふ、まだまだこれからですよ〜?」
 それから、しばらく花弁の周囲を馴染ませる様にゆっくりと舐め続けたかと思うと、次第に舌先で抉るようにして内部の粘膜へ舌を挿入してくる夢叶。
「んぁ……っ?!ゆ、ゆか……あひ……っ」
(……舌が……そんなトコロまで入って……きてるぅ……っ)
 そして、夢叶の舌が今度はゆっくりと内壁を掻き回してきて、更に火に油を注がれた刺激がわたしの背筋を走ってゆく。
 しかも……。
「うあ……っ?!ち、ちょっ、そこまで舐めるの……?」
 やがて、夢叶の舌先がある部分を通過した時に、思わず身を引いてしまうわたし。
「ふぇ……?どうしてですか?」
「どうしてって、そこは……おしっこの……」
「んふっ♪何なら、私の顔へお漏らししてくれても構いませんよ?」
 しかし、戸惑いを隠せないわたしに夢叶はそう告げると、逆に尖らせた舌先で尿道口をグリグリと刺激してくる。
「はひっ?!ば、ばかぁっ、ヘンタイ……っ」
 普通はこんなトコロなんて、頼まれたってすんなりとは出来ないだろうに、夢叶の舌遣いには一切の躊躇いが感じられなかった。
「あっ、ふああっ!らめぇ……っ」
(ホントに出ちゃったら、どうするのよぉ……っ)
 ただそれでも、おそらく嫌がったり怒ったりはしないんだろうなーと思うと、何だかわたしの方もいちいち気遣ったりするのがどうでもよくなってきたりして……。
「ん……っ、もう、ヘンタイヘンタイって、“神の栄光”とまで呼ばれた七大天使の一角にそこまで言ってくるのって、美幸ちゃんくらいのものですよ?」
「だって、本当なんだから仕方がないじゃ……ひっ?!」
 そこで、散々言われ続けた挙句、とうとう反論してきた夢叶にばっさり一刀両断してやろうとしたわたしだったものの、言い終わらないうちにヘンタイ天使様の両手が胸の先へと伸びてくる。
「やあっ?!そんな同時なんて……らめぇぇぇぇ……っ!」
 そして花弁を掻き回す舌遣いに加えて、指先でくすぐる様に乳首も弄ってくる夢叶からの二重攻撃に、背筋を痙攣させられながら更に大きな声が出てしまうわたし。
「あひ……っ?!そんなの……は、はぁぁぁ……っ!」
「……でも、美幸ちゃんの前だけでなら、ただのヘンタイさんでもいいですけどね〜。正直言えば、今はただずっとこうしていたいって気持ちだけで……んっ、他のコトなんて全部億劫になってきていますし」
「夢叶……んっ!ああ……っ」
(わ、わたしも……)
「実は、守護天使とその対象者が肌を重ねるのも褒められた行為じゃないんですけど、でもやっぱりこうする事でしか分からないものもあるんだなって……んふっ」
「ふぁぁぁ……っ!わっ、わたしも……恥ずかしいけど、その……気持ちいいから……もっと……」
 わたしの方も、夢叶に要求されたコトは何でも受け入れてしまいそうな気持ちになってきてしまっているから。
 ……だから、今だけでも少しばかり素直な返事で応えてやるわたし。
「……ホントに嬉しいです、美幸ちゃん」
 すると、夢叶は一度だけ顔を上げてわたしに向けた満面の笑みを見せると、すぐに再び秘所へと顔を埋めて、イヤらしい音を立てながら激しく舌を掻き回してくる。
「あはぁぁぁっ!ゆ、夢叶ぁ……っ」
「んっ、掬いきれないくらい溢れて……素敵です、美幸ちゃん……っ」
「はぁぁぁぁ……っ?!あ……そこはぁ……っ」
 それから、いつしか夢叶の舌先のターゲットが粘膜の中から花弁の上部へと移動していき、今度は一番敏感な肉芽を包んだ包皮の上から舐め上げてきた。
「あは、やっぱり、“ここ”は外せませんよね?」
「で、でもやっぱり……ちょっと怖いの……ああんっ!」
 指で触れられただけでも凄く敏感だったのに、舌で薄皮越しに刺激されたら……。
「大丈夫。じきに慣れていきますので……。逃げてばかりでも損ですよ?」
 しかし、夢叶はわたしの両股をがっちりと押さえ込んで逃げられない様に固定してしまうと、今度はクリトリスを直接舐め回そうと舌をねじ込んでくる。
「ひぁっ?!ち、直接は強すぎ……んひっ!や、やぁっ、もっと……優しくぅ……っ」
「…………」
「はぁっ、はぁぁ……っ!はひっ、ひぃ……っ」
 やがて、包皮の中へ入り込んできた夢叶の舌先が、中の小さな突起に触れてきたところで、下腹部の辺りがジンジンと痺れてきて、うねりの様な波がわたしの背筋を走ってゆく。
「ゆ、夢叶……わたし、わたしもう……っ!」
 それはまるで、今まで蓄積していた何かが、きっかけを得て一気に開放されるような感覚。
「ひ……らめ……き、きちゃ……」
「んああああああ……っっ?!」
 ……そして、夢叶の舌先が肉芽を押しつぶした瞬間、火花が飛んだような強烈な快感と共にわたしはびくんと背中を大きく仰け反らせながら絶頂を迎えてしまった。
「はぁ、はぁ、はぁぁ……っ」
「……んふっ、これで美幸ちゃんは私のモノ……って、ちゅーしながら囁きかけてもいい場面ですよね?」
「あーもう……だから、漫画とかに影響されすぎだっての」
 でも、ようやくこれで放課後に受けた心の傷を上書きできた……かな?
 委ねるべき相手に身を委ねて、素直に気持ちいいって認めて受け入れるだけで、こんなに蕩ける様な快感を得られるものだと分かったし。
 そう、媚薬なんて強引に仕込まなくてもね。
「……なんて、まだまだこの程度で満足なんてしていませんけど♪」
 しかし、そこから夢叶は不意打ちで言葉を続けてきたかと思うと、腕に力を込めてわたしの太股を更に上へと押し込み、でんぐり返しでもするかの様にお尻を持ち上げてきた。
「えっ?ち、ちょっ……ひゃあっ?!」
「まだ、肝心な部分が残っていますから」
 そして言うが早いか、今度はわたしのお尻を大きく広げた後で、一番奥にある窄まりへと舌をねじ込んでくるヘンタイ天使様。
「あひっ?!肝心な部分って、そこまでするの……はぁぁんっ!」
「んん……っ、当たり前ですっ。ここは唇と同じく堕天使に穢されてしまった部分ですし、天使の私が念入りに浄化しておきませんと」
 そう言って、しばらく皺の周囲に円を描く感じで這い回らせた後で、夢叶はなんの躊躇いもなく舌先を窄まりの中へと差し入れ、穿り返してくる。
「あひぃぃぃぃ……っ?!もう、ばかぁっ、ヘンタ……いひぃっ!」
(結局、ヤキモチなんじゃないのよぉ……っ)
 まぁそんな夢叶も、今は愛おしく思えなくもないんだけど……。
「……ほぉら、見えますか?いま私は、美幸ちゃんのお尻の穴を念入りにご奉仕しているんですよ〜?」
「ああんっ!あっ、ああっ……もう、悪趣味ぃっ!はぁ、はぁぁ……っ」
 でも、やっぱりやってるコトは変質者スレスレではあったりして。
 しかも……。
「んふっ♪こっちの方もヒクヒクさせて可愛いですねぇ。お留守なのが寂しいですか……?」
「ひっ!だ、だって……今は余計に敏感になってるから……っ」
 一度絶頂してしまった直後だからか、触れられて気持ちいいというより感じすぎてつらい位なのに、やがて伸ばした指先で花弁の方も一緒にこねくってくるヘンタイ天使様。
「やぁぁっ、だ、だめぇっ、そこはまだイジっちゃ……はぁぁぁっ」
「こういう時の美幸ちゃんの“ダメ”って、なんかこう逆に攻めまくりたくなっちゃうんですよね〜」
「ち、ちょっ……お願いだから、少しは手加減……いひぃぃぃぃっ?!」
 そこで、いったん休ませてと懇願するわたしに夢叶の奴は手を緩めるどころか、お尻の穴を深く抉り回す舌遣いはそのままに、更に指でクリトリスの方もグリグリと刺激してきたりして……。
「んひっ!もう、やっぱりやってるコトが十六夜さんと変わらないじゃない……ああんっ!」
 むしろ、こっちのヘンタイ天使の方が尻尾とか使わないだけで容赦ないような。
「んむぅ〜っ……それは心外極まりないですけど、でも……」
「はぁぁぁぁ……っ、で、でもっ、何よ……っ?!」
「あは……やっぱり美幸ちゃんで良かったなって、それだけですよ〜?」
「…………っ」
 今度は、お尻の穴をお下品に穿り続けながら口説き文句を挟んでんじゃないわよ、この筋金入りのドヘンタイ天使っ。
「ほらほら、今は言葉よりも、カラダで確かめ合う時間ですし……」
「はぁ、はぁっ、そ、そんなにしたら……わたし……ひぃっ」
 心と身体の、同時に攻めてこられたら……。
「……ッッ、ちょっ、らめ……っ、また……きちゃ……っ?!」
 程なくして、再び痺れる様な昂ぶりと共に、わたしの背筋にゾクゾクとした感覚が走ってゆく。
「いいんですよ?何度でも……私はとことん付き合っちゃいますから♪」
「で、でも、でも……んぅっ?!」
「…………」
「ひっ、らからだめ……そんなにしちゃ……いぐ……ふぁぁぁぁぁぁぁぁっっ?!」
 しかし、戸惑っている間もなく、わたしは夢叶にお尻の穴を掻き回されながら、二度目の絶頂を迎えさせられてしまった。
「……はぁ、はぁっ、もう、激しすぎぃ……」
「あはは、美幸ちゃんがあまりにいい反応だったもので、ついつい夢中になっちゃいました……」
 脱力しきった感覚に任せて、ぐったりとシーツの上へと沈むわたしに、ようやくがっちりと固定していた両股を開放した後で、覗き込むように苦笑いを見せてくる夢叶。
 ……多分、十六夜さんへの嫉妬やら対抗意識で余計にそうなっちゃったんだろうけど。
「……はー……」
(まぁ、少しでも気がおさまったなら別にいいんだけどね……)
 ……それより、まだなんとか身はもつ……かな?
 疲れが回る身体に反して、なんだか気持ちの方は更に昂ぶってきている感じだし……。
「えっと……それで大丈夫ですか、美幸ちゃん?」
「まー何とかね……。んじゃ今度はわたしがしてあげるから、夢叶も脱いで見せてよ?」
 だから、わたしは心の方を優先して休憩もそこそこに上半身だけ起こすと、こちらから夢叶に要求してやった。
「え?美幸ちゃんが私に?」
「当たり前でしょ?……というか、わたしも夢叶にしてあげたくなったから……ね?」
「は、はい……」
 そして、促すわたしに小さく頷いて腰を上げた夢叶は、照れくさそうに目の前で自分の下着をゆっくりと下ろしてくる。
(うわ、綺麗……)
 一応、既に直接触れたから知ってはいたけど、今まで下着で覆われていた夢叶の秘密の場所からは、無駄な毛なんてまったく無い真っ白で綺麗な土手と、その先からは美しい筋彫りみたいな溝が見え隠れしてくる。
「……あはは、確かに視線を感じながら脱ぐってのは、ちょっと恥ずかしいですねぇ」
「もう、今更気づくなっての……」
 また、太股の高さまで下ろす過程で、秘所を包んでいた下着の裏側から細くて粘っこいモノが糸の様に何本も引いて、これは思わず同じ女の子のわたしでも生唾を飲み込んでしまう位に淫靡な光景だったりもして。
(天使様の雫、か……)
 一体、どんな味がするんだろう……?
「えっと、それで……ここからどうしたらいいですか……?」
「そ、そうね……んじゃ、後ろからわたしに跨ぐような感じでお願いしよっかな……?」
 ともあれ、それから足首を潜らせて最後まで脱いだ後でおずおずと訊ねてくる夢叶に、心臓を高鳴らせつつ思い切った態勢を要求してやるわたし。
「え、えええ……っ?!」
「いいから。……本当は、夢叶もわたしにそういうコトされたかったんでしょ?」
 それでもって、今は無性にそれを叶えてあげたい気分だから……。
「は、はい……では……」
 すると、横たわって手招きしたわたしに夢叶は小さく頷き、要求通りにこちらの脇の間に両足を挟んで跨ると、腰を突き出して鼻先に当たるくらいに形のいい桃尻を押し付けてきた。
「……っ、うわわ、わわ……っ」
 それは、何だか見ている方が恥ずかしくなりそうな位の、イヤらしくて絶景なアングル。
 舌や指を伸ばせばすぐ届くほどの眼前に夢叶の濡れた秘唇や綺麗な色をしたお尻の穴が丸見えで、この光景だけで頭がクラクラとしてきそうだった。
「はぁ……っ、美幸ちゃんの吐息が吹きかかって……くすぐったいです……んっ」
「わ、中もぐっしょり……」
 ともあれ、そこから欲望に従ってそっと夢叶の花弁を指で広げてみると、薄いピンク色の内壁は半透明の粘液でネトネトになっていたりして。
「あ……っ、もう、美幸ちゃんのえっち……」
「お生憎だけど、ヘンタイ天使サマには遠く及ばないから。……でも、なんかわたしを攻めてる時より随分としおらしくなってない?」
 そのギャップにちょっと噴出しかけている一方で、それがますますわたしの情欲を煽ってもいるんだけど。
「だって、美幸ちゃんにこんなコトしてもらえるなんて思ってなかったですし……」
「……わたしも、最初はただ夢叶に身を委ねているだけでいいって感じだったんだけどね」
 ホント、一体どうしてしまったんだろうか。
 ……そんな自分の変化に戸惑いは残しつつも、やがてわたしは躊躇うどころか引き寄せられるようにして、夢叶の蜜を滴らせる花びらへと口元を近づけていった。
「はぁぁぁ……っ?!ふぁぁ……っ!」
(あ、凄く敏感……)
 程なくして伸ばした舌先が触れた瞬間、夢叶は甘い喘ぎ声と共に、びくんっとお尻を強く弾ませる。
 ちなみに天使様の雫の味は無味に近かったけど、決して不快じゃなかった。
「んんあっ!はぁ……っ、美幸ちゃんに、あっ!舐めてもらって……はひぃ……ぃっ」
 いずれにしても、それから今までのお返しとばかりに自分が夢叶にされたコトを真似て激しく舌を踊らせると、その度に天使様の身体は電気が走ったように震えてゆく。
「くぁ……っ、んぁぁ……っ、こ、こんなの……すご……んっ!」
「はぁ、はぁ……っ、あはぁ……っ」
「んふぅ……っ、ね、気持ちいい……?」
「は、はい……っ。美幸ちゃんの舌遣いがすごく気持ちよくて、胸が凄くドキドキしてきて……んあっ、こんなのはじめて……です……っ!」
「……そっか……」
(なるほど、されてるだけでは気付かない気持ちもある……か)
 そんな夢叶の反応が面白くて、また無性に嬉しさも覚えたりして、わたしは更に舌を差し込み、粘膜の中を掻き回してやる。
「はひっ!そんな……ああっ、美幸ちゃんの舌が……奥まれぇ……っ」
(……どんどん溢れてくる……そんなに気持ちいいんだ……?)
 喘ぎ声や言葉だけじゃなく、止め処なく分泌されてくる天使様の雫こそ、まさしく夢叶がわたしの舌遣いでどんどん気持ちよくなってくれている何よりの証拠であって。
「んあっ、はぁっ、はぁっ、みゆ……みゆきちゃ……はぁぁ……っ!」
「…………」
 当たり前と言えば当たり前のコトだけど、それを改めて実感していくうちに、わたしは更にもっと夢叶を官能に溺れさせてやりたくなってくる。
「あっ、ああっ、こんなの……本当に夢みたい……です……っ」
「ううん……これも夢叶が自分で引き寄せた現実だから……」
「……そして、美幸ちゃんが受け入れてくださったからこその……あ……っっ」
(ん?……あ、なんか可愛い……)
 そんな中、夢叶が背筋をぶるっと痙攣させてわたしの舌遣いを受け止めながら、花弁の後ろにある薄桃色で彩られた小さな窪みも同時にヒクつかせているのに気付く。
「……もう、夢叶だってさっきからわたしの目の前でお尻の穴をひくひくさせてきてるじゃない?やっぱり、こっちもして欲しいの?」
 放課後の教室で十六夜さんに言われた時は死ぬほど恥ずかしかったけど、でも確かになんだか誘われているようにも見えたりして……。
「あ、でも……無理にそっちの方は……」
「夢叶もしてくれたんだから、わたしだって平気だよ?」
 そこで、遠慮がちな言葉を返してくる夢叶にわたしはそう告げると、愛おしくもイヤらしい大天使の誘いに逆らうことなく、同じ様に舌先を這わせてゆく。
「んひっ?!あ……っ、美幸ちゃん、ホントに私の……っ?!」
「……大丈夫。こっちも、全然イヤじゃないから……んっ」
 むしろ何だかゾクゾクとしてきて、夢叶にしてあげているのと同時に、自分の身体の方も熱くなってくる感じだった。
 実際、わたしもお尻でイかされてしまう位に感じてしまったのだから、きっと夢叶も……。
「はぁ、あはぁ……っ、おひり……美幸ちゃんにおひりまで……ぇっ」
「ね、こっちも気持ちいい……?」
「はぁ、はぁ……っ、逆に……気持ちよすぎて……」
「あ、ああ……っ、らめです……もう……あひぃぃぃぃん……っ?!」
 ……と思った矢先、はしたない嬌声をあげながら、天使様は大きく背中を反らせてあっという間に絶頂を迎えてしまった。
「へ?えええ……っ?夢叶、もう……?」
 むしろ、これから自分がされた様に天使様のお尻を舐り倒してやろうと思っていたのに……。
「はぁ、はぁ……っ、だって、美幸ちゃんにお尻の穴まで舐めてもらったりしたら、私それだけで……」
 思わず呆然とするわたしに、夢叶は力なく呟いた後でぐったりとお腹の上に倒れこんできてしまう。
「……ほほう、天使様の弱点はお尻だと?」
 そこで自然と湧き出た悪戯心の赴くままに、伸ばした指先で窄みの入り口をくすぐる様にマッサージしてやるわたし。
「はひっ、そ、そうじゃなくて……ある意味一番献身とか愛を感じる行為ですし……ひゃあんっ」
「まぁ普通に考えると、よっぽど好きな相手じゃないと出来ないわよねぇ?」
 つまり、夢叶だけじゃなくて、わたしの方もいつの間にかそういうコトをしてやれる程になっていたって話になるけど……。
(……んじゃ、あの人の場合は?)
 確か、悪魔として絶対に譲れないとか言っていた気もするけど……。
「…………」
「……ね、美幸ちゃん。それより、今度は美幸ちゃんと一緒に気持ちよくなりたいです」
 しかし、それから愛撫の手が止まってしまったわたしがふと十六夜さんのコトを思い浮かべたのに勘付いたのか、夢叶は会話の流れを一旦打ち切って身体を起こしてきた。
「一緒に?」
「はい♪では、またちょっと失礼しますね、美幸ちゃん」
 その後、夢叶はこちらへ振り返って向きを変えたかと思うと、自分の両足をわたしの股の間へ絡みつかせる様に挟んでくる。
「ん、しょ……っと」
「え、え?一体ナニをする気なの?」
「女の子同士でしか、味わえないコトですよー?あんな邪道で汚らわしいモノなんて使わなくても、美幸ちゃんと繋がるコトは出来るんですから」
「つ、つまり……」
「んふ……っ♪今度は、“こちら”のお口でキスしましょうね、美幸ちゃん」
 そして、夢叶は満面の笑みを浮かべてそう告げると、そのまま太股の付け根まで入ってきて、自らの秘唇をわたしの秘所へ押し付けるように重ね合わせてきた。
「んあ……っ?!ち、ちょっ、これ、やあん……っ!」
 これはまた、指や舌で触れられた時とは、まるで違う感触。
 お互いの愛液で濡れた、柔らかい媚肉がぐちゅぐちゅとイヤらしい音を立てながら重なり合って、確かにディープキスをしている感じに近いのかもしれないけど、本当の唇じゃなくて一番恥ずかしい部分を擦りつけ合っているという精神的な刺激は段違いだった。
「あはは、何だか嬉し恥ずかしすぎてムズムズしてきますね〜?」
 一方で、夢叶の方もやっぱり照れた様な笑みを浮かべながら、もっと深く絡みつかせようと腰をグラインドさせてくる。
「はぁ、はぁぁ……っ!や、やっぱり恥ずかしいよ、これ……ぇっ」
 というか、続けていくうちにすっかりとお互いの体温も上がってきているものの、これはおそらく運動量だけが原因じゃないと思う。
「んふっ♪でも、それが余計にゾクゾクしてきて……何だか私、癖になっちゃいそうです……っ」
「もう、このヘンタイ天使ぃ……っ」
 だけど、この快感ともどかしさが同居する切なくて絶妙な感触と、攻めや受けに分かれている時では味わえないこの一体感は、わたしも癖になってしまいそうな予感がしたりして。
「それに……っ、これなら美幸ちゃんと……あんっ、一緒に最後まで……はぁっ」
「う、うん……っ、わたしも、次は夢叶と一緒がいい……っ」
 多分、女の子同士の愛の営みってのはこういうコトなんだろうなと思いつつ、次第にわたしの方も積極的に腰を動かし始めてゆく。
「あっ、ふぁぁっ、うっ、嬉しいです、美幸ちゃん……っ」
「はぁぁっ、いいよ……夢叶……すごく、気持ちいい……っ」
 それから、気持ちの昂ぶりに任せて、貪る様に互いを求め合ってゆくわたし達。
 二人の汗と分泌し続ける愛液が混ざり合う匂いに鼻腔がくすぐられ、何かもう全てがどうでも良くなってきたというか、快感で頭の中が真っ白に塗り替えられていくようだった。
「あひっ?!あ、美幸ちゃん……そこぉっ」
「んあっ!う、うん……当ってる……ぅっ!」
 やがて、二人の一番敏感な部分同士がいいカンジで擦れ合うポイントを見つけたわたし達は、互いの手を強く握り締めながら、むさぼる様に激しく押し付け絡ませてゆく。
 ……というか、息もすっかりと上がって、そろそろラストスパートを迎えようとしていた。
「ああっ、んっ、美幸ちゃんっ、そんなに擦り付けてきたら、私……っ」
「はぁ、はぁ……っ、わ、わたしもジンジンしてきて……」
 あとは、もう……。
「んぁぁぁっ!み、美幸ちゃんっ、どうか、どうか一緒にぃ……っ」
「ゆかなぁ……っ、ゆか……」
「ふあああああああ……っ?!」
 やがて、痺れる様な波に乗ってわたし達が同時に絶頂を迎えた嘶きをハモらせたのは、それから程なくしてだった。

                    *

「…………」
「……ねぇ、言わないの?」
 やがて、長い長い聖なる禊を終えて裸のまま明かりを消した後、月光が差し込むベッドの上で二人並んで横たわったまましばらく静寂の時間が続いていた中で、わたしは遠慮がちに切り出してみる。
「ふぇ?愛の囁きが足りませんでしたか?」
「ばか……。そうじゃなくて、このまま契約しろって言ってこないのかなって」
 ぶっちゃけ今なら、割とすんなり流されてしまいそうなんだけど。
「…………」
「……本当は、いい頃合なんですよねぇ。お互いに魂が昂ぶって同調しかけた時ですし」
 すると、やや考え込むような間を置いた後で、夢叶は独り言のように呟くものの……。
「…………」
「でも、また鞘華さんに邪魔をされてしまいましたし、今は何だかそういう気分じゃないですねぇ……」
 しかし、それからまた少しの沈黙の時間を経て、溜息混じりにそう続ける夢叶。
「そうなの……?」
 むしろ、夢叶にとっては結果オーライな展開っぽいんだけど。
「そもそも、今宵は契約を求めて訪れたつもりなんかなくて、互いの心の傷を癒すのが目的でしたし。堕天使に汚された美幸ちゃんを癒して、そして私の……」
「私の?」
「…………」
「…………」
 しかし、そこで夢叶は再び黙り込んでしまった。
「どうしたの?」
「……いいえ。やっぱり私は、天使失格なのかもしれません……」
「もう、今日はそればっかりじゃない?」
 悪魔も怖れる一途でヘンタイな大天使様も、意外と脆かったってことなのかな。
「はー……確かに、十夜が心配するわけですよね。この人間界に降りてから、いえ美幸ちゃんと出逢ってからというもの、私はらしくないコトをしてばかりの連続ですから」
「んなコト言われても、わたしは元々の夢叶がどんな人……いや、天使だったのかを知らないし。まぁ、今までの情報を整理すると、普通の天使様じゃないのは分かったけど」
「……ですが、いまここにいる私は美幸ちゃんにひと目惚れして、守護天使を志す一介の天使に過ぎません」
「分かってる……。わたしもそう思ってるから」
 けど、そんな脆さにもたまらなく愛おしさを感じたわたしは、そう言って夢叶の手を握ってやった。
「……とは言っても、ぶっちゃけてしまえば守護天使の契約をしてもらうってのはさほど重要な目的でもなかったりするんですけどね、あはは」
「こらこらこら、ここに来て根本を否定してどうすんのよ?」
 どんでん返しというより、全て台無しな気がするんですけど。
「いえ、私にとってはこうしてあの手この手で美幸ちゃんと親密になろうと奔走する日々そのものが、自分の求めていた本質という事です」
 しかし、思わず苦笑いなわたしに、大天使様は指を絡めつつ真剣そのものな目でこちらを向いてそう告げてきた。
「夢叶……?」
「それと……これはちょっとおこがましいんですけど、私にも欲が出てきてしまいました」
 そして、「ふふふ……」と自虐的に笑いながら更にそう続けた後で、手を繋いだまま再び身体をわたしと重ねてくる夢叶。
「欲?」
「……ええ。今の美幸ちゃんなら、私が望めば与えてくれるかもしれませんけど、何だかそれじゃ気に入らないんです」
「あはは、きっかけがきっかけだから?」
「勿論それもありますし、これまでは殆ど一方的に私が美幸ちゃんの心の中に居場所を作ろうとしてきましたけど、出来れば守護天使の名目とかに縛られることなく、純粋に求め合えればなって」
「……えっと、つまりそれってコイビトとして……?」
「これからは、私が押しかけるばかりじゃなくて、美幸ちゃんの方からワガママを言ってもらったり、エッチなコトもどんどん要求されたりとか……んふっ♪」
「確かに、そりゃ欲だわね……」
 それはまた、遠慮なく調子に乗ってきやがったわね、このヘンタイ天使様は。
「……ですから、追いかけっこ続行です。私にとっては、また振り出しに戻ったつもりですので」
「へいへい……。わたしは構わないけど、お手柔らかにね?」
 要するに結果オーライどころか、わたしが十六夜さんに襲われて傷心していたところへ取り入る形になってしまうのが、夢叶にはどうしても気に食わないらしい。
(なるほど、天界きってのワガママ姫……か)
 今なら、あの時に御剣さんが言った意味も何となく分かる気がする。
 ……それでもって、確か『今後も色々と振り回されるかもしれないが、その気があるのなら付き合ってやってくれ』とも付け加えられたけど……。
「それと……よければ、今晩はこのまま泊めてもらってもいいですか?」
「今さら、こんな時間に帰れとは言わないわよ。まぁ好きなだけゆっくりしていきなさいな……ふぁぁっ」
「あは、ありがとうございますー♪」
 何だかんだで、その気になってきちゃったんだから仕方がないよね……?
 一応、この大天使サマが心に秘めている目的は未だ見えないけど、それも正直どうでもよくなってきたし、単にわたしの側に居たいというのなら、気の済むまで付き合ってやりますか。
 ……夢叶のそんな気高さも嫌いじゃないしね。
「……でも、悪いけど疲れたから、今夜はそろそろ寝たいかも……」
「ええ。おやすみなさい、美幸ちゃん♪……いい夢を見てくださいね?」
 それから、眠気も限界を迎えて今にも意識が落ちていきそうになったわたしは最後にそれだけ告げると、優しく抱きしめてきた天使様をお布団代わりに深い眠りについていった。

終章 天使がはじまりを告げる場所

 神様って信じる?
 運命って信じる?
 コトここに至っては、どちらも否定する道理はないけれど、引っ越して二日目のクリスマス・イブにひとり「はじまりの広場」と呼ばれるこの場所へ足を踏み入れたわたしの前に現れた天使様は、その神様からの贈り物だったのだろうか?
 ……彼女は言った。わたし達の出逢いは必然的な「運命」だと。
 しかし、わたしは一度それを振り払い、それから自らの意思で改めて彼女との“縁”を紡いだ後に、お近づきの儀式を交わした。
 結果的には、天使様の告げた“運命”の導きに沿った流れなのだろう。
 だけど、それから後は彼女の方がそれを否定するかの様な言動を見せながら、結局は肌を重ねた後でさえも、守護天使の契約には至らないでいる。
 何だか手段と目的が入れ替わっている風な感じで、正直グダグダの極みではあるんだろうけど、それでも彼女は凄く楽しそうだし、最初はどこか猜疑心を抱き続けていたわたしの方も、いつしか詮索する気はなくなってきていた。
「…………」
 いずれにせよ、一つだけ確かな真実があるとすれば、今もわたし達はこうして仲よく身を寄せ合っているというコトで。
「ふは〜っ、やっぱり寒い中で飲むコーヒーって美味しいですよねぇ〜♪」
「……というかさ、今日のこの場所で飲むホットドリンクなら、何だって美味しく感じるとは思うけど」
 真冬の晴天時特有の、冷たくも澄んだ空気が充満する日曜の午後、はじまりの広場が見渡せる位置にあるベンチへ腰掛けながら、満面の笑みを浮かべて食後のクリーム入りエスプレッソを美味しそうにすする夢叶に、わたしは同じ物が入った紙のカップを握ったまま苦笑いを返す。
 こういう日だからか、広場横の駐車場に出店されていた移動式コーヒーショップは長蛇の列でわたし達も結構待たされてしまったけど、今日なら紅茶だろうが豚汁だろうが何だって売れそうである。
「それも一理ありますけど、逆に言えばこれが究極の美味しい飲み方かもしれませんよー?」
「だからって、その為にわざわざ寒空の公園までやってくるというのもね……」
 そう言って、カイロの役割を保たせるためにちびりと一口だけすすった後で、雲が殆ど見えない青空を見上げるわたし。
 せっかくの週末なんだし、家に引き篭もっているのも虚しいからと出かけてきたはいいものの、こんな冷蔵庫の中にいるような気温の中だと、まだエアコンの利いたわたしの部屋でダラダラと過ごしていた方が全然マシだったかもしれない。
「まぁまぁ、ちょっと位はいいじゃないですか。やっぱり、ここは私にとって一番落ち着く場所なんですよー」
「ふーん……ま、夢叶にそう言ってもらえたら、この広場を残した人達も本望なんじゃない?」
 しかしその一方で、隣の相方は寒さもなんのそのといった様子で上機嫌に話してくるのを受けて、わたしは青空から広場のシンボルへ視線を落として呟き返す。
 ……なにせ、似てる似てないはともかく噴水の真ん中に夢叶の像が飾られているように、元々この場所はここにいるヘンタイ天使様が遥か昔に舞い降りてきた記念として造られたのだから。
「もちろん、感謝してますよ−?なにせここは私にとって初仕事を遂げた思い出の地というだけにとどまらず、美幸ちゃんと出逢えて新しい一歩を踏み出した、一番大切な場所にもなりましたから」
「天使様との馴れ初めの広場、か」
 いずれはわたしにとっても、かけがえのない場所になるのかな?
「ですから、少しくらいは恩返しをしたいって気持ちもあるんですよね。……ただ、私がここで出来ることはごくごく限られているんですけど」
「ふーん……もしかしてさ、恋愛相談室を開いてる理由も、その一つ?」
「本当は、学校がお休みの日にはこの広場で相談室を開設してもいいかなと思ってた時期もあったんですが、あいにく今は美幸ちゃんの追っかけで忙しい身ですし♪」
 そこでふと浮かんだ、わたしの素朴な疑問に夢叶はそう告げた後で、カップを持っていない方の腕を絡ませてくる。
「……どーでもいいけど、愛を司るみんなの大天使様が、それでいいのかしらん?」
 まぁ、わたしとしては夢叶にえこひいきされまくるのも悪い気分じゃないけれど。
「本来はよくないのかもしれませんが、まぁ仕方が無いですねー。美幸ちゃんと出逢って、恋愛とは理屈だけで語れるものでなければ、またどこか理不尽で不平等なものでもあるというコトを実感させられてしまいましたから……」
 そして、悟ったようなセリフの後でカップを持った手の人差し指を前方へ伸ばすと、何やら小声でぶつぶつと魔法の様な言葉を唱える夢叶。
「なにやってんの?」
「ハニエルからのささやかなお節介ですよ。……ほら、あそこのベンチで座っている二人、今日はお互いに想いを打ち明けようとはじまりの広場まで来たのに、なかなか踏み出せないでいるみたいですから、少しばかり背中を押してあげようかと思いまして♪」
 それから、夢叶が指を魔法の杖のようにクルクルと回した後で振りかざすと、天使様の指先から二つの星の形をしたうっすら半透明のモノが浮かんで、前方の少し離れたベンチで互いに視線を逸らせて座っている、わたしと同じくらいの年代のセミロングまで伸ばした華奢なコと長い髪を後ろで二つに分けたお嬢様風の女の子二人の元へと飛んでいった。
 まぁ、カップル候補が女の子同士なのは今さらツッコミ所でもないのでスルーするとして……。
「……んっと、おまじないみたいなもの?」
「天使としては“加護”と呼んで欲しいですけど、まぁそんな感じですかねぇ〜」
 やがて、夢叶の指から放たれた二つの星がそれぞれの頭上に落ちたかと思うと、今まで微妙な距離をとっていた二人が、いつしか照れくさそうに言葉を交わしながら近付き始めてゆく。
「おー、早速効果アリじゃない?……まぁ、どっちかといえば天使様っていうより、まるで子供の頃にアニメで見た魔法使いみたいだけど」
「あはは。今の星は美幸ちゃんに見せたかっただけで、基本は不可視でこっそりとやっていますから。……ただ、時々こうやってお節介もしているんですよ?ってコトで」
「なるほどねぇ。単にぼんやりとくつろいでいるんじゃなくて、ちゃんと見守ってるんだ?」
 ……だから、わざわざ広場全体が見渡せるこの場所を選んでいると。
「もちろん、美幸ちゃん以外の人にはナ・イ・ショ・ですけど♪」
 そこで、色々合点がいったわたしが感心した気持ち込みで呟くと、ウィンクを飛ばしながら悪戯っぽい笑みを見せてくる夢叶。
(天使様の舞い降りた場所、か……)
 事実は小説よりも奇なり、とは言われるけど、本当に“縁”というのは不思議なものだと思う。
 仮に夢叶とわたしの出逢いが仕組まれていたものでも、彼女が守護天使の対象者を探す為にこの街を選んだことに関しては、たまたま初仕事を遂げた想い出の場所という偶然……いや、縁があったからで。
「んじゃ、夢叶とお付き合いする以上は、こうして寒い中でコーヒーを嗜む時間も必然と日常の中に組み込まれてしまうってワケだ」
 ……だから、その天使さまと結ばれた縁は大切にしたいかなって。
「……やっぱり、迷惑ですか?」
「ううん。もうひと月とちょっとでじきに春だし、それに寒い中だからこそ、夢叶の手も余計にあったかいしね?」
 それから、わたしは躊躇いがちに尋ねてくる夢叶にそう告げると、絡ませた手を強く握ってやった。
 イブの時も雪が降り始めた時、これ見よがしにカップル共がベタベタと身を寄せあっていたし、考えたらさっきの寒さこそが究極の調味料という夢叶の言葉は、別に飲み物だけの話じゃない気がする。
「えへへ、さすがは私の選んだ美幸ちゃんです〜♪」
「おだてたって何も出ないわよ?……んで、一応聞いておくけど今日はいつまで居る予定なの?」
 そろそろ、カップの中のコーヒーも尽きるか冷めるかする頃ではあるんだけど。
「もう少しだけというか、美幸ちゃんの身体が冷えてくるまで、ですかね?んふっ♪」
「あに企んでんのよ?もう……」
 そこで向けてくる夢叶の視線が、にひりとイヤらしいものに変わったことに気づいて、ジト目で返してやるわたし。
 どうやら、愛を紡ごうと訪れるカップル達を見守る優しさと慈愛のハニエル様から、再びただのヘンタイ天使に戻ろうとしているらしい。
「企むも何も、凍えた身体を温めるのは、やっぱりホットドリンクなんかよりも人肌じゃないですかぁ?」
「却下」
 ……んで、そんな側面こそ自分だけが知っている夢叶の正体ってのも、残念やら誇らしいやら分からないけど、とりあえず彼女の意思を尊重してあっさりと突き放してやるわたし。
「ええ〜っ?!」
「発想が安易過ぎんのよ、ったく……どうせ、この後でお風呂にでも連れ込もうって魂胆でしょ?」
 というか、後で温泉スパに行こうという提案自体はやぶさかでもないんだけど、このヘンタイ天使が一緒だと普通に肩を並べて湯船にのんびり浸かる程度で終わるはずもなく。
「んふっ♪だって、まだあの時の続きが残っていますし」
「あの時って……はじめてのデートの時のアレ?」
「ええ♪結局、あれから美幸ちゃんに背中を流してもらえていませんから」
「……そうねぇ。だったら、背中“だけ”ならいいわよ?」
「うう〜っ、そんな今さら釘を刺さなくても……美幸ちゃんのいけず……」
「振り出しに戻したのはあんたの方でしょ?完全にリセットしたとまでは言わないけど、そう簡単には甘やかさないわよ」
 夢叶の気高さに惹かれて付き合うと決めた以上は、わたしも妥協はしない所存ですので。
 ……まぁ、それ以前に公共の場では控えなさいってハナシなんだけど。
「むぅ、美幸ちゃんの朴念仁〜っ」
「拗ねてもだ〜め。大体……」
「……あら、せっかくのお休みなのに、相変わらずこんな所で佇んでいるのかしら、ハニエル様?」
 そして、夢叶が明らかな不満顔を浮かべて頬を膨らませるのをあしらっていたところで、突然十六夜さんがわたし達の目の前へ現れてきた。
「うわ、十六夜さん……っ?!」
「はぁ……性懲りもなく邪魔者がノコノコと。せっかくの午後のひと時が台無しですね」
「あらあら、二人揃ってそんなに嫌な顔をされると、さすがに悲しくなるわねぇ?」
「だって、それだけのコトをされてますから……」
 しかも、ごくごく最近の話で。
「……まったく、この堕天使は一体どの面を下げて私達の前へ現れてくるんでしょうね?そんなに天界と魔界の関係を揺るがせる事件でも起こしたいですか?」
 そこで、明らかに歓迎していないわたし達の態度を見て十六夜さんが肩を竦めて見せると、夢叶は素っ気無くも剣呑なオーラを発しながら、冗談のようで実は本気らしい物騒なコトを口走ってくる。
「……いや、あんたも怖いってば、夢叶」
「もう、そこまで邪険にしなくてもいいじゃない?私だって少しは役に立ったでしょ?……って……」
 それでも、やっぱり動じる様子もなく飄々と言葉を返す十六夜さんなものの、続けてわたしの方へ視線を向けたところでなぜか一瞬だけ硬直してしまう。
「……はい……?」
 これほど明らかな動揺は十六夜さんにしては珍しいというか初めてだけど、それはそれでちょっと不安になってきたりして。
「……もしかして、まだアレは渡していないの?」
「ええ。誰かさんのお陰で、振り出しに逆戻りですから」
「逆戻り?結果的でも役割を演じてアシストしてあげた形になったから、少しは感謝されているかと思っていたのに」
「惚けたコトを言わないで下さい!……そんな展開は私にとって、美幸ちゃんに嫌われてしまうよりも耐え難いですし」
 それから、呆れた様な口調で続けられた十六夜さんの言葉に対して、今日一番の敵意に満ちた鋭い視線と共に、夢叶は声を荒らげつつきっぱりとそう告げた。
「夢叶……」
「……ふぅん、さすがは大天使ハニエル様。プライドのお高いコトで」
「そういう問題ではありません。私は、今後もハニエルであらんが為に志願したのですから」
「わたしの守護天使になることが?」
 ……いや、確かそれ自体に大した意味はないんだっけ?
「……ええ。美幸ちゃんにはいずれお話する時が来ると思いますが、今は忘れていて下さい」
 ともあれ、二人の会話へふと口を挟んだわたしに、夢叶は視線を十六夜さんの方へ向けたまま、少しの間を挟んでそう告げてきた。
「う、うん……」
 本当は釈然としない気持ちもあるものの、控えめな笑みと共に答える夢叶から何とも言えない儚さを感じたわたしは、それ以上の追及は棚上げして頷かざるをえなかった。
「なるほど。……でも、確かにその方がいいかもしれないわね。美幸ちゃんの為にも」
「……どういう意味ですか?私としてはもう二度と魔族とのいざこざに美幸ちゃんを巻き込ませるつもりはありませんよ?」
「今更遅い忠告かもしれないけれど、知らないのなら知らないままでいい事柄は沢山あるわ。どちらにしても、あなたは単に美幸ちゃんとイチャイチャしていたいだけなんでしょ?」
「身も蓋も無さ過ぎですね。……まぁ、合っていますけど」
(こらこら、認めてどーすんのよ……)
 ……というツッコミは、ひとまず飲み込んでおくとして。
「ミもフタも無いのはお互い様。……だけど、精々誰かさんの二の舞にはならない様にね?」
「……余計な、お世話です」
「ではごきげんよう、ハニエル様、美幸ちゃん?」
 そして、十六夜さんは自ら会話を締めくくると、上品な物腰で会釈を見せた後に、広場の出口の方へ向かって立ち去ってしまった。
「……えっと、結局十六夜さんは何の用だったの?」
 まぁ、しつこく付きまとわれるよりはいいものの、いきなり現れて言いたいコトだけ告げて立ち去ってしまったという感じで、何だか拍子抜けしてしまう。
「おそらく、私達が契約を交わしたのかを確認しに来たんだと思いますよ。美幸ちゃんが襲われた後の私の行動も予測済みで」
「ええっ?!……まさか、こっそり覗かれたりしてないでしょうね?」
「覗いていたなら、わざわざ確認に来たりはしないでしょうから大丈夫だと思いますけど……まぁ、あの夜の美幸ちゃんとの濃厚な時間を見られていたのなら、それはそれで♪」
 すると、慌てるわたしに対して、先日の情事を反芻し始めたのか、頬を染めつつニヤニヤと気持ち悪い笑みを見せてくる夢叶。
「ああもうっ、このヘンタイ……っ!頼むから、妙な方向に欲求をエスカレートさせないでよ?」
「別にそんなつもりはないですけど、でも私の選んだ美幸ちゃんはこんなに可愛いんですよ〜とか、私だけのものですからって、少しは自慢したり見せつけたりしたくなりません?」
「……まったく、振り出しに戻したって割には最初から独占欲たっぷりじゃないのよ。また御剣さんに怒られてもしらないわよ?」
 というか、わたしまで一緒にお小言受けるのもゴメンだし。
「けど、たとえ“主”には許されなくとも、美幸ちゃんが許してくださるんですよね?」
 しかし、わたしのツッコミに夢叶はそう言って空になったカップを傍らへ置くと、片方だけじゃなくて、今度は両方の手を絡ませようとしてくる。
「あはは……まぁ、確かにそう言っちゃったからね」
 そこで、わたしは苦笑いを浮かべながらも同じく自分のカップを手放すと、空いた手で夢叶が伸ばした右手を受け止めてやる。
 つい勢いで口走っちゃった大言でも、責任は取らないと……ね?
「んふっ♪では、今からその証を立ててもらってもいいですか?」
「……えっと、恥ずかしいから少しだけよ?」
 そして、好き合う者同士が互いに両手を絡ませながら密着した次のステップといえば、当然そうなってしまうワケで。
「少しだけってのはいささか不満ですけど、まずは仕切りなおしの記念に、この広場で私と美幸ちゃんとの新しい“はじまり”を宣言したいんです♪」
「そっか……なら、仕方がないわね……」
 ともあれ、わたしは観念して頷くと、軽く辺りを見回した後で目を閉じた。
 今なら誰もこちらを見ていないみたいだから、ちょうどいいかな……?
「では、まずは私の方から……えっと、不束者ですが、改めてこれからよろしくお願いしますね?」
 程なくして、奥ゆかしい言葉と共に夢叶の唇が遠慮なくわたしに重なってくる。
「ん……っ」
「……はいはい、ちゃんと最後まで付き合ってあげるわよ、ヘンタイ天使様?」
 そして、やがて長い口付けから離れた後で、今度はわたしが素っ気無くも本心を返すと、こちらから唇を重ね合わせて誓いの儀式を果たしてやった。
「…………」
 それは、高らかに鳴らされたはじまりの鐘。
 聖なる日に白雪の恵みと共に舞い降りた、純真で優しさに溢れていて……それでいて少しばかり困りものな天使様とわたしの物語の第二章が、再びこの場所から始まろうとしていた。

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