使の舞い降りた街 美幸編 その3


第五章 ネクスト・ステップ

「ささ、どうぞどうぞ〜♪こんなコトもあろうかと、いつでもお掃除は行き届いてますから♪」
「はいはい、お邪魔しますよ……」
 それから、手を引かれるがまま夢叶が借りている郊外のアパートまで案内され、家主から上機嫌で招き入れられるわたし。
(……やれやれ、結局なし崩しでここまで来ちゃったわね)
 幸か不幸か、今までは結局機会に恵まれることが無かったものの、出逢ってから早一ヶ月が経とうとしているに、最初に出来たお友達の部屋を訪問するのはこれが初めてだった。
 もちろん、今まで誘われなかったワケじゃないものの、まぁそこは普段の夢叶の言動がどうしてもわたしの足を遠ざけていたといいますか。
(というか、来たのはいいけど問答無用で押し倒されちゃったりはしないでしょうね?)
 ……と、警戒心を抱いているうちは、少なくとも気軽に来るのは無理ってもので。
「すぐにお茶の用意をしますから、奥の居間で待っていて下さいね?」
「ああ、うん。ありがとう……」
 ともあれ、玄関からキッチン兼の廊下へ入りコートを預けた後で、来る途中に買ってきたケーキの包みを見せながら促してくる夢叶に従って、奥の居間へと入ってゆくわたし。
(……さて、天使サマのお部屋って、どんな感じなんだろう?)
 これまでの付き合いの中では、夢叶のライフスタイル自体は普通の人と明らかに違う部分は見当たらなかったものの、ここからは普段は見えないプライベートの空間である。
(もしかしたら、自分の部屋だけは何かこう異世界的な雰囲気が……)
「…………」
「……ふむ」
 しかし、そんなこんなで勝手に期待と不安を膨らませながら、十二畳位はありそうな広めのフローリングの居間を見渡してみるものの、これが拍子抜けというか、至って普通だった。
 室内のインテリアはざっと見た感じで、まずは部屋の左右にノートPCや教科書などが置かれた学習机とベッドが配置されていて、机の側には枠が無くて横長なオープンタイプの本棚に観葉植物やミニコンポ、更にCD類も一緒に並べられている。
 そして部屋の中央には敷かれた淡いピンクのカーペットの上に丸型のちゃぶ台テーブルがあって、奥にはAVラックの中に小型の液晶テレビがひとつ。
 あとはクローゼットが見当たらないけど、ベッドの向こうの壁際に折りたたみ式の引き戸が見えるから、多分アレがそうなんだろう。
 ……と、そんな感じで総括してしまえば別にとりたてて特長の見当たらない、ごく普通の生活空間だった。
「別に、本棚のラインナップを見ても普通だしね……」
 並べられているのは主に占い関連の本や恋愛小説、少女漫画などがメインで、聖書とかの類は無いみたいだし、そもそも室内にはクロスやらマリア像やら神様の絵やら、そういう宗教的なグッズ自体がどこにも見当たらなかった。
 ……まぁ唯一それっぽいといえば、机の上に天使の楽隊の姿を象ったキャンドル立てが並んでいるのと、後は部屋全体の配色が白系の明るい色を中心にしているというか、逆に言えば黒系が極力避けられているっぽいのが、天使としてのこだわりなのかもしれない。
 ついでに、わたしの部屋よりは遥かに整然としていて片付けられているんだけど、これは女子力の違いの問題である。
「……でも、恋愛ものに夢中になってる夢叶ってのも面白いわね?」
 ともあれ、ざっと見回した中で最も気を引かれたのはこの部分だろうか。
 まぁ、占いの本が多いのは分かるとしても、ハーレクィンやレディコミ、ラノベに少女漫画と、様々な対象者に向けた恋愛をテーマにしているっぽいタイトルの作品が無秩序に集められていて、さすがは愛を司る天使様というか。
(もしかしたら、学校の帰りにでも本屋通いしているのかな……?)
 学校で読んでいる姿を見たことは無いものの、考えたら恋愛相談室の時以外は殆どわたしの側に来て話をしているか、勉強を教えてくれてるかのどちらかだし。
「……おおう、良く見たらちゃんと女の子同士の作品まで……」
 まさか、こういうのに感化されてわたしを選んだとか言うんじゃないでしょうね?
「ああ、それ面白いですよ〜?私のお気に入りです♪」
「えっ?!ご、ゴメン夢叶っ、勝手に漁っちゃって……っ」
 そこで、内容を詳しく確認しようとしたところで不意に背後から夢叶の声が届き、慌てて閉じた大判コミックスを本棚へ戻すわたし。
「いえいえ、全然構わないですよ〜。むしろ美幸ちゃんでしたら、クローゼットの下着入れとかを漁ってもらってもOKですし♪」
「いや、さすがにそこまではやんないってば」
 一応、自分がされたら嫌なコトは人に対してもやらない主義ですので。
「むぅ、美幸ちゃんってば鈍感……」
 しかし一方で夢叶の方は、ティーカップやポット、それに二人分のケーキが乗せられたお盆を持ったまま、何故か不満そうに頬を膨らませてくる。
「……いや、ダメ出しされてもね……」
 本人に失礼って以前に、何だかいや〜な予感がするワケで。
「私としましては、お盆を持って手が離せないのをいいことに、美幸ちゃんにスカートを捲られる位の覚悟はいつでも出来ていますからー」
「同時に、蹴り飛ばされるのを承知で、わたしのを捲る覚悟も出来てるんでしょ?」
「いえいえ、私としては美幸ちゃんが自ら捲って見せてくれる位の関係になりたいですし♪」
「誰がしますか、そんなコトっ!」
 ……相変わらず、わたしの天使様は、今日もド変態日和みたいだった。

                    *

「……それで、いかがですか?私のお部屋の感想は」
「あはは……まぁ、ぶっちゃけ普通だなぁと」
 それから、ようやくテーブルを囲んで腰を下ろした後で、多分夢叶に他意は無いんだろうけど、自分には皮肉感たっぷりの質問を向けられ、ほのかに林檎の香りが漂う紅茶で満たされたカップを手にしたまま苦笑いを返すわたし。
(……アップル・ティーか)
 普段から夢叶はアップルジュースを好んで飲んでいるけれど、どうやらお茶の好みに関しても同じらしかった。
「ここでは人として生活している身ですしね。意外でしたか?」
「正直いえば、もっと異世界っぽいというか、宗教っぽいかなって思ってたんだけどね。ほら、聖書とかも見当たらないし」
「ああ、バイブルは昔に原書を読んだ事はありますよ。人間の持つ解釈力というか、想像力の高さが垣間見られて、なかなか面白い内容でしたけど」
「ふーん……何か他人事みたいな言い分ね?」
 というか、わたしが言い出さなければ、そもそも話題にすらしなかった程度の素っ気無さというか。
「まぁ、元々信仰や宗教というのは、神の存在を知った人間の方々が独自に世界観やシステムを構築して創り上げた組織ですから」
「……つまり、本音は勝手にやってろってコト?」
「勿論、深い信仰心を抱いて我々の存在を広めて下さっている方々という認識はありますけど、ただ実際に私達が直接干渉する事は殆ど無いですねー。一応、あまり“主”にとって不本意な行為をされていた場合には、間接的に警告を出したりする時もありますが」
「なるほどねぇ……。それに歴史の授業で習った限りでも、なんたら教って言ったところで沢山の派閥に分かれていて、時には戦争もしてたみたいだし」
 確かに神様側の立場で言えば、基本的には勝手にやってろってスタンスになるのも致し方が無いのかもしれない。
「出来れば信仰を一本化して欲しい我々としては、そういう争いゴトは決して好ましくないんですが、まぁ派閥争いというのは、何も人間界の話だけではありませんから……」
 そこで夢叶はわたしの台詞に対して独り言のように呟くと、同じく自分のカップを持ったまま小さく溜息を吐いた。
「あはは、神様達の世界も色々あるみたいね?」
 そういえば、十六夜さんも自分は組織の歯車みたいなものだって自分で言っていたから、悪魔の世界にも当然の様にあるのかもしれない。
「まぁまぁ、そんな話はいいじゃないですか。それよりケーキを食べましょうよ?」
 ともあれ、夢叶は一方的にこの話題を打ち切ってしまうと、ウサギの柄の付いたフォークで自分の手元にあるケーキを掬い上げ、わたしの前へと差し出してきた。
「……ちょっと待て、なんで当たり前みたいに『あ〜ん』してんのよ?」
「だって、私の手元にあるのは、美幸ちゃんが選んだケーキですよ?」
「あ……」
 言われて気付いたけど、確かに相手の手元にあるのがわたしの選んだイチゴのショートケーキで、こちらの手元にあるのが夢叶のチョイスしたフルーツケーキの方だった。
(や、やりやがったわね、夢叶……)
「んふ、今更交換要求には応じませんよ〜?」
「あはは……ったく……」
 いや、気付かなかったこちらも悪いんだけど、本当にわたしとイチャイチャする為には手段を選ばないというか、罠にハマった感じなのに、何故か妙に笑いが込み上げてきてしまう。
 ……ちなみによく見ると、夢叶とわたしがそれぞれ持っているのは色違いでペアになっているマグカップみたいだけど、もう既にこの程度はツッコミ所ですらないし。
「ほんっとにもう、お馬鹿さんなんだから……」
 ともあれ、こうなっては仕方が無い。
 わたしは小さく肩を竦めた後で、渋々顔を近づけて夢叶の差し出したケーキを直接受け取った。 
「えへへ、まぁ今日は美幸ちゃんが私の為に開けて下さった日ですし♪」
「あー、そうだったわね。……なら、わたしも目を瞑るしかないか」
 この程度なら良しとしておかないと、後で逃げ道を失いかねないし。
 そういう訳で、今度はわたしが自分の手元のお皿に乗ったケーキを一口サイズに掬い上げると、同じく夢叶の口元へと差し出した。
「はい、あ〜ん……」
「あ〜〜ん♪」 
「……んふっ、美幸ちゃんに食べさせてもらえば、いつもよりも遥かに甘く感じますね〜♪」
 そして、わたしと違って何の躊躇いも無く嬉しそうに一口で頬張ると、フォークを握り締めたまま、満面の笑みを向けてくる天使様。
「ええい、何を歯の浮くコト言ってんのよ。大体、これ以上甘くなったら歯茎ごと溶けちゃうでしょうが?」
「それが不快な甘さでないなら、私は全然構いませんけど?」
「…………」
(でもなんだろう、この気持ち……)
 こうして夢叶の幸せそうな顔を見ていると、最近は何だか凄くしんどい心地になってきたりもしていた。
 ……といっても、夢叶の相手をするのがじゃなくて、いちいち警戒心を挟んだりするのが、という意味でだけど。
「どうかしましたか、美幸ちゃん?私の顔にクリームでも付いています?」
 それから、いつの間にかじっと見つめてしまっていたわたしに、夢叶がきょとんとした顔を返してくる。
「あ、いや、そういうのとは違うけど……」
「……そうですかぁ、残念です……」
 そこで我に返ったわたしは慌てて首を横に振ると、なぜか残念そうに表情を落とす夢叶。
「へ?」
「だって、付いていたら美幸ちゃんに……」
「舐め取ってもらおうとお願いしたのに、って?」
 しかし、さすがに展開が読めていたわたしは、相手が言い終える前に口を挟んでやった。
「ええっ?!先に言われてしまいましたぁ……」
「いい加減、ワンパなんだっての、ったく……」
 だけど、ここで野望が崩れたと思った矢先で突然にちゅーしてやったら驚くかな?
 ……その返礼は、問答無用での押し倒しかもしれないけど。
「……むぅ。またも作戦失敗ですか……さすが手ごわいです」
「…………」
(別に、押し倒されたら押し倒されたで、本当は困らないんじゃないの?)
 まぁ、困らないかもしれないけど、でもそうやって簡単に流されて本当にいいのだろうか。
 こんなわたしがそんなに欲しいのなら、そろそろくれてあげてもいいような面倒くささを感じてる一方で、そんな疑念が未だ残ってるのも事実だし、初めて出逢った夜から、ずっと持ち続けている葛藤でもあった。
(だから、結局はいつも現状維持……か)
 もちろん、それが理想って可能性も無きにしもあらずだけに、難しい問題なのは確かである。
「まぁそれはともかく、はい今度は美幸ちゃんにあーん、です」
「はいはい……」
「んふふー。ここで手が滑ったりしたら怒ります?」
「……いっとくけど、舐め取らせないわよ?」
「ち……」
「あんたね……」
 そこまで露骨に残念そうな顔しなくても……。
「……けど、やっぱりお茶をするのも一人より二人の方が楽しいですねー。その相手が美幸ちゃんなら尚更ですけど♪」
「二人の方が楽しいのはまぁ同意してもいいけど、でもただケーキを食べてお茶を飲むだけなのに、何でも大げさなイベントになっちゃってるわよね……」
 或いは、わたし達って無意識に追いかけっこを始めてしまう性分なのか。
「んふふー。まぁ今の私にとっては、ただ美幸ちゃんと一緒に居られるだけでも大きなイベントですし」
「……ほほう。だったら、一日中勉強をみてもらってた昨日も、お礼も兼ねて遊びに出かけた今日も、実は夢叶にとっては同じような時間ってコト?」
「あはは、御褒美をおねだりしておいて語るに落ちちゃいましたが、そうなりますねぇ」
 そこで、ふと頭に浮かんだツッコミを向けるわたしに、あっさりと兜を脱いでしまう夢叶。
「ホント、なんなんだかね。……もう何度も聞いてる気はするけど、そんなにわたしのコトが好きなの?」
「ええ、好きです」
「どうして?」
「どうしてと言われましても、一度好きになっちゃったものは仕方がないとしか」
「それで納得しろと言われてもねぇ……まぁ、理霧も似たようなコト言ってたけどさ」
 あの二人も、今日はこんな感じでまったりと日がな一日を過ごしているのかな?
 ……いや、理霧って意外と無駄な時間は嫌うタイプだし、もしかしたら、もっと直球に愛を確かめ合っていたりして……。
(……わわわわっ?!)
 やがて、脳内に先日会ったカップル達の不健全な光景が浮かんできて、慌てて首を振りながら払拭するわたし。
(いや、あながち他人事でもないのか。もしわたしが辛抱たまらなくなった夢叶に襲われたりしたら……)
「……美幸ちゃん?何だか顔が沸騰したみたいに赤くなってますよ?」
「えっ?!あ、ううん、なんでもない……」
 そして今度は自分を巻き込んだ、とても言葉では表現出来ない妄想が浮かんでしまったところで夢叶に声をかけられ、はっと我に返るわたし。
 ……いかんいかん、自分から墓穴掘ろうとしてどうする。
「もしかして、気分が悪くなっちゃいましたか?でしたら、私が介抱を……」
「ええい、調子に乗りすぎるんじゃないわよっ。……それより、聞こうと思ってたコトをふと思い出したけど、夢叶は知ってたの?理霧に守護天使がいるってこと」
「アークエンジェルの郁実くんですね。勿論知っていますよ?私と同時期に彼もこちらへ来ましたから」
 それから、ニヤニヤしながら伸ばしてきたヘンタイ天使の手を気丈に払いのけて、咄嗟に矛先を逸らせる話題を思い出したわたしが尋ねると、定位置に戻って打たれた右手を軽く擦りながらそんなの当たり前といった反応を返してくる夢叶。
「あー、そうだったんだ?何でも、あの二人は出逢った当日に結ばれたって聞いたけど」
 理霧曰く、自分の感性にビビっと響くものがあったからとのハナシで。
「みたいですねぇ。ですから、私も上手く勢いにさえ乗せられれば初日で美幸ちゃんを落とせるかな〜?と期待してたんですが」
「はいはい、お生憎さま……。でもつまり、それが前に言ってた運命指数の相性って奴?……でも、わたしはビビっと来なかったんだけど」
 というか、今もやっぱりピンと来てはいないんだよね……。
 理霧にはあの後で、「まぁ、とりあえず受けて入れてから考えてもいいんじゃない?」とも言われたけど、さっきみたいな葛藤がある限りは、何となく安易にそうする気も起きないというか。
「でも、美幸ちゃんだってあの日、最後まで付き合ってくれたじゃないですか?だから私はまだ脈があるかなと思って、次の日もあそこで待っていたら願望通りに来てくださいましたし」
「まー、それに関しての否定はしないけどね……」
 現に、その後のお近づきの“儀式”を経て今日に至っているワケであって。
「……では、今度はこちらが質問させていただく番ってコトで、美幸ちゃんの現段階での好感度を尋ねてみてもいいですか?」
 それから、痛い所を突かれた感じで言葉も止まり、苦笑い交じりにティーカップへ口を付けたところで、今度は夢叶の方から質問返しを受けてしまう。
「わっ、わたしの?夢叶への……?」
「ええ。どれだけ私が美幸ちゃんに尽くせているかの通信簿代わりに。百点満点の数値でもいいですし、好きとか嫌いとか、漠然とした答えでも構いませんから」
 正直、想定してなかった問いかけに思わずぎょっとしてしまうわたしなものの、夢叶は恐る恐るというよりも興味津々な様子で回答を迫ってくる。
「んむ〜っ……」
 いきなり厄介な質問を向けられたのは間違いないけど、でも考えてみたら今までわたしの方から夢叶へ気持ちを伝えた事なんて無かったっけ。
 ……まぁ、確かにこちらが聞いてばかりってのも不公平ではあるのかもしれない、か。
(ふむ……)
「……まぁ良く分かんないけど、とりあえず友達として嫌いじゃないのは確かかな?」
 いずれにせよ、考え込めば込むほどに答えが遠のく気がしたわたしは、しばらく腕組みを見せた後で、ぽつりと独り言を呟くように答えてやった。
 本当に曖昧で漠然とした回答だけど、実際「嫌いじゃない」とは言えても、「好き」と断言してやるにはちょっと抵抗を感じたのだから仕方がない。
「なるほど〜。まだまだ先は長そうですねぇ」
 すると、おそらく物足りないのは自覚してるわたしの答えを受けて、夢叶のやつは不満そうな素振りを見せたり、具体的な説明を求めるコトもなく、むしろどこか楽しそうな笑みを浮かべてくる。
「何でそんなに楽しそうなのよ?まだ、どっちに転ぶかも分かんない段階なのに」
「……ですよねぇ。どうしてなんでしょう?やっぱり、私にも良く分かりません」
 そこで、こちらの方がいささかムキになってツッコミを入れると、夢叶の笑みが苦笑いというよりも自虐を含んだものに変わってゆく。
「変なやつ……というか、前からちょっと疑惑に思ってたけど、もしかしてホントに恋愛ゲームかなにかのつもりで楽しんでたりする?」
「楽しんでいるのは否定しませんけど、それも本気になれる相手がいるからこそですよ、美幸ちゃん?」
「さいです、か……」
 結局、そういう結論に行き着くのね。
 ……というか、間接的なものも含めれば、この日だけで一体何回愛の告白をされたんだろう、わたし。
「でもまぁ、別に慌てませんけどね。これからもっともっと私のコトを知ってもらって、ゆっくり吟味してもらえれば。はい、あーん♪」
 それから夢叶はそう締めくくると、思わせぶりな上目遣いをわたしに向けながら、何口目かはもう忘れたケーキの欠片を差し出してきた。
「ゆっくり吟味って……んむっ」
「…………っ」
(ああもう、何なのよわたしは……っ)
 その夢叶の言葉に、何だかとてつもなく色っぽい響きを感じて、受け取ったケーキを飲み込むよりも早く生唾を飲み込んでしまい、わたしは慌てて首を横に振った。
 ……あと、何だかケーキの味が異常に甘く感じるんだけど、気のせいなのだろうか?
「私が美幸ちゃんの全てを知りたいと思う一方で、その逆も然りってコトですよ?美幸ちゃんにも、私をどんどん見たり触ったりして欲しいし、いつでも好きにしてくれていいんです。ほら……」
 そして、夢叶はそんな言葉を続けつつ小さなちゃぶ台を回りこんですぐ側まで近づいてきたかと思うと、フォークを持っていない方の手を取って、自分の胸元へと導いてきた。
「ゆ、夢叶……っ?」
 同時に、純白のブラウスの上から柔らかい感触と強い動悸がわたしの手に広がってゆく。
「ほら、私の胸……こんなにドキドキしちゃってます。お風呂の時は美幸ちゃんの身体に触れられたからでしたが、今回は逆なんですよ?」
「わたしに、触れられたくて……?」
「だって、あの時は結局美幸ちゃんに背中を流してもらえませんでしたし」
「し、しょーがないじゃないのよ、あの時は夢叶が調子に乗りすぎるから……」
「……でも、本当は美幸ちゃんにも同じコトをして欲しかったんですよ?」
「…………っ」
 同じコトって言えば、耳の後ろから足首まで全身を舐める様に撫で回したりとか、胸や口では言えない敏感な部分を弄り回したりとか、あまつさえ……。
「ね、今からあの時の続きをしませんか?うちのお風呂はあそこより全然狭いですけど、誰かの視線を気にする必要は無いですから」
「…………」
「それに、私もまだ美幸ちゃんの洗ってあげていない部分がありますし」
(えっと、それってもしかして……)
 はっきりとは言われないものの、すぐに該当する場所に気づいたしたわたしは、どきんと胸が大きく高鳴ってしまう。
 きっとこのヘンタイ天使のことだから、指先で軽く触れたりする程度じゃ飽き足らずに、奥の方まで広げて……。
「…………っ」
 あ、ダメだ。頭がぼや〜んとしてきた……。
「あの時は美幸ちゃんの弱い部分を知ることが出来ましたけど、私の弱い部分も是非美幸ちゃんに知ってもらいたいんです。だから……ね?」
 そして夢叶は最後の一押しを告げると、促す様に胸に触れる手を優しく握ってきた。
「……え、えっと……」
 一応、夢叶の部屋へお邪魔するのが決まった時から押し倒されそうになるのは覚悟していたけど、まさか誘惑されるなんて……。
「…………」
 まぁ、確かに一緒にお風呂は既に経験済みだし、そのくらいなら……。
 ……いやしかし、あの時と違うのは今回は完全に二人きりの中だってコトで、それはつまりエスカレートし放題といいますか……。
「美幸ちゃん……私だって、こういう申し出は勇気がいるんですよ?」
「……う……」
 けど、ああやって触られたり弄られたりするのも気持ちよくなかったかといわれると、もう一度くらいならされてみてもいいかなーとか思わなくもない自分がいるのも確かだけど……。
「…………」
「…………」
「…………っ」
 ええいっ。
「……そ、その前に、まだケーキを食べ終えてないでしょ?ほい、今度はあんたが食べる番よ?」
 しかし、結局最後にギリギリで理性が勝ったわたしは、そんな言葉と供に手を振り払うと、自分のお皿に乗った夢叶のケーキの欠片を掬い上げて、強引に口元へ差し出した。
「あはは、最終的には美幸ちゃんに押し倒されてしまいたいって願望があったりするんですが、これは押し倒してしまうよりも遥かに難しそうですねぇ?」
 すると、誘惑を撥ね退けたわたしに、夢叶は残念そうな苦笑いを浮かべた後で、大口を開けてぱくりと受け取った。
「……そりゃ、無理難題ってもんでしょ」
 少なくとも、今は……ね。

                    *

「……んじゃ、本日はここでお開きかな?」
「そうですねぇ……今日も、気付けばあっという間でしたけど」
 やがて、日が沈みかけた夕暮れ時にはじまりの広場まで戻ってきたところで、わたしがデートの終わりを告げると、夢叶は儚い笑みを浮かべて頷いた。
 その表情からは、明らかに名残惜しさや寂しさを漂わせているものの、もうそろそろ家に帰って明日に備えなきゃならない時間である。
「もう、そんな顔しないの。また明日の朝、イヤでも教室で顔を合わせるでしょ?」
「……ええ、まぁそうなんですけど」
「…………」
 ちなみに、はじまりの広場から夢叶のアパートまでは電車と徒歩で一時間近くかかるのもあって、何もわざわざここまで送ってくれなくてもというか、玄関から見送ってくれるだけでよかったのに、夢叶は「やっぱり、美幸ちゃんとのデートはこの場所で始めて締めくくりたいですし」と言い張って、勝手に付いてきてしまった。
 ……まぁ、それも想定の範疇といえばそうだし、話し足りないのならもうちょっと付き合ってやるかと好きにさせといたものの、ただ途中の電車とかでは隣に寄り添いながらも意外と言葉は少なめで、何となく昼間の明るさが日暮れと共に影を潜めてきているのは気になる感じだった。
「美幸ちゃん……」
 そんな中、途切れ途切れになっていた会話の流れが止まってしばらく沈黙した後で、夢叶がぼそりとわたしの名を呟いたものの……。
「ん?」
「……あ、いえ、何でもないです。ごめんなさい……」
 しかし、すぐに小さく首を横に振って取り消してしまう。
「呼んどいて何でもないってコトはないでしょ?というか、家を出てから元気なさそうだけど一体どうしたってのよ?」
 そこで、明らかに様子がおかしいのを確信したわたしは、少し強めに追求してやる。
 まったく、夢叶がそんな調子だと、こっちもすっきりと帰れないでしょうに。
「……実のところ、自分でも良く分からないんです。だけど、最近はこうして美幸ちゃんと別れる時が凄くつらく感じる様になって……。美幸ちゃんと始めて逢った頃は、『今日はこれだけ親密になれた』とか、『次こそは契約まで漕ぎ着けたいな』って、充実感とか闘志が沸いてきてましたのに、今は何だかひたすら寂しさばかりで、胸が締め付けられる苦しさに苛まれるんです……」
 すると、夢叶は俯きながら躊躇いがちにそう告げてくると、胸元でこぶしをぎゅっと握り締めた。
「夢叶……」
「これって、何なんでしょうね?私は病気にでもかかっているんでしょうか?」
「…………」
「……ん〜。わたしが言うのもなんだけど、確かに色々進行してるみたいね」
 それから、顔を上げて縋りつくような目を向けてくる無垢な天使様へ、少し言葉を選ぶ時間を置いた後で、苦笑い混じりに応えてやるわたし。
 どうやら、心の中で順調に存在が育まれてきているらしい。
 ……お互いに。
「え、ええっ?!」
「まー確かにそれは病の一種みたいに言われてるけど、おそらく誰もがある過程で必ずかかってしまうものだろうし、逆に逃れることも出来ないものなんだと思うけどね」
 もしかしたら、いずれはわたしも侵されてしまうのかもしれないけど。
「えっと……それで、どうやったらこれは治るんですか?」
「あー、その……」
 しかし、続けて夢叶に治療法を尋ねられ、言葉に詰まってしまうわたし。
 期せずしてながら、ひとりでにドツボへハマっていってしまってるような……。
「?」
「えっとまぁ、そんな苦しみもいずれはいい思い出になるかもしれないから、今は甘んじておきなさいよ」
「……そういう、ものなんですか?」
「たぶんね。……んじゃ、また明日学校で」
 それでも、真摯な悩みに嘘はつきたくないので曖昧な言葉でそれっぽく結論付けてやると、わたしは胸に手を当てながら佇む夢叶に手を振りながら、振り返らずに広場を立ち去っていった。
「…………」
(でもやっぱり、不治の病にしてしまうわけにはいかないわよねぇ?)
 まだ他人のうちなら、面倒くさいから気付かぬフリをするのも選択の一つだったのかもしれないけど、今はわたし自身が苦しむあのコの姿をあまり見たくないと思うようになってしまっているのが、こちらの弱みというかつらいところだった。
(……まったく、なんなんだか……)
 とはいえ、元々わたしに余計な意地を張らせたのは夢叶自身ではあるんだけど……。
「…………」
 だけど、それもいよいよ潮時に近づいてきているのかな?

第六章 本音

「ん〜、今日はどれにしようかな?」
 やがて、少しばかり変わりかけているようで何も変わらない夢叶との日常を消化しつつ、次の週末を間近に控えた金曜日の放課後、わたしは学食の一角にあるデザートコーナー前で、ガラスケースごしに並んだラインナップをじっくりと物色していた。
(何ていうか、無駄にデザートだけは豪華よねぇ、うちの食堂というか購買は……)
 その目的はもちろん、今日も第二家庭科準備室で頑張っている夢叶への「ご褒美」を見繕っているワケだけど、肝心の食事メニューはそれほど多い方でもないのに、購買部の管轄で一緒に売られているデザート類の方はやたらと品揃えが豊富というのが、うちの学食の特色だった。
(……やっぱり、こういうトコロも女子校の色が出るのかしらん?)
 ケース内に並べられたプリンやゼリー、ヨーグルト類だけでもその辺のコンビニより種類が多いし、更には学食の方も負けじと手作りのケーキセットやパフェの限定メニューも置いてあるしで、なにげに放課後はまったりとおやつタイムを満喫する憩いの場として賑わっていた。
 しかも、相談室をやらない日に夢叶とケーキセットを食べたことがあるけど、これがまた300円とリーズナブルながら、味は本格的ってのが侮るなかれというか。
「う〜〜〜〜ん……」
 ただ今回の選択基準だと、どうせ相談者からの差し入れも沢山あるんだろうから、ショコラとかクリームがたっぷり乗ったプリンとか、あまり重たいものは避けた方がいいだろうし、そもそも限られた予算で二人分を買わなきゃならないので、どうしても候補は絞られてしまいがちなんだけど。
(いっそ、温かい缶コーヒーとかの方がよかったりして……)
 まぁ、結局はおやつをあげたいんじゃなくて、単に頑張ってる労いを形にしたいだけだから、食べ物にこだわる必要自体もないんだけど。
 ……しかし、それをいってしまえばわざわざ何かを買って差し出さなくても、「お疲れさま」と一言添えて、ほっぺにちゅーでもしてあげた方が喜ぶというのは本人も主張しているワケで。
(むぅ……)
 ともあれ、最初の頃は別に何でもいいやってくらいの適当さで選んでいたのに、最近はこうしてあれこれと熟考に費やす時間が長くなってしまっていたりして。
(……というか、そろそろ“ほっぺにちゅー”くらいはしてあげてもいいのかな?)
 また、何となくそう思える様にもなってきている辺り、多分夢叶だけじゃなくて、わたし自身も気付かないうちに少しずつ変化してきているんだろう。
 結局、最初の出逢いで張った意地も誰かさんのお陰で無残にぶち壊されてしまったから、最早いつまでも続ける意味なんて……。
「あら、美幸ちゃんじゃない?こんな所にいたのね」
 そんな時、突然背後から肩を叩かれたかと思うと、穏やかで艶のある口ぶりながら、同時に何とも言えない威圧も帯びた、”誰かさん”の声がわたしの名を呼んだ。
「え、十六夜……さんっ?!」
「もう、反射的に逃げようとしないで欲しいわねぇ。せっかく探していたのに」
 思わず、びくっと肩を震わせて逃げようとしたわたしなものの、既に強い力でがっちりと押さえ込まれて動けない。
(……う……っ)
 一体、何の用事かは知らないけど、どうやら簡単に逃がしてくれる気はないらしい。
「よくも、そんな事が言えますね……」
「まぁまぁ、あのコとの付き合いを続ける限り、この私との因縁も避けられないんだから。……悪いけど、ちょっかいを出すなというのは無理な話なのよ」
 それから、振り返って困惑と怒りを隠さないまま精一杯睨むわたしに、十六夜さんは「悪いけど」の言葉通り、本当に何だか申し訳なさそうな口調で囁きかけてくる。
「……わたしにとっては、すっごくタチの悪い話なんですけど。それとも、暗に夢叶と付き合うなって脅しているんですか?」
「実はその辺のコトも含めて、少しばかり美幸ちゃんと二人きりになりたいんだけど、お付き合い願えないかしら?」
「イヤです。……と言っても、どうせ見逃してはくれないんですよね?」
 少なくとも、わたしの肩を掴むこの手は離してくれそうもないし。
「逃げたいならば、自力で逃げ切ってみればいいじゃない?ここから私を振り切って第二家庭科準備室へ駆け込められれば、あなたの大天使様が守ってくれるでしょうから」
「…………っ」
 そこで、諦め半分の溜息を吐くわたしに、どう考えても不可能な逃げ道を淡々と示してくる十六夜さん。
 体育館の一階にあるこの学食と、三階に第二家庭科準備室がある特殊教室棟は校舎のほぼ対極に位置しているから、あのコみたいに空でも飛べない限りは到底無理だし、そもそも最初の「私を振り切る」からして……。
「理不尽かしら?だけど、これも今日のこの時間、この場所にいたあなたの因果なの。天使様の言葉を借りれば、“縁”ってコトになるのかしらね?」
「……うう……っ」
(せめて、第二家庭科準備室の近くで待ってあげていれば……)
 あそこなら、大声で助けを呼べば夢叶の耳に届いたかもしれないのに。
 そして、自己満足な物の押し付けに逃げて、彼女が一番欲しがっていたご褒美をケチったばかりにと思うと……。
「さ、行きましょうか?もう逢引する場所は確保してあるの」
「…………」
 ともあれ、それから肩から腰の方へと手を回してきた十六夜さんに同行を促され、抵抗したいのに何故かわたしの両足はそれに従って歩み始めてゆく。
(ゴメン、夢叶……)
 ……ただそれでも、自分にとっての大ピンチだというのに、なぜか思い浮かぶのは夢叶への謝罪の言葉ばかりだった。

                    *

「……さて、着いたわよ」
 やがて二人揃って学食を出た後、しばらく強引に手を引かれながら校舎内を移動していたかと思うと、十六夜さんはある締め切られた教室の前まで来たところで足を止めて、わたしに到着を告げた。
「え?あの、ここは……」
「聞くまでもないでしょ?あなたにとって、この学校で一番馴染みのある場所だろうし」
 そう、確かにここが何処なのかを改めて聞くまでもない。
 ……だって、わたしと夢叶が毎日通っているクラスルームなのだから。
「教室に入るんですか?もう締め切られているみたいですけど」
「心配しなくても、鍵ならここに……ね?」
 そこで、相手の意図が読めず躊躇いがちに尋ねるわたしに、ブレザーのポケットから教室の鍵を取り出して見せてくる十六夜さん。
「うう……っ」
 一体、なんて申告して借りられたのかは知らないけど、ただわたしが抵抗する術も無く連れ込まれる場所としては、意外といえば意外だった。
 ……ただ、それ故に得体の知れないイヤな予感が既にわたしを蝕んでいるんだけど。
「ほら、入りなさい。ついでに暖房も入れておいたから、外で立ち話するよりは快適だと思うわよ?」
 それから、鍵を開けて入り口を開放した後で、十六夜さんは再びわたしの手を引きながらそう告げた。
「用意周到、なんですね……?」
「だって私は構わないけど、寒い中で“いいコト”をするのは、美幸ちゃんの方が冷えちゃうでしょ?」
「い、いいコトって……」
「あら、放課後の誰もいない教室で秘密の逢引とくれば、するコトなんて一つじゃない?」
 そして、十六夜さんは扉を閉めた後で妖しい笑みを浮かべたかと思うと、繋いだ手を強く引いてわたしの身体を抱き寄せてくる。
「……っ?!やめて下さいっ!」
 しかし、それに対して今度は反射的に相手の胸を突き飛ばして抜け出すわたし。
「ふふ、そうこなくっちゃね。この私の獲物に相応しいわ」
「……あ、うう……っ」
 すると、十六夜さんは気分を害するどころか逆に楽しそうな、わたしにとっては背筋が凍り付く残酷な笑みを浮かべると、視線だけをこちらへ見据えたまま、手近な机の上へと腰掛けてゆく。
「けど、その前に少しだけお話をしておきましょうか?……ねぇ姫宮美幸ちゃん、あなたは本当にあのコを受け入れる気なの?」
「本当にって……」
「質問に答えて」
 その後、突然に直球な質問を向けられて戸惑うわたしなものの、十六夜さんは組ませた右足に肘を立てたままの姿勢で真剣な眼差しを向けつつ、短くも強い語調で回答を促してきた。
「ま、まだ決心はしてませんけど……」
「決意はしていないけど、いずれそうなる覚悟はしている……ってトコロかしらね?」
「大きなお世話です。決めるのはわたしの自由ですから」
 思わずその視線に足が竦みそうにはなったものの、人の心の中にまで我が物顔で入り込んで来る傲慢さにむかっ腹が立ったわたしは、十六夜さんから背を向けて素っ気なく吐き捨てる。
「……ところが、そうもいかないのよね。何せ神月夢叶……いえ、大天使ハニエルは一緒に来ているアークエンジェルとは違って、一山いくらの下級天使なんかじゃないんだから」
「そんなの、わたしには関係ありませんっ」
 確かに郁実くんや御剣さん、そしてこの十六夜さん達の反応を見る中で、夢叶が普通の天使とは何となく違うっぽいというのは、わたし自身も薄々感じ取ってはいるつもりだった。
 ……だけど、ここでは天使自体が特異な存在なんだし、そもそも夢叶が何者であろうと、わたしにとっては守護天使になりたいと押しかけてきたヘンタイ天使様で、同時にこの街に越してきて最初に出来た大切なお友達であるという以外には意味なんてない。
「別に関係無いのなら、知っておいても構わないでしょ?ハニエルと言えばね、“神の栄光”という名の意味を持ち、下級第一位までの指揮権を与えられた、唯一神の玉座を守る七大天使の一角にして、天界の最高戦力なのよ。……つまり、総勢一億を超える天使の中でも頂点に君臨する存在」
 しかし、十六夜さんはそんなわたしの拒絶も全く意に介さず、まるで自慢でもしているかの様に得意げな口ぶりで言葉を続けてくる。
「ゆ、夢叶が……?」
「ええ。あの無垢で大人しそうな裏側には、その気になればこの街なんて指先一つで消滅させてしまえる神霊力を持ち合わせているわよ?もっとも、あのコ自身がそういった能力を行使した経験は未だ無いでしょうけど」
 言っている意味は完全には理解出来ないとしても、「天界の最高戦力」という言葉に反応して思わず振り返るわたしに、十六夜さんは涼しい顔でそう告げた。
「で、でも、夢叶はわたしには愛を司る天使と名乗って……」
「勿論、その側面もあるけれど、私達にとっては瑣末な事よ。何せ、いちいち説明していたらキリが無い位に数多(あまた)の役割や権限を与えられているんだから」
「…………」
「ともかく、そんな“神”にも等しい存在の大天使が突然に人間界へ降り立ったとなれば、我々としても落ち着かないってのは理解出来るでしょ?」
「だけど、夢叶はわたしの守護天使になりたいだけだって……」
「ええ、確かにそれは私も聞いたわ。……でもね、だからといって『はいそうですか』と捨て置くわけにもいかないの。色々話せない事情もあるしね?」
 そして十六夜さんは冷淡にそう締めくくると、話は終わりとばかりに机から下りていった。
「い、一体あなたの目的は何なんですかっ?!」
「……そうねぇ。当面は美幸ちゃんにエッチなコトをたっぷりと仕込んで、“鞘華お姉様”とでも呼んでもらうってトコロかしら?ふふふ」
「い、いやですっ!来ないで……えっ?!」
 それから、端正な顔に酷薄な笑みを浮かべつつ踏み出してきた十六夜さんに、本能的な危機感を覚えたわたしは逃げ出そうとしたものの、踵を返そうとした瞬間に両膝から突然力が抜けてしまった。
「う、うそ……なに……っ?」
 足がすくんでしまったとか、そういうのとはまるで違う。
 明らかに、何らかの不自然な干渉を受けて足止めされたのは間違いなかった。
「無駄よ。既に美幸ちゃんは私の呪縛に囚われているの。まぁ大天使様にバレたら殺されかねないから、仕込んだのは効力の短くて弱い術だけど、それでも普通の人間には充分でしょう?」
「そ、そんな……っ」
 もしかして、さっきも逃げたいのに足が勝手に従ってしまったのは……。
「ちなみにいつ仕込んだかは、説明するまでもないかしら?」
 そして十六夜さんはそう言いながらも、自分の口元に指を当てて示してみせる。
「……ファースト・キスを奪われた時……ですか?」
「御名答。つまり、既にあの時点で美幸ちゃんは私の手の内だったんだから、大人しく観念するのね?」
「い、いや……っ、来ないで……!」
「ふふ……その怯えきった顔、とっても美味しそうよ?たまらないわね……」
「うあ……っ?!」
 そこで今度という今度こそ逃げる手段も尽き、へたり込んだまま懇願するわたしに、十六夜さんは軽い舌なめずりを見せた後で強引に手を掴んだかと思うと、さっきよりも強いチカラで胸元へと引き寄せてきた。
「く……っ」
 ……おそらく、腕力よりもこれは十六夜さんの特異能力なんだろう。
 自分で言うのも何だけど、座り込んでいたわたしの体重を完全に無視した問答無用ぐあいだったのだから。
(うう……っ)
 すなわち、夢叶と同じく人にあらざる存在の十六夜さんには、所詮わたしの抵抗なんて全くの無力ってコトなんだろうけど……。
「さぁて、今度こそ捕まえたわよ?……では、遠慮なくいただくわね」
「くっ、ダメぇ……っ!」
 しかし、だからといって夢叶の為にも簡単に諦めるワケにはいかないわたしは、それから咄嗟に顔を背けて、迫ってきた十六夜さんの唇を避ける。
「へぇ、やっぱり二度目はそう易々と奪わせてはくれないのね?」
「あ、当たり前ですっ!」
 まだ、夢叶には一度も許してやっていないというのに。
「往生際は悪いけど、美幸ちゃんのそういう気高さは好きよ?……だからこそ、奪い甲斐があるもの」
「や、やめ……んむぅ……っ?!」
 だけど、そんな些細な抵抗も、所詮は相手を更に扇情するだけ。
 十六夜さんが耳元で楽しげにそう囁きかけた後、わたしは力ずくで背けた顔を正面へ向けられ、今度こそ強引に唇を奪われてしまった。
「…………っ」
 微かに覚えていた生暖かくも柔らかい感触が、わたしに二度目の喪失感を与えてゆく。
(ゴメン、夢叶……またわたし……)
「…………」
「……ふぅ。相変わらず濁りの無い美味しい精気ね。ハニエルより先に私が供給源として目を付けておくべきだったかしら?」
 それから、息が苦しくなった頃にようやく唇を離した後で、満足そうに微笑む十六夜さん。
「はぁ、はぁ……っ、でも、わたしと夢叶の出逢いはもう仕組まれていたんでしょう?」
「さて、本当にそうなのかしらねぇ?ふふ」
「え……?」
「だけど、やっぱり堕天使的には横取りの方が性に合っているわね。それが憎き天使の獲物となれば、尚更の御馳走よ」
 そして十六夜さんは一方的にそう続けると、再びわたしの唇を奪ってきた。
「…………っ?!」
(さ、三度目ぇ……っ)
 しかも、今度は唇を重ね合わせるだけにとどまらず、無理矢理に舌を差し込まれてわたしの口内が十六夜さんに侵略されてゆく。
「んふぅっ?!ふぁ……っ」
 そこで思わず舌で押し出そうとしたものの、それが逆に十六夜さんの舌と絡まり合う結果になってしまい、やがて分泌された唾液がわたしの喉へと流し込まれていった。
「…………っ」
(わたし……十六夜さんに口だけじゃなくて、喉まで侵されてる……)
「んふっ、気持ちいいでしょ?……でも、すぐにもっと良くなるわ」
「あふ……っ、もうやめ……んくぅ……っ」
(だから、困ってるのにぃ……っ)
「はぁ、はぁっ、ふはぁ……っ」
 確かに、柔らかくてねちっこく絡み付いてくる十六夜さんの舌遣いは、単純に気持ちよくないかと言われると否定しきれないかもしれないものの、しかしそれゆえに悔しいやら、夢叶に申し訳ないやらで、心の方はフクザツな気持ちで入り乱れていた。
「ほら、人任せだけじゃなくて、もっと自分から絡ませなさい?手本を見せてあげるから」
 しかし、そんなわたしに構わず十六夜さんはそう告げると、絡ませた舌を更に激しく掻き回してくる。
「んうっ!んんっ、んむぅ……っ」
 わたしはその舌先から逃げようと試み続けるものの、狭い口内ではそれもままならず、結局は十六夜さんのいい様にされる形でぴちゃぴちゃと妖しい音を立てながら唾液が絡み合い続けた。
(こ、こんなの……ダメ……ぇっ)
「ふぅっ、相手が誰だろうと気持ちいいのならば素直になった方が楽よ?……まぁ、じきに嫌でもそうなるでしょうけど」
「はぁ、はぁっ、そんなコト……んあっ?!」

 どくんっ

 それから、透明な粘液の糸を引きながら唇を離した十六夜さんが、まるで心の中を見透かすような台詞を告げた直後、息を整えるわたしの体内で変化が生じた。
「な、に……これ……っ?」
 一瞬、胸が痛い位に激しく脈打った後で、今度は身体の芯から小さな疼きの様な感覚が、じわじわと全身へと広がってゆく。
(か、身体が……熱い……?!)
「ふふ、いい感じで回ってきたみたいね」
「い、十六夜さん……一体、これは……ぁっ」
「お楽しみの時間を更に燃え上がらせる為の、ちょっとしたスパイスってトコロかしら?幸い私は、そういうモノを作るのが得意だから」
 そして、不意打ちで襲ってきた明らかな異変に対してただ困惑するわたしへ、漏れ出た粘液を舌で絡み取りながら妖しい笑みを向けてくる十六夜さん。
「……たとえば、自分と仕込みたい相手の唾液を混ぜ合わせて、即興の媚薬を作り出すコトが出来たりね?ふふっ」
「んな……っ?!」
 つまり、さっき喉を通った唾液が……。
「心配しなくても、この媚薬自体は身体に害は無いわ。ただ、得られる快感が少しばかり増幅される程度だから。ほら……」
「は……はぁぁ……っ?!」
 そう言って、わたしを抱き支える十六夜さんの手が背中から腰周りを這い回り始めた途端、背筋を襲ってきた想像以上の刺激に目を見開いてしまう。
「ふふ、しっかりと効いてきたみたいね?……でも、まだまだこれからよ」
「あ、ふあああっ?!やっ、だめぇ……っ」
(な、なに、これ……っ?!)
 着込んだ制服の上から軽く撫でられているだけのハズなのに、触れられるたびに身を震わせてしまう程の強い衝撃が走り、気付けばわたしの身体は少しばかりどころか、怖いぐらいに敏感になっていた。
(こ、これで、敏感な部分に直接触れられたりしたら……)
 そして、そんな想像が頭を過ぎると同時に、また心臓が痛い位にどきんどきんと脈打ち続けてくる。
「はぁ、はぁ……っ、ふぁぁ……っ」
(ううっ、な、なんなのよ、もう……っ)
 身体には害が無いと言われても、心臓には物凄く悪い気がするんですけど。
「ふふ、そんなに胸を高鳴らせて……期待しているのかしら?」
「ち、違います……っ!」
 ……と、言葉では否定しつつ、太ももやお尻をイヤらしい手つきで撫でられながら、一向に動悸が治まらないのが悔しくもつらいところだけど……。
「足を震わせて反応しておきながら、あくまで気丈なのね?……ふふ、まぁいいわ。仕込んだ媚薬もいい頃合で回ってきたみたいだし、ちょっとそこへ立ってくれるかしら?」
「え……?」
 それから、しばらく撫で回した後で十六夜さんはそんな指示を向けてきたかと思うと、ようやく抱きしめた腕から離して、黒板の隣の壁へ背中を預ける形で立たされてしまうわたし。
 ……ただ、それでも脱力と媚薬の二重の呪縛で、隙を突いて逃げ出すどころか立っているのが精一杯だから、やっぱりまな板の上の鯉には違いないんだけど。
「ど、どうするんですか……?」
「どうするって、もっとイヤらしいコトをするに決まってるでしょ?」
 ともあれ、不安と怯えを隠せないわたしに十六夜さんは素っ気無くそう告げた後で、ブラウスのボタンを手早く外して下着を露わにしてくる。
「あ、いやぁ……っ」
「勝手に動かないの。自分の立場は分かっているでしょう?」
 思わず、恥ずかしさに上半身をよじらせて抵抗しようとするものの、鋭い口調でぴしゃりと制止をかけてくる十六夜さん。
「うう、悪魔ぁ……っ」
「だって、悪魔ですもの。うふふふふ……」
「…………っ」
 更に十六夜さんはブラウスだけに留まらず、ブラジャーの方も容赦なくせり上げ、あっという間に彼女の目の前へ両胸が晒されてしまった。
「あらあら、とっても可愛い膨らみじゃない。美味しそうよ?」
「は、恥ずかしいです……っ、それに……わたしのは小さいし……」
 直接見たことは無いけど、制服の上からでも夢叶に負けず劣らずのプロポーションを持っているのが分かる十六夜さんに褒められても……というのはあるワケで。
「下らないコトを気にしているのねぇ?嗜好なんて千差万別なものだし、大切なのは相手を扇情して惑わせられるか、でしょ?」
「それも、ちょっと違うと思うんですけど……ひっ?!」
 しかし、そこからツッコミを入れ終える前に、十六夜さんの指先がわたしの両胸へと伸びてくる。
「……ほら、蕾みたいなちっちゃな乳首とか、とっても可愛くてイヤらしいわよ?」
「あひっ!らめぇ……っ!」
 そして、軽く揉まれながら人差し指で掻く様にしてそれぞれの先端を弄られ、喘ぎ声と共に身を大きくよじらせるわたし。
「んあっ!はぁっ、はぁっ、だ、だめ、だめらめぇ……っ」
 ただでさえ凄く敏感な場所なのに、盛られた媚薬で更に増幅されていて、とても唇をかみ締めて耐えられるものじゃないというか、殆ど拷問に近かった。
「ふふ、ダメダメ言っている割には、こんなにビンビンにしちゃってるじゃない?……ほら、あのコ(夢叶)じゃなくても、私に乳首をコリコリされて気持ちいいんでしょう?」
「そ、そんなコトな……んひっ?!は、はぁぁぁっ、はぁぁぁぁ……っ!」
 勿論、説得力が無いのは分かっているけど、それでも認めるわけにはいかない。
 いかないのに……。
(あう……っ、身体が……)
 わざわざ暖房を効かせてもらっていたものの、十六夜さんに弄られ続けるうちにわたしの身体は次第にそれすら必要がない位に熱くなって、汗が滲み出してきていた。
「強情ねぇ。じゃ、そろそろこっちのお口に本音を聞いてみようかしら?」
 すると、そんなわたしの反応を見て楽しそうにそう告げたかと思うと、不意にスカートを捲り上げてくる十六夜さん。
「いやあっ?!」
「あら、上下お揃いでピンクと白のしましまなのね?胸が小さいのを気にしている割には、しっかりそれに合わせたのを選んでるじゃない?」
「そ、それは……」
「でも、うちの校則って一応白が指定だから、私みたいなエッチな風紀委員とかに見つかったらお仕置きされちゃうわよ?ふふ」
「う、ううっ、もう勘弁して下さい……っ」
 言われて思い出したけど悪魔が風紀委員って一体何の冗談というか、もう女同士とかそんなのは全然関係なく、吐息が太ももに当たるくらいの至近距離からスカートの中を覗き込まれて、恥ずかしさで目から火花でも出てきそうだった。
「何言ってるの?本当に恥ずかしいのはこれからなのに。ほら、しっかり裾を持ってなさい」
 しかし、十六夜さんは許してくれるどころかわたしの目の前へスカートの裾を突きつけ、命令口調で促してくる。
「そ、そんな……出来ませんっ」
 だって、それじゃまるで自分から捲り上げて見せているのも同然になるのだから。
「出来ないワケないでしょ?……それとも、あなたを縛る呪縛を解除出来るのはこの私だけだと、いちいち脅されないと動けないのかしら?」
「……わ、分かり……ました」
 だけど、既に十六夜さんの術中に囚われた今は拒否権なんて存在しない。
 わたしは震える手で左右の裾を持ち上げ、改めて相手の望み通りにショーツを曝け出した。
「ふふ、いい子ね。そうやって素直に従えば、とっても気持ちいいコトをしてあげるから」
 それから、十六夜さんは言われるがままのわたしに満足そうな笑みを見せると、下着の薄い生地越しに秘所を覆う部分へと指をめり込ませてくる。
「んあああ……っ?!」
 その瞬間、びくんっと強い電撃がわたしの身体を迸った。
「や、あ……っ、あああ……っ」
 下手したら、この一瞬でイってしまいそうになったのは何とか堪えたものの、それでも今までに感じたコトのない強い刺激に、気持ちよさよりも戸惑いの方が先走ってわたしを不安に陥れてゆく。
(一体、これからどうなっちゃうんだろう、わたし……?)
「ショーツの上から触れただけなのに、美幸ちゃんのココから雌の匂いがぷんぷんしてきているわね?ほら、こうするともっと匂ってくるかしら……?」
 そして更に十六夜さんは指の動きを止めることなく、今度は最も敏感な部分を包む場所を狙ってぐりぐりと上下に擦り付けてくる。
「うあっ、はぁぁぁっ?!やぁっ、だ、だめそこは……ぁ……っ!」
「ダメなんかじゃないでしょ?ほら、下着越しで私の指先が湿ってきているわよ?」
「く……っ、そんな……言わないでぇ……っ」
 しかし、それでも敏感な部分を指先でなぞられるたびにジンジンと痺れる様な刺激が伝わってきて、秘所の奥からじわっと恥ずかしいモノが分泌されてくるのに抗えないわたしは、ただ意地悪な実況を続けてくる十六夜さんから目をそむけるのが精一杯だった。
「うふふ……どんどん溢れて、まるでお漏らしでもしてるみたいね?そろそろ、直接触って欲しいんじゃないかしら?」
「はぁ、はぁっ、そんなの……だめぇ……っ」
 恥ずかしいのも当然として、今の敏感になり過ぎている状態で直接弄られたら一体どうなってしまうのか分からない怖さで、ほぼ無意識に拒絶の言葉が出てくるわたし。
「でも、このままじゃ染みになっちゃうわよ?ほら、観念して見せなさい」
 ……とはいえ、そんな口先の抵抗で許してくれるハズもなく、十六夜さんは言うが早いか指をショーツの横紐へ引っ掛けると、そのまま一気に引き下ろされてしまった。
「…………っ!」
(見られてる……これで十六夜さんに一番恥ずかしいトコロまで……)
 もしかしたら、以前のお風呂の時に夢叶にも見られているかもしれないものの、ただ今回は普段はクラスメートと一緒に授業を受けている場所で、こうして制服を半脱ぎで胸もあそこも曝け出されているという状況が、余計にわたしの羞恥心を煽っていた。
「へぇ、ツルツルで可愛いワレメちゃんねぇ?まさか、まだ生えてなかったなんて思わなかったけど……ふふふ」
 そして、十六夜さんは更に煽るようにストレートな言葉で感想を口にしながら、指先で周囲をゆっくりとなぞっていき……。
「…………っ?!い、いや……」
「中はどうかしら?精気の味でまだ純潔なのは分かってるけど……あら、やっぱり綺麗な色してるわね」
 繊細な指先がソフトタッチで這い回るぞわぞわとした刺激に身を震わせるわたしに構わず、やがて指で軽く押し広げて中まで確認しようとしてくる。
「あっ、うう……っ、じ、ジロジロ見ないで下さい……っ」
 奥まではまだ夢叶にも見せたコトないのに……またひとつ奪われちゃう……。
「ふぅん、それじゃ見られるよりも早く弄り回して欲しくて我慢出来ないってコトかしら?」
「ど、どうしてそうなるんですかぁっ、こっちは恥ずかしくて死にそう……きゃふっ?!」
 それでも、あくまで身勝手な十六夜さんへ抗議しようとするわたしなものの、しかしそれも言い終わらないうちに、今度は相手の指先が少しだけめり込んできて……。
「どうしてもこうしても、これだけグッショリと濡らせておいて、まだ言い訳出来ると思ってるの?」
 更に、入り口付近を軽くかき回しながら嘲るように告げてくる十六夜さん。
「ひっ?!あっ、ダメ……弄っちゃ……く……っ」
「悪いけど、私にとっては美幸ちゃんの“ダメ”は、おねだりの言葉と自動的に解釈されるんだから」
「そっ、そんなのは好きな人が相手の時だけです……っ」
 ……って、何をカミングアウトしてるんだろう、わたしは?
 ただ、少なくともわたしにとってのその相手はこの人なんかじゃなくて……。
「んじゃ、この私を好きになればいいじゃない?別に天使様との二股でも、快楽を与えてもらうだけの関係でも私の方は構わないわよ?」
 しかし、十六夜さんはそんなわたしへ更に身勝手な言葉を囁いた後で、馴染ませるように弄っていた指遣いをいきなり激しくさせてゆく。
「んひぃっ?!あああっ、はぁぁぁ……っ!」
「ほらほら、こっちのお口はこんなにクチュクチュと涎をたらせて、どっちが本音なのかしら?」
「はぁ、はぁ、はぁぁぁっ!い、言わないで下さい……っ」
 だ、ダメ……このままじゃ……。
「ふふ、現実から逃げちゃダメよ?ましてや、大天使と付き合うのなら尚更……ね」
「あひぃっ?!」
 それから、十六夜さんの指先が不意打ちでクリトリスに直接触れてきた途端、一気に弾けてしまう様な刺激を受けて、とうとうわたしの腰は完全にくだけてしまった。
「うあ……ああ……あ……っ」
 そして、そのまま脱力したわたしの身体は、倒れ込むようにして再び相手の腕の中へともたれかかってしまうものの……。
「……あらあら、もうイっちゃったの?ふふ、まぁいいわ……それじゃそろそろ、メインディッシュをいただこうかしら?」
「はぁ、はぁ……っ、え……っ?!」
 それでも、十六夜さんの方は一回目の絶頂を迎えてしまったわたしへ休む間もなく続行を告げると、力の抜けた腕を掴んで別の場所へ移動させようと引っ張ってくる。
「ほら、こっちよ?グズグズしないの」
「ち、ちょっ……うあ……っ」
 これ以上、一体わたしに何をするつもりなんだろう?

                    *

「……それじゃ、お尻を私の方へ向けてここに乗ってもらえるかしら?」
「あ、あの、この席は……」
 やがて、教室の中央近くまで連れて行かれた後で十六夜さんに次の場所として指定されたのは、夢叶の机の上だった。
「でも、そうねぇ……机一つだけじゃ少々狭すぎるから、隣の美幸ちゃんの席と一緒にしましょうか?少し待っててね」
「……うう〜〜っ、悪趣味……っ」
 元々、編入してきた直後は離れた席で、それから夢叶がわたしにひと目惚れしたってクラスメートが知ってからは、彼女に気を利かせて隣同士になるように交換してくれたんだけど、まさかこんな形で悪用されるなんて。
「だって、堕天使ですもの。……でも、こういうのって美幸ちゃんの方もゾクゾクしてこない?」
 ともあれ、セッティングを終えた後で命じられるままにわたしが合わせられた机の上へよじ登ったところで、背後からクスクスと妖しい笑みを浮かべてくる十六夜さん。
「し、してきません……っ」
 断じて、してきてたまるもんですかっ。
「……なら、私が目覚めさせてあげるわ」
 しかし、半ばムキになって反論するわたしに十六夜さんは素っ気無くそう続けたかと思うと、背中を軽く突き飛ばすように押してきた。
「あう……っ?」
 そして、そのまま夢叶と自分の机の上へ這い蹲らされて、十六夜さんの目の前へお尻を突き出す様な格好にされてしまう。
 もちろん、下着はさっき脱がされたままだから……。
「ふふ、いい眺めよ?このままでもお尻の穴が丸見えだけど、ほら、こうすると……」
 更に、十六夜さんはまるでわたしの頭の中を読んだ様にそう告げると、お尻の双丘を掴んで左右へゆっくりと広げ、その奥にへ向けて鼻先が当たるくらいまで顔を近づけてくる。
「あっ、いやあ……っ?!」
「ふふ、小さくてきゅっと窄んで、とっても可愛いわよ?……こっちも綺麗なピンク色してるし」
「だ、だめ……広げて見ないで下さい……ぃっ」
 いくらなんでも、これは恥ずかしすぎておかしくなっちゃいそうだった。
「……あら、あなたの大天使様には、まだこういうコトされてないのかしら?」
「んなワケ、ないですっ!」
 そりゃ、見たがってはいるだろうけど、たとえ夢叶でも最後まで抵抗する場所なのに。
「勿体ないわねぇ。ここはある意味、一番美味しいスポットなんだけど……」
 すると、身をよじらせようとするわたしに十六夜さんはがっしりと掴んだまま独り言の様に呟いた後で、ふうっと息を吹きかけてくる。
「んひっ?!だ、ダメですってば……っ」
「ふふ、その割にはモノ欲しそうにひくひくとさせているけど……本当は舐りまわして欲しいんでしょ?」
「そ、そんな……そこだけは許して……」
「だーめ。私としては逆に“ここ”だけは譲れないもの」
 しかし、わたしの力なき懇願は無常にも却下されてしまうと、先ほど口内で暴れた十六夜さんのヌメヌメとした柔らかい舌が、今度は曝け出された恥ずかしい窪みに向けて這い回ってきた。
「あひぃっ?!だ、だめ……はぁぁぁぁ……っ!!」
 そして、その舌先が焦らされて敏感になりきっていた入り口にめり込んだ瞬間、頭の中が真っ白になるような未知の刺激がわたしの背筋を駆けめぐってゆく。
「だめぇっ……おねがいやめ……あひぃぃぃぃっっ」
「……んふっ、いい反応見せてくれるじゃない?これは仕込み甲斐がありそうねぇ」
 それから、いきなり激しく?き回されるのに合わせて仰け反りつつ腰が抜けてしまいそうになってしまうわたしに、十六夜さんは楽しそうにそう告げると、やがて今度は皺をなぞる様にねっとりと周囲を嘗め回してきた。
「い……ひっ!そんなトコ……らめですって……ばぁ……っ」
 それは、くすぐったさが極限まで凝縮された様な刺激で、わたしは無意識に腰を振りながら逃れようとはするものの、押さえつけられて固定されている上に、躊躇も容赦もなく続けられる舌での責め苦で次第に全身から力が抜けていってしまう。
「はぁ、はぁ……あひぃぃっ?!」
 ……もう既に、わたしは好色な悪魔に捕らえられ一方的にむさぼられるだけのエモノだった。
「でも、気持ちいいでしょ?ココは不浄な場所だとか固定概念に囚われていたら勿体無いわよ?」
「ふぁっ、はぁぁっ、で、でも……んひ……っ」
 逆に、癖になったら困るんですけど……っ。
「……それに、あの大天使様だって、美幸ちゃんのお尻の穴なら喜んで御奉仕するんじゃないかしら?あの”神の栄光”のハニエルにそんな要求が出来るのは、三界でもおそらくあなただけよ?ふふ」
「い、いい加減にして下さいっ!そんなのわたしには関係ないって……」
「大声を出さないの。教室は締め切っているけど、外を誰かが通りかからない保証までは出来ないわよ?」
 そこで、からかう様に不遜な言葉を続ける十六夜さんに思わず声を荒らげるわたしなものの、それもあっさりと脅迫めいた言葉で制止されてしまう。
「あ、悪魔ぁ……っ」
「だから、最初からそうだって言ってるのに。……それに案外、美幸ちゃんも満更でもないんでしょ?」
 それから、十六夜さんはお尻に舌を這わせ続ける一方で、空いた手を秘所へと伸ばし、再び割れ目の付近を指で穿り返してくる。
「んあっ!や、やぁっ、いっしょに弄っちゃ……っ?!」
「ほぉら、お尻の穴を舐め回されて、下のお口からはどんどん涎が溢れてるじゃない?中なんてもうこんなにトロトロよ?」
「い、いやぁ……お願いだから、もう意地悪しないで下さい……んっ!」
 ただでさえお尻の刺激だけでも強烈すぎるのに、他の敏感な部分まで一緒に弄られたらおかしくなってしまいそうで……。
「やれやれ、意地悪なのは美幸ちゃんの方じゃないかしら?私が気持ちよくしてあげようと頑張って身体の方もこれだけ反応しているのに、ずっと強情を張り続けているんだから」
「…………っ」
 そこで一方的なコトばかり言わないで下さいと言い返したかったものの、それでも秘所の方を弄る十六夜さんの指先からくちゅくちゅと分泌した愛液が溢れている淫らな証を立てられ、唇をかみ締めて言葉が止まってしまうわたし。
「まぁ、いいわ。あまり簡単に陥落しても面白くないしね。……ふふふ」
 すると黙り込むわたしに、十六夜さんは勝ち誇った含み笑いを向けた後で再びお尻の割れ目の奥へ顔を埋めると、秘所への指攻めと合わせて舌遣いを激しくグラインドさせてくる。
「っ?!ふああああっ?!」
「や、らめっ!そ、そんな激しくしたら…んあああああっ!」
 ダメ、このままだと、またわたし夢叶以外のひとに……。
「ひ……んっ、やぁぁぁ……っっ、はぁ、はぁ……っ、ふぁっ」
「ふふ、いい声で鳴くようになったわね……。そろそろまたイかせて欲しいのかしら?」
「はぁっ、はぁぁっ、そ、そんな……お尻でなんて……」
 だけど、確かにもう限界が近いというか、前と後ろの二箇所を同時に攻められ続けるうちにまた何かが上りつめようとしていて、もう完全に十六夜さんの為すがままになっていた。
「躊躇うことなんてないわ。好きなだけ快楽に溺れていいのよ?……ほら」

 つぷっ

「んひいっっ?!」
 そして、十六夜さんの舌先が窪みの中へと深く差し込まれてきた瞬間、わたしは意識が飛んでしまいそうになる程の刺激と共に、二度目の絶頂を迎えてしまう。
「……っくっ!……はぁ、はぁ、あはぁ……っ」
 耐えなきゃって思ってたのに、また……。
「ふふふ、月並みだけど口では強がり言っても、やっぱりカラダは正直みたいね?それに、これで美幸ちゃんとの既成事実も出来ちゃったし」
「はぁ、はぁっ、ううっ、酷いです……っ」
 ともあれ、十六夜さんに好き勝手なコトを言われながらも、四つん這いのままでぐったりとしながら、精々捨てゼリフ程度しか返せないわたし。
 ……まだ直接の苦痛は受けていないけど、得もしれない屈辱感で泣きたくなってしまっていた。
「だから、私が誰だか考えれば当たり前って言っているでしょって、こういうやり取りもいい加減飽きたわね。……ま、いい頃合だから、そろそろ見せてあげましょうか?」
「え……?」
「ハニエルからも見せてもらったことはあるんでしょ?“人にあらざる者”の証明よ」
 すると、十六夜さんはそんなわたしへ予想外の切り返しをしてきたかと思うと、暖房中にもかかわらず、何やらゾクっと背筋が寒くなる様な冷たい気配と共に、彼女の背中から幾重にも重ねられた、白色と黒色の混じった翼が具現化されてゆく。
「……あ……」
 それは、夢叶の翼と形がそっくりながら、色は灰色に濁ったものだった。
「どうかしら?堕天使は完全な漆黒にはならないから、色艶は微妙かもしれないけど」
 確かに、夢叶の翼みたいに純白でもなければ、漆黒の様な純然たる黒でもない。
 純粋な白銀色に輝く夢叶の翼を初めて見た時には、眩しいながらも綺麗だと思ったけれど、十六夜さんの翼からは、そんな感情は湧いてこなかった。
「…………」
 ……だけど、一方で禍々しさに溢れて恐怖が増長される感じもしない。
 むしろ、白でも黒でも無い、曖昧な翼の色に込められた感情は……。
(孤独……?)
「翼だけじゃないわよ?実はこういうモノもあるの」
「え、ええっ、尻尾……っ?!」
 しかし、続けて十六夜さんの背中の辺りから、先端がくさびの様に膨らんでいる黒くて細長いモノが伸びてきたのを見て、思いっきり口元を引きつらせてしまうわたし。
 確かに悪魔といえば尻尾もセットなのかもしれないけど、その凶悪なインパクトは翼とは比べものにならなかったりして……。
「ええ。堕天使の私には邪魔で不快な烙印ではあるんだけど、でもなかなかどうして便利なモノでもあるのよ?ちゃんと私の思い通りに動いてくれるし」
 ともあれ、十六夜さんは硬直するわたしにそう告げた後で、どす黒い尻尾の先を口元へまで伸ばすと、その先をペロリと妖しく舐めて見せる。
 それはまるで、尻尾というよりは彼女の意思で自在に動く触手の様にも見えるけど……。
「ふふ、これで大分“らしく”はなったでしょ?……それじゃ、そろそろ”このコ”にも働いてもらおうかしら?」
「ち、ちょ……っ?!」
 まさか、その尻尾で……と、強烈に沸き立つイヤな予感がわたしに危険を告げてくる。
「まぁホントは、これで今まで守ってきた美幸ちゃんの純潔を頂いてしまいたいトコロなんだけど……」
「だ、ダメです!やめて……っっ」
「……でも、せっかくの澄んだ精気が濁ってしまうのは勿体ないし、ちょっとリスクも大きすぎるから、そちらの方は我慢しておくことにするわ」
「…………っ」
(た、助かった……?)
 リスクとは、もしかしたら夢叶のコトを言っているのかもしれないけど、とりあえず悪魔の尻尾でロストバージンという最悪の展開は免れたみたいで、とりあえず胸を撫で下ろすわたし。
「ただ、その代わりと言ってはなんだけど、”うしろ”の方を頂くコトにするわね?ふふ……」
「うあ……っ?!」
 ……しかし安堵もほんの束の間、十六夜さんはすぐさまそう続けるや、不意に覆いかぶさるようにして肩口を押さえつけられた後で、悪魔の尻尾の先が足から太ももの裏を通って、今まで散々舐り回された窪みの方へと這い寄ってくる。
「い、いやっ?!まって嘘でしょ……?!」
「たっぷりとほぐしてあげといたから、大人しく力を抜いていれば痛くはないわ。……ほら、まずは美幸ちゃんのお汁を絡めて……」
 そこで何をされようとしているのかをすぐに察して取り乱すわたしに構わず、十六夜さんは背中の上から冷たくそう告げると、まずは尻尾の先を濡れそぼった秘所の入り口で馴染ませ……。
「ひっ?!お、お願い、やめて下さいっ!」
「大丈夫、怖いのは最初だけよ。私の尻尾はとっても柔らかくて、気持ちいいんだから……!」
 それから、必死の懇願も全く意に介さないまま、尖った先端部を閉じたわたしのお尻の中へゆっくりと、しかし容赦無くめり込ませてきた。
「いぐ……っ?!は、はぁぁぁぁぁぁっ?!」
 先が細くて適度に柔らかかったお陰もあるのか、痛みの方は想像していた程じゃなかったものの、代わりに進入してくるにつれて何とも言えない異物感や圧迫がわたしを襲ってくる。
「……あは、思ったよりすんなりと入っていくじゃない?」
「く、苦しい……です……っ」
「我慢して。太いのは先の部分だけだから、あともう少し入れば……」
「くぁ……っ!やっぱり、無理ぃ……っ、んあっ?!」
 やがて、お尻の穴が最大まで広げられてしまう様な痛みが走った後で、不意にすぽんと全体を飲み込んだ感触と共に和らいでくる。
「ほぉら、お尻に全部入っちゃったわよ?」
「うぐ……っ、はぁぁ……っ」
(やっぱり、キツい……っ)
 文字通り、楔を打ち込まれた様な強烈な異物感に、はしたないけどお尻を踏ん張らせて追い出そうとするわたしなものの、腸内で先端部がしっかりと引っ掛かってしまい、とても自力で出せそうな気配はなかった。
「くぅぅっ、はぁ……っ、はぁ、はぁ……っ」
 ……というか、そもそも全身にチカラが入ってこないし。
「ふふ、そんなに焦らなくても後でちゃんと抜いてあげるわよ?……ただその前に、少しばかり楽しませてもらうけど」
「えっ、え……んあっ?!」
 一方で、十六夜さんはそんなわたしの膨らんだ窪みを指先で撫でながら艶っぽくそう告げると、中に入った尻尾の先が、ゆっくりと奥へ向けて抽迭を始めてくる。
「あっ、ああっ?!ま、まだ動いちゃ苦し……くぁぁぁぁ……っ!」
 異物を埋め込まれているだけでもキツいのに、腸内を掻き回される未知の圧迫感で、わたしは息が苦しくなってしまう。
「平気よ、すぐに慣れて気持ちよくなるから。この柔らかい私のモノで抉られるのが癖になっちゃうくらいにね?」
「んんあっ、そ、そんな……うぐぅ……っっ」
「……しかし、凄い締め付けね?これなら指だけでも充分だったかしら?」
「うあっ、あっああっ、らめぇ……っ、こんなの……はひぃぃっ」
(侵されてる……わたし、十六夜さんに……)
 今までは、表面付近を弄られたり舐られたりだったのに対して、こうして体内へ身体の一部を“挿入”されたコトで、今度は十六夜さんに内部から侵食されてゆく新たな喪失感に陥ってしまうわたし。
「はぁ、はぁっ、もう……許して……ぇ」
 それでも、抵抗する術が無いわたしは、擦れた声で懇願するしかないものの……。
「あら、まだ許しを請うには早いわよ?この尻尾は、色々と気持ちのいい動きをしてあげられるんだから。たとえば……」
 しかし、それも十六夜さんはあっさりと却下してしまうと、抽迭を続ける悪魔の尻尾の動きに、今度は“回転”の動作が加わって、狭い腸内で暴れ始めてくる。
「んぁぁぁぁっ?!は、はぁぁ……っ!」
「なかなか便利でしょ?まだまだ動きのパターンは沢山あるし、今度は“これ”で絶頂を迎えるまでたっぷりと可愛がってあげるわ」
「うぁぁぁっ!お願いやめて……あひぃぃぃ……っっ?!」
(助けて……助けてゆかなぁ……っ!)

 どんどんっ

 そこでとうとう、わたしが声にならない叫びを挙げた直後、教室の出入り口の方から扉を叩く鈍い音が聞こえてきた。
「え……っ?!」
(まさか……)
「美幸ちゃん、中にいるんですか……?!」
 思わず顔を上げた直後、更に続けて届いたわたしを呼ぶ声で、そのまさかが確信へと変わってゆく。
「ゆ、夢叶……?!」
「ふふ、ようやく嗅ぎつけて来たみたいね」
「だ、だめっ、来ないで夢叶……っ!」
 助けてとは叫んだけど、やっぱり今は来ちゃダメ……っ!
 ……しかし、わたしが叫ぶのも虚しく、程なくして教壇横の床に何やら蒼白く光る複雑な模様が浮かび上がったかと思うと、そこからわたしの天使様の姿が現れてくる。
「美幸ちゃん、大丈夫です……」
「…………っ?!」
 そして、すぐにこちらへ駆け寄ろうと踏み出しかけたところで、十六夜さんに捕われたわたしの無惨な姿を見て、目を見開きながら絶句してしまう夢叶。
「ゆ、夢叶……」
「あら、いらっしゃい。入れ込んでいた割には思ったよりも遅かったわね?」
「鞘華さん……貴女は……ッッ!!」
 それから、挑発半分といった十六夜さんからの出迎えのセリフをきっかけに硬直が解けた夢叶は、激しい怒りを示すかの様に自分の翼を一瞬で広げ、睨みつけるなんて言葉じゃ足りない位の殺気を込めた視線を向けて対峙してゆく。
「ふふ、怖いわねぇ。まるで、問答無用で八つ裂きにでもされてしまいそうよ?」
「……鞘華さん、最早一切の申し開きは聞きません。覚悟は出来ているんでしょうね?!」
「何の覚悟かしら?美幸ちゃんはまだあなたのモノってわけでもないでしょう?」
 怒りで我を失いかけているのか、教室内ということも忘れて、右手に何やら得体の知れないエネルギーを集中させながら剣呑な視線を送る夢叶なものの、対する十六夜さんは涼しい口調でスルーしてしまう。
「そうだとしても、現地の人間に対してそこまでの暴挙を働く事は明らかな協定違反ですっっ!前回の時は泣く泣く拳を納めましたが、今度こそは“主”の名の元にこの私が……!」
「……だけど、ハニエル様も本当は同じコトをしたいんでしょう?あなたが怒っているのは、ただ先に手を付けられたからというだけ。違うかしら?」
「う……っ」
 しかし、続けての反論もあっさりと返り討ちにされ、動きが止まってしまう夢叶。
「相変わらず、天使ってのは自分勝手なものね。先に目を付けたというだけで所有者気取り?正義者気取りな天使サマの自分は良くて、悪魔で堕天使の私はダメ?」
「だ、だけど美幸ちゃんは嫌がって……」
「あら、そうでもないんじゃない?だって……」
「きゃあっ?!」
 そう言って、十六夜さんは突然に後ろからわたしの腕を掴んで引き寄せたかと思うと、尻尾を挿入したまま机の上へ腰掛けた膝の上に乗せられ、夢叶の目の前で両股を大きく広げられてしまう。
「……ほら、美幸ちゃんのもう一つのお口がこんなに涎を垂らしているのが分かるかしら?これは、美幸ちゃん自身が私に恥ずかしいトコロを弄り回されて分泌したものよ?」
 そして、後ろから伸ばした指を使って夢叶の眼前で丸見えになったわたしの秘所を掻き回しつつ、そこから身体が勝手に反応して分泌し続ける愛液を見せ付ける十六夜さん。
「や、やめて、言わないで下さい……っ」
 ただでさえ、夢叶の顔を直視出来ない格好なのに。
「ふふ、美幸ちゃんも目の前にいる大天使様が献身的に慈善活動を続けている間、私にどんなイヤらしいコトをされてこんなになってしまったのか、説明してあげたら?」
 しかし、十六夜さんの方はわたしの懇願なんて全く構わず、入ったままの尻尾を強く突き上げながら促してくる。
「あう……っ?!」
「み、美幸ちゃん……っ」
「ねっとりと舌をねじ込まれたキスをされて、下着を脱がされて四つん這いにされて……この尻尾でお尻を犯される前は恥ずかしい入り口をたっぷりと舐られていたわよね?初めての経験だったみたいだけど、とっても気持ち良さそうにしていたわよ。……でしょう?」
 その後、色んな感情が入り混じった複雑な表情で立ち尽くす夢叶に、ワザと噛み締める様なゆっくりとした口調で言葉を続けながら、今度は抽迭を続けたまま胸の先を指で転がしてくる十六夜さん。
「ふぁぁっ?!だ、ダメ……っ、一緒にイジられたら……っ」
「またイキそう?……なら、今度は美幸ちゃんが私の尻尾でお尻を穿り返されながら絶頂を迎える艶やかな瞬間を、そこの大天使さんにも見せてあげましょうか?」
「く……っ」
「や、やめてっ!やめなさい……!」
 それを見て、夢叶も止めようはしてくれるものの、語気はどこか弱々しくて……。
「あなたが勝手に言ったところで、美幸ちゃんが本当に止めて欲しいと思っているかどうかは分からないでしょ?既にもう二回はイかせちゃったんだしね。うふふふふ……」
「う、うう……っ、夢叶ぁ……っ」
「く……っ!一体、どういうつもりなんですか?!美幸ちゃんが、本来は天界も魔界とも関わりの無い普通の人間だってコトは……」
「関わり?あるじゃない。あの大天使ハニエルが見初めた相手なのだから」
「…………っ!」
 やがて、それがトドメの一言となってしまったらしく、遂に泣きそうな顔を浮かべながら俯いてしまう夢叶。
(夢叶……)
 もしかして、自分の所為だって思い始めてる……?
「ふふ、少しばかり意地悪が過ぎたかしらね。……けれどそれは紛れも無い事実で、私はその“信じ難き現実”をまずは見極めるのが役目なの。つまり、あなたの本音ね」
 それから、言い争いに負けて撃沈してしまった夢叶へ向けて、わたしへの愛撫の手を止めないまま新たに告げてくる十六夜さん。
「本音、ですって……?」
「ええ。言い換えれば、あなたはどこまでこの美幸ちゃんに対して本気なのか……ってね」
「…………っ?!」
 そ、そん……。
「そんなコトの為に、美幸ちゃんにそこまでしたのですかッッ?!」
 そこで、ようやく分かった自分がこんな目に遭わされている理不尽な理由にわたしも怒りが込み上げてきたものの、その前に夢叶が激しい憎悪に歪めた顔を上げると、教室内の空気が一瞬で凍り付いてしまう。
(夢叶……っ?!)
「ならば、今すぐ教えて差し上げます。まずは、その汚らわしい手を美幸ちゃんから離しなさい!!」
 もう完全にキレてしまったのか、夢叶が本気の敵意を込めて叫んだのと同時に、白銀に輝く翼から目がくらんでしまいそうな程に眩い金色の閃光が渦を巻きながらほとばしってゆく。
「ちょ……っ?!」
「……へぇ……」
 それを見て、わたしの第六感が明らかにヤバい予感を感じ取ったものの、しかし夢叶の生み出した光は室内を越えて発散されることなく、やがてガラスが割れる様な音が響いた後で、再び何事も無かったみたいに静寂が戻ってしまった。
「……え……?」
「…………」
 一体、何が……。
「お生憎だけど、この室内には事前に天使の翼(エンジェル・ウィング)の魔力を相殺する結界を張っておいたのよ。今のであっさりと壊れてしまったけど、まぁ一度止められれば十分ね」
 その後、何が起こったのか分からずに呆然とする中で、静かに種明かしをしてくる十六夜さん。
「…………」
「まさか本気で神罰のチカラを解放してくるとは思わなかったけど、だけどもう一度使えば、今度はこの校舎ごと跡形も無く吹き飛んでしまうわよ?無関係の人間を大量に巻き込んでね」
「え、ええ……っ?!」
「…………っ」
「まったく、余裕の無いお嬢様はこれだから。……まぁいいわ。大体知りたい事は分かったから、今日はこの位にしておきますか」
「うあっ!」
 それから、黙り込む夢叶に十六夜さんは一方的に締めくくってしまうと、わたしの体内に打ち込まれていた楔が一気に引き抜かれた。
「……ご協力感謝するわ、美幸ちゃん?大丈夫、傷は付けていないから」
 そして、心無い感謝の言葉と共にわたしを立たせると、十六夜さんの背中から翼や尻尾が再び姿を消してゆく。
(傷は付けていない、ね……)
「んじゃ、私はこれで。……ハニエル、生真面目で純粋なのはいいけど、あまり向こう見ずだと自分の身を滅ぼすわよ?」
「……それも、あなたが挑発しなければいいだけの話です」
「まぁ確かにそうなんだけど、私も仕事でね。ところで、私が何故ここまで執拗に確認するのか、心当たりはあるかしら?」
「ありませんし、興味も無いです。……ただ、いい加減にしないと私の方も事故に見せかけて色々考えてしまいますよ?」
「やれやれ、怖いわね……。そんなにイライラしなくても今日はもう消えてあげるから」
 その後、剣呑な目で物騒なコトを口走る夢叶に退散を告げた十六夜さんがわたしの肩を小さく叩くと、震えていた膝から力が戻ってくる。
 ……どうやら、ようやく堕天使の呪縛から解放されたらしい。
「では、ごきげんよう美幸ちゃん。鍵は私が返しておくから、誰かが来る前にちゃんと着といた方がいいわよ?」
 その後、ようやく自由の身になって疲れも一気に出てきたわたしへ十六夜さんは一方的にそう告げると、内側から鍵を開けて立ち去っていってしまった。
(鬼……)
 こっちは散々弄ばれて、しばらく動く気力が萎えてるくらいなのに。
「はぁ……っ」
 ……というワケで、着衣を整えるのですら億劫になっていたわたしは、大きな溜息を吐いて冷たい教室の床へとへたり込んでしまう。
 できれば、このまま横たわりたいくらいだけど……。
「美幸ちゃん……」
「来ないで、夢叶っ!」
 しかし、それでも慌てて駆け寄ろうとする夢叶の方へ手を伸ばして鋭く制するわたし。
 ……今は、夢叶に触れられたくない。
「え……」
「わたしは大丈夫……すぐに服を着るから、外で誰も入って来ないように見張っていて」
「は、はい……」

「……ふう……」
 それから、夢叶がトボトボと教室から出るのを見送った後で、わたしは再び溜め息を一つ。
(う〜〜っ、何だろうこの気持ち……)
 わたしは一方的な被害者のハズなのに、何だか妙に後ろめたいというか。
 本当は夢叶の胸で泣きながら慰められたいのに、一方で謝りたい気持ちも芽生えていて、正直なんて顔して接すればいいのかも分からない状態だった。
「…………」
 まぁ、今は疲れきっているから余計にナーバスになってるのかもしれないけど……。
(でもやっぱり、わたしの方も夢叶と同じく……)
 ……ただ、それを気付かせられたきっかけとしては、あんまりといえばあんまりである。

                    *

「おまたせ〜……って、あにしてんのよ?」
 やがて一息ついた後で着衣を正し、ついでに軽く掃除をしつつ幾分の心の整理もついてきた頃にようやく教室の外へ出たわたしの目に入ったのは、待ちぼうけの天使様が入り口のすぐ隣でしゃがみ込んでいる姿だった。
「……何だか、そういう気分なんです」
 入り口の前で門番をしながら待ってくれていたのは分かっていたものの、その廊下に体育座りでちょこんと佇んでいる、こっちは想定外だった滑稽な姿を見てツッコミを入れるわたしに、ぼそりと小さく呟き返してくる夢叶。
「もしかして、いじけてる?」
「当たり前じゃないですかぁ……。今日ばかりは、笑っていろと言われたって無理ですよ」
「そっか……」
 思えば、いつもわたしの前では笑みを絶やしていなかっただけに、本気で落ち込んだ顔を見せるのはこれが初めてだった。
 ……ただ、本来は立場が逆のハズなんだけど。
「正直、ショックですよ……。恋愛相談室をやっているスキを狙われたなんて」
「確かに、わたしも色々と裏目になっちゃった感じだしねー……」
 まぁ、自業自得の部分もあるので、ちょっと心苦しいけど。
「勿論、せっかくの美幸ちゃんの好意が最悪の形となってしまったのが一番ですけど、それだけじゃないんです。……実は、ここへ駆けつける為に順番待ちされていた方々をお断りしてしまいました」
「あ、そうなんだ……?」
(夢叶が余計に凹んでる理由はそれ、か……)
 いつもはお昼を食べ損ねたり、遅刻しそうになっても頼ってくる人には分け隔てなく相談に乗り続けていた、責任感と優しさの権化みたいなコだしね。
「……ええ。占いを続けていた中で突然、堕天使の持つ禍々しい魔力が向かいの校舎の辺りから解放されたのを感じて……」
「あー、十六夜さんが悪魔の証明を見せてあげると言って、翼と尻尾を出した時ね」
「そして、同時にその魔力の近くで美幸ちゃんの魂の気配を感じた時、私は居ても立ってもいられなくなりました。実際、思わず窓から飛び出したくなったのを自重したんですが、むしろそうするべきだったのかもしれませんね……」
「……いやまぁ、残念ながらその頃にはもう押し倒されて、さっき言われた様なコトも大体された後だったんだけどさ」
 どの道、あのタイミングだと間に合わなかったというか、おそらく策士っぽい十六夜さんは夢叶を誘う意図も込めて尻尾を出したんだと思う。
 夢叶の善意活動を妨害し、更にわたしがその尻尾で襲われている一部始終を見せつけて、二重にダメージを与えてやろうって感じで。
(……うーん、やっぱやり方が悪魔そのものだわ……)
 そういう意味でも、あの堕天使さんにはしてやられたって感じではあるし、今回の夢叶は完全敗北を喫してしまったというコトにはなる。
「私、天使失格ですねぇ……」
 なるけれど……。
「…………」
「…………」
(ん〜〜〜〜っ……)
「えっと、わたしにはその天使の資質ってのはよく分からないんだけど、でも悔やんでも仕方がない事を抱え込んで、今更そうやっていじけてるってのもどうかと思うけどね?……しかも、一番の被害者であるこのわたしを放置したままでさ」
 それから、しばらく考えた後でわたしは肩を竦めながら言葉を切り出すと、座り込んでいる天使様の隣にどっかりと腰を下ろした。
「美幸ちゃん……」
 だけど、夢叶が責任を感じなければならない要素なんてこれっぽっちも無いし、できるコトならわたしの天使様はヘンタイだろうが常に前向きで居続けて欲しい。
「いくら嘆いたところで、もう済んだことでしょ?大体、わたしの代わりに夢叶が落ち込んでいるお陰で、こっちはすっかりと気分が上書きされちゃったし」
「すみません……」
「だから、謝らないの。……でも、なんかどんどん十六夜さんの行為がエスカレートしてるけど、このまま大切な純潔は守れるのかしらん」
 ……まぁ、辛うじて”証”が無事ってだけで、それ以外は殆ど奪われ済みなのに、今更純潔もへったくれもないと突っ込まれたら元も子もないけど。
「大丈夫だと思いますよ。多分、もうこれ以上のコトはしてこないんじゃないかと」
「って、前に唇を奪われた時もそう言ってたじゃないのよ」
 結果的には、全然大丈夫じゃなかったワケだけど。
「……大丈夫です。もしこれ以上美幸ちゃんに手出しをするなら、その時は今度こそ……」
 しかし、そこでもう一度「大丈夫」を繰り返すと、唇から赤い雫を滴らせる程に強く唇を噛みしめる夢叶。
「夢叶……」
 そういえばさっき夢叶がキレた時、下手したら大惨事になっていたんだっけ?
 ……つまり、アレが十六夜さんの言ってたリスクってやつですか。
「だから、だから……お願いです。私のコトを遠ざけたりしないで……どうか、嫌いにならないでください……っ!」
 そして、夢叶はそれからわたしの腕にしがみ付きつつ、半泣きで懇願してきた。
「…………!」
 ああ、そっか。夢叶の一番の本音は……。
「…………」
 まぁ、これで二度と十六夜さんがわたしに手出しをしてこないかに関しては、大丈夫と言われても100%信じるのは無理である。
 ……というか、わたしが夢叶と付き合い続ける限りは自分との因縁も避けられないというのは、十六夜さん自身が言っていたし。
「…………」
 だけど、夢叶と敵対関係にある十六夜さんの目的がわたし達の縁を断ち切ろうとするコトなのかもしれないと思うと、それもまた気にくわない話だった。
(まったく、もう……)
 ……なにより、守護天使云々の話は別としても、既に夢叶の存在はわたしの心の中で居場所を作ってしまっているのだから。
「……というかさ、逆に今更身を引くといわれても、わたしの方が困るわよ」
 そこで、わたしはそれからしばらくの間を置いた後で、溜息混じりにそう告げてやった。
「え……?」
「良く分からないけど、わたしはもう十六夜さんに目を付けられているみたいだし、あんたと別れたからって、その後はそっとしておいてくれる保証なんてないのに。……そもそも、夢叶はあの人の目的を知ってるの?」
「……それが全てじゃないでしょうが、その一つとして私の妨害は間違いなく含まれていると思います」
「夢叶にわたしと契約させまいと?」
「分かりません……ただ、私が美幸ちゃんの守護天使になったとして、魔界にとっては何の不都合も無いはずなんですけど」
「んじゃ、ただ単に天使が敵で嫌いだから、イヤがらせをしてるとか?」
「堕天使といえど彼女も正規エージェントですし、今時そんな無駄な争いの火種を作ろうとはしないと思うんですが……完全に否定出来ないのが辛いところです……」
 そして、「特にあの人に関しては……」と付け加えてくる夢叶。
 どうやら、夢叶と十六夜さんの間も何やらワケアリっぽいみたいだけど……。
「…………」
「……やれやれ。んじゃ、やっぱりわたしには護ってくれる人が必要になるのかな……」
 それも逞しい腕を持つ人とかじゃなくて、悪魔とも対抗出来る異能の持ち主が。
「心配いりません。……美幸ちゃんのことは、私が必ず護ります」
「それは、守護天使として?」
「……っ、ぐすっ、ふええええ……っ!」
 すると、そんな切り返しを受けて、まるで意地悪な指摘でも受けてしまったかのように、夢叶はわたしの胸に顔を埋めて泣きじゃくり始めてしまった。
「ゆ、夢叶……っ?!」
(……な、何かヘンなコト言っちゃった、わたし?)
 きっとこれみよがしに、「そういうワケですので、さぁ今すぐにでも契約しましょう♪」と迫ってくるかと思ってたし、わたし自身もこの際はもう仕方が無いかと観念もしかけていたのに、夢叶からあまりにも予想外の反応を見せられて、こちらの方がどうしたらいいのか分からずに呆然とさせられてしまう。
「ひぐ……っ、うぐ……っ、うわああああんっっ」
「…………」
 でもまぁ、今は何も言わずに泣き止むまで待つしかない、か。
 ……まったく、泣きたいのはこっちだってのに。
「はー……」
 とにもかくにも、わたしは夢叶を受け入れたままもう一度溜息を吐くと、視線を見上げて空が夜の色へ染まってゆく様を眺め続けていた。

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