「う〜....さびっ」
俺はそんな事を独り言の様に呟きながら、容赦なく逆風で吹き付ける真冬の風を正面から突っ切る形で疾走していた。体全体を庇う様な格好で左手の部分のコートを握った右手が震えている。一応2月の末頃とあって寒さのピークは過ぎたとはいえ、凍える様な寒さに何ら変わりはなかった。相対的な感覚としては前よりは幾分マシとは思えるが絶対的には滅茶苦茶寒い。これだけは変わらない普遍の真実......って
『わざわざ普遍の真実とまで形容する事か.....?』
と気を紛らわせるためにそんな事を自問自答(と言うより一人ボケ突っ込み)しているうちにやがて目的地が視界に現れてきた。ゴールが見えたことで少し気分が楽になった俺はそのままスパートをかける。
「ふう。....到着.....っと。」
俺は走って乱れた息を整えながら目的地の学校を見据える。朝と昼は生徒で賑わっているこの校舎も夜はまるで眠っている様に静まり返っていた。ひゅうううと絶え間なく吹いてくる寒風が更に寂しさを増長させる。
ちらと手元の腕時計を見ると時刻は午後9時15分。自分がこの学校の生徒とはいえこの時間に学校の校門をくぐるのは客観的にはあまり日常的な行動では無い。
だが今の俺はこの時間の学校は授業を受けている日中と同じ位馴染みがあった。先ほど学校に置き忘れた名雪から借りたノートの返却を求められた時、躊躇い無く「んじゃちょっと学校に取りに行ってくる」って言ってそのままコートを羽織って家を飛び出したのもその所為だろう。
「ぼーっとしてても仕方がない。行くか。」
吹き付ける風を悠然と受けながら、俺はいつものように何の抵抗もなく校門をくぐり、そしていつもの職員用の昇降口から校舎内に進入する。相変わらずの不用心さに
「というかここがちゃんと閉まっている時の方が皆無なんじゃないか?」
と思わず呆れてしまうが.....最もここが閉まっていたら他に入り込むアテが無いだけに本当に閉まっていても困りものなのだが。寒い中ここまで走って来てむざむざ引き返す羽目になるのは時間の無駄という物理的な損失より精神的ダメージが大きい。
「失礼しまーす....っと。」
既に校舎に入り込んで歩きながら誰にともなく呟く。『そういう台詞は入る前に言え』と自分に突っ込みながらもどのみち最初から意味のない台詞なんで特に気にしないでおく。
夜の校舎は相変わらず静まり返っていた。立ち止まると自分の心臓の鼓動の音すら聞こえてきそうな冷たく澄んだ空気が充満している静寂の空間にカツーンカツーンと俺の靴とリノリウムの床が衝突する音が辺り一面に響き渡る。
「..........」
こうやって夜の校舎を歩いていると毎日の様に夜の学校に登校していたあの時の事が鮮明に思い出されてくる。そう。一月前の俺はここで毎晩の様に川澄 舞という少女と共に見えない魔物と命懸けで闘い続けていた。.....いや、実際命懸けで闘っていたのは舞だ。彼女は俺が彼女とここで出会う遙か前から自分自身と対峙しながら命を懸けて一人孤独な戦いを続けていた。俺はそんな舞にほんの少し手助けをしただけに過ぎない。....最もその微力ながら彼女の力になれた事は今の俺にとって何よりの誇りになっているが。
廊下を歩きながら、そして月明かりに照らされた夜の校舎の風景を眺めながらそんな事を暫く反芻していたが、やがて回想を急に止める。.....なぜならこの事件は永遠に記憶の奥底に封印されるべきものだという事を思い出したから。この舞自身の無垢な罪が生み出したこの忌まわしい出来事は同時に彼女や俺にとって大きなターニングポイントとなったのも確かだが、同時に何時までも引きずって生きていくべき物ではないはずだ。寧ろいっそのこと何事もなかったかの様に記憶の中から消えて無くなった方が.....
「.....あれ?」
漠然とそんな事を考えながら歩いている内にいつの間にか上の階に続く階段が無くなっている事に気が付く。というか目的の2年生の教室の階を通り過ぎて3年生の教室のエリアまで上ってきてしまったらしい。
「.....ま、いいか。」
だからと言ってこの自分の間抜け行動を誰かが見ているわけでもないし、別段時間に追われているわけでもないので(一応名雪が俺の帰りを待ってはいるが)特に気にせずにそのまま方向転換して一つ階段を下りようとした。その時....
「......んっ」
「.....?」
フロアの何処かからふと人の声が聞こえたような気がした。ちなみにその時無意識に身構えを取ってしまったのはまだあの時の癖が直りきっていないからだろう。とりあえず俺はその場に立ち止まって声がしたと思しき方向に神経を集中させる。
「........」
水を打ったように静まり返る辺りの空間。.....やっぱり聞き違いか?これだけ静かだと自分の意識がありもしない幻聴を生んだりするものだし.....
「......あっ....」
......と思ったがどうやらそうでもないらしい。確かにくぐもった様な人の声が聞こえる。さらに良く聞くと、声が小さくてはっきりとした内容までは聞き取れないが会話の様なものも聞こえてくる。
「こんな時間に誰かいるのか......?」
怪訝な感情と同時に首をもたげた激しい好奇心。俺はなるべく足音を立てないようにそーっと声のした教室に近づく。
『.....もう今更何を見ても驚きゃしないだろうし』
そんな事を考えながら教室の前まで行くと扉が半開き状態だった。.....これで誰かがいるのは間違いない。俺はそーっと開いた扉の隙間から中を覗く。
「........!」
俺は思わずその光景に息を飲んだ。
.....教室の中では二人の美しい半裸の女子生徒が、自分達で並べたと思われる机の上に座った状態で重なり合い、そして互いに口づけを交わしていた。
......お互い上半身下着姿で口づけを交わす二人の女子生徒達。そのあまりにも非日常的な光景は満月の月明かりに照らされてどこか神秘的な雰囲気すら漂わせていた。
「.......」
何か見てはいけない物を見た気がして即座にその場を立ち去ろうとしたが、くるっと踵を返した瞬間何となく唇を重ね合っている二人に見覚えがある様な気がしてはたと足を止める。そして確認するためにもう一度月明かりの下で愛し合っている二人の美しい少女達を覗き込んだ。
『.....!!』
その推測が確証に変わった時、俺は思わず「あっ!!」と声を上げそうになった。
「舞....好き.....」
「.....佐祐......理」
『佐祐理さんと.....舞......?』
そう。それは現在俺がこの学校で最も見知った人物、佐祐理さんと.....舞だった。
『どどどどーしてあの二人がこんな所で???』
思わず教室の扉に背を向ける格好で張り付いて混乱する俺。なまじ知っている人間なだけに非日常的な光景に中途半端なリアリティが混ざり合って何とも言えない刺激が俺の心臓を圧迫してくる。
「.....舞、いい.....?」
「.....佐祐理が望むのなら....嫌じゃない....」
舞の返答を聞くとそのまま再び唇を重ね合わせる佐祐理さん。舞も特に嫌がる様子もなく佐祐理さんの唇を素直に受け入れている。
うーむ.....この二人の間に「友情」以上の感情があるのは薄々(というか明らかに)感じてはいたが(特に佐祐理さんは)、まさかこんな所でそれを確証する事になるなんて......
「うん....佐祐理のお願い....叶えてくれるんだよね.....舞」
「.......(こくっ)」
そのまま佐祐理さんは舞の頬から首筋に向かってゆっくりと、そして念入りに口づけをしていく。まるで自分だけのものという印を付けているかの様に。
『でもどうしてわざわざこんな寒い学校の教室で.....?』
二人を見ていてふとそんな疑問が浮かぶが、その答えはすぐに見つかった。佐祐理さんはおそらく来週にも終焉を迎えるこの高校生活最後の思い出作りをしているんだと。自分にとって一番好きな人である舞と、そして舞との思い出が一杯詰まったこの学校で学園生活最後にして最大の思い出を.....
『.........』
.....多少非常識ではあるが確かにこれは一生に残る記念になるかもしれない。宿直の教師にでもバレれば卒業前とはいえ只では済まないという危惧はこの際横に置いておくとして。....ん?異性じゃないからいいのか?....まぁこの際どうでもいいか。
『でもそういう事ならやはりここは俺も二人の親友として最後まで見届けてやるべきだよな.....』
.....と考えてしまった直後俺は自分自身に激しい憤慨を覚える。純粋極まりない彼女たちの友情を傘にして自分のスケベ心を正当化しようとしてしまうとは.....場所が場所でなければその場で自分を殴り飛ばしていたに違いない。
『....行こう.....』
という事でやはり彼女たちの信頼を裏切る様な真似だけは許されないと自分を戒め、向き直って即座にその場を立ち去ることにした。したのだが.....
『う....体が動かない......』
既にこの場と決別して本来の目的地に歩き始めている自分の心とは裏腹に、両足がまるで石化された様に動かなかった。どうやら健全な男子としての本能がこの場に残りたいと駄々をこねているらしい。さて困った.....
「舞の肌....綺麗.....」
「......佐祐理.....あっ....んっ.....」
教室内から聞こえる彼女達の甘い囁きが追い打ちを掛けてさらに体が硬直していく。
『....見つからなきゃ....ちょっと位いいかな.....?』
そして次第に俺の中で熱く滾る健全な青少年としての留まることを知らない好奇心や探求心が道徳心を駆逐していった。後で激しい自己嫌悪に苛まれる事を覚悟しながら、体が動かないんじゃしょうがないと未だ心の奥底で抵抗している罪悪感を無理矢理押さえつける。
『ゴメンな。佐祐理さん、舞....俺は最低な奴だ....でもせめて....二人に邪魔が入らないように.....見張りくらいの役には立ってみせるさ。』
とうとうこの卑しい行為への自己正当化の答えまで見つけた俺は、自虐の念に取り付かれながらもそーっと再び半開きの扉の隙間から月明かりに照らされたステージを覗き込む。
月のスポットライトを浴びた壇上では、今度は佐祐理さんが舞の胸を覆っていたものを取り去り、舞の乳房を自分の目の前に露わにしていた。.....流石同じ女性だけあって手慣れたものである。男ならこうはいかないだろう。
「.......佐祐理、恥ずかしい.....」
「.....舞の胸...とっても可愛い......」
言葉の通り少し顔を赤らめて恥ずかしがる舞に佐祐理さんは耳元でそう囁くと、佐祐理さんの白魚の様な手が舞の膨らみにのびていく。
「.....っ!」
胸の先端を指で優しく摘まれると、舞はぴくっと体を反らす。そのまま容赦なく責め立てる佐祐理さんの指の動きに舞の呼吸が荒くなっていった。
「......佐祐....理.....」
佐祐理さんの愛撫に切ない表情を見せてそれに堪える舞。佐祐理さんはそんな舞の表情を見て更に激しく攻め立てる。
「....舞.....」
今度は左手で胸を揉みしだきながら舌で乳首の周りを丹念に攻め始める。と同時に右手が舞の右胸から段々太股の方に下がっていき、そしてゆっくりと這うようにスカートの中に延びていく。
「.....ぁっ、そこ....は.....」
程なくしてぴくんと舞の体が反応する。
『.........』
.....しかし佐祐理さんに攻められて苦悶の表情をあげている舞もだが、その舞を攻めている佐祐理さんの表情もかなりぐっとくるものがある....かもしれない。相変わらずにこにこしてはいるのだが、今日の佐祐理さんの表情は普段からは想像出来ないほど艶っぽくて....あの佐祐理さんにもあんな表情があったんだなぁと思わずうんうんと納得してしまう。
....もしかしたら今日はある意味俺にとっても記念になるかもしれない。と俺はそんな事をふと思う。俺が佐祐理さんのこんな表情を見ることが出来るのはこれが最初で最後かもしれないから。
「......はぁ....っ ん.....っ」
佐祐理さんの指が舞のスカートの中で執拗に踊り、舞の呼吸が更に荒くなっていく。.....と佐祐理さんの指の動きが実際見えているわけでは無いが、舞の反応を見ていると手に取るように分かる気がする。
そして佐祐理さんはそのまま優しく舞の体を仰向けに倒していき、舞もゆっくりとそれに抵抗することなく佐祐理さんの動作に身を預ける。やがて佐祐理さんが舞に覆い被さるような姿勢になると、舞と唇を重ねながら右手で舞の最後に残っていた一番下の制服のボタンに手を掛ける。上下一体型の制服な為、今まではその一番下のボタンによってスカートの部分がまだ舞の体を覆っていたのだが、佐祐理さんがそれを外すことによって完全に舞の体から制服が外れていく。
そして下着一枚だけの状態になって佐祐理さんの目の前に晒し出される舞の肢体。電灯を付けていない薄暗い教室に月明かりが差し込んで舞の肢体を浮かび上がらせている。
「....佐祐理.....」
やはりかなり恥ずかしいのか、舞は訴えかけるような目で佐祐理さんを見ながら両手で自分の両胸を隠すような格好で縮こまっている。多分「恥ずかしいからあまり見つめないで欲しい」とか「もうこれ以上は許して....」とかいう意志を示しているつもりなのだろうが....この場合は逆効果だろう。
「.....大丈夫。......最後の一枚、取るね。」
案の定、佐祐理さんそんな舞の恥じらいに構うことなく、舞にそう囁くと舞の太股に手を滑らせて最後の一枚を足下にスライドさせていく。
「......! だめ佐祐.....」
そこで一瞬舞が足を動かして抵抗しようとするがすぐに止める。多分抵抗するには少し遅すぎるという事を一瞬で悟ったからだろう。後はそのまま佐祐理さんの為すがままに任せる舞。ただ顔を赤らめながら視線を佐祐理さんと目を合わせないように逸らしている所がまた可愛いと思った。....佐祐理さんも多分今俺と同じ事を考えているだろう。
......そして最後の一枚が舞の体から離れ、とうとう佐祐理さんの目の前で生まれたままの格好になる(一応まだ靴下が残っているのはこの際捨て置くとして)。
「........」
身を包む物が全て取り払われて更に身を堅くさせる舞。佐祐理さんはじっと見つめながら、
「綺麗だよ、舞.....」
と囁くと再び佐祐理さんの手が舞の胸に伸びていこうとしたが、そこで舞が「......待って」と制止をかける。そしてじっと佐祐理さんの顔を見つめながら、
「.....佐祐理も、脱いで。」
と言うと、佐祐理さんは、
「そっか....舞だけだと不公平だよね......」
そう言えばまだ自分は脱いでなかったという事を思い出したように呟くと、
「ちょっと待っててね。佐祐理も脱ぐから。」
と佐祐理さんも自分の制服のボタンに手をかける。
『.....ごくっ......』
そしてそれを目の当たりにして思わず生唾を飲み込んでしまう俺。一瞬だけ強烈に後ろめたさを感じて思わず視線を逸らすが、またそのまま無意識的に視線がそーっと教室の中へ向いてしまう。先ほどからうるさい位高鳴っている俺の心臓の鼓動が更に強くなる。というか痛い。
すべての制服のボタンが外れて佐祐理さんの体を離れてはらりとその場へ落ちる佐祐理さんの制服。そしてそのまま下着に手をかけようとした所で一瞬躊躇して、
「あははは。やっぱ....ちょっと恥ずかしいね。」
と顔を赤らめた。
「.....だから私もそう言ったのに。」
少し口を尖らせてそう言う舞の台詞に佐祐理さんはもう一度「あははは」と照れ隠しの苦笑いをすると再び自分の下着に手を伸ばす。
.....そして舞の目の前でゆっくりとそれを取っていく。
『..........』
それを後ろから見据えながら俺は言葉を失った(元々声を上げたらヤバいのだが)。....月明かりで美しく照らされた佐祐理さんの肢体はとてもこの世の物とは思えない美しさと艶やかさを秘めていたから。そんな佐祐理さんを目の前に俺はただ呆然とした様な格好で立ちつくしながら佐祐理さんを見ているだけだった。
『.....もうこのまま死んでもいいかも......』
.....その時の俺はそんな阿呆な考えすらうっすらと浮かんでいた。.....もし俺が漫画のキャラクターなら俺は滝の様な感涙の涙を流して辺り一帯を洪水状態にさせていたかもしれない。......多分。
やがて佐祐理さんも舞(と覗いている俺)の眼前で一糸纏わぬ姿になる。さっきまで半ば強引に舞を脱がせていた佐祐理さんも流石に舞と同じ姿になるとやはり舞と同じく恥ずかしさが身に染みるらしい。しかもよく考えたらここは今誰もいないとは言え自分達が普段通っている学校の教室という、今二人がしている行為をする為の場所としては特殊な部類に入る場所な訳で、ここら辺の要因が更に羞恥心を増幅させているはずだ。.....勿論本人達に自覚があればの話ではあるが。
「......綺麗。佐祐理。」
佐祐理さんをじっと見つめながらさっき佐祐理さんが自分に言ったのと同じ台詞で返す舞。
「.....舞の意地悪.....」
舞の台詞に一瞬拗ねたような表情を見せるが、すぐに嬉しそうな表情に変わり、俺の頭に『?』が浮かぶ。
「.....あはは。これで、同じだね、舞.....」
そう言って再び舞に覆い被さる様な体勢をとる佐祐理さん。....ああそうか。佐祐理さんは今自分と舞が同じ感覚を共有しているのが嬉しいんだ。.....感覚の共有か....同じ女の子だから.....出来るんだろうな。同じ羞恥心でも男性と女性じゃ少し感覚が違うのかもしれないし。
そして、そのまま佐祐理さんは自分の顔を舞の首筋にすり寄せ、左手を乳房に、右手を舞の秘所にそっと宛っていく。
「......あっ いや......」
佐祐理さんの指が舞の部分に触れた瞬間に舞の体が電気が走ったように仰け反る。
「....感じやすいんだね。もうこんなに.....」
舞の耳元で囁く佐祐理さん。佐祐理さんの右指は絶えず舞を攻めていた。
「.....いや....言わないで.....」
「耳まで赤くして可愛い.....」
恥ずかしがる舞にそう囁くと佐祐理さんは舞の耳たぶを軽く噛み、そしてそれと同時に舞の秘所を攻めていた右指をわざと音を立てるように弄ぶ。
「ほら、舞のココから.....聞こえる?」
そう言って真っ赤になって恥ずかしがっている舞に追い打ちをかける。先ほどから舞の秘所からは佐祐理さんの指によって淫猥な音が静寂の教室内に響いていた。.....佐祐理さんが聞くまでもなく舞にもはっきりと聞こえているだろう。
「........」
舞は佐祐理さんの問いかけには答えずに、無言のままただひたすら佐祐理さんと目を逸らそうとしている。そこへ佐祐理さんはあろう事か今まで舞を愛撫していた右手を舞の前に差し出して、
「ね、分かる?これ....舞から」
と舞の目の前に自分の右手に付着したモノを見せつける。佐祐理さんの右手には大量の舞の透明の分泌物が糸を引きながらキラキラ光っていた。そしてそのまま佐祐理さんは人差し指で必死で目を閉じてそれを見ないようにしている舞の頬に舞の雫を軽く擦り付ける。
「.....ほら、ね?」
『...........』
.....やっぱ今日の佐祐理さんちょっと凄い....かも......気付いたら俺はぽかーんと間抜けに口を半開き状態でその光景を見つめていた。
「......佐祐理....意地悪しないで」
自分の羞恥心を佐祐理さんに徹底的に攻めたてられて泣きそうな顔で哀願する舞。だが俺はすぐにあれも逆効果に終わるな....と直感する。少なくとも俺なら.....いや、それはどうでもいいか。
「.....ゴメンね。でも......佐祐理そんな表情の舞は始めて見るから.....今日はもっと見ていたいの。」
予想通り佐祐理さんはそれを聞き入れることもなくそう返すと、自分の顔を舞の肌に密着させたままゆっくりと下腹部の方へ下がっていく。
「.........」
舞は少し不安気な表情でそれを何も言わずにじっと受け止めていたが、やがて佐祐理さんの目的の場所に到達した瞬間に表情が苦悶の表情に変化した。
「......っ! あ.....!」
「.....あは。舞の味がする.......」
ぴちゃぴちゃといういう音を響かせて味わうように舌で攻める佐祐理さん。.....昔読んだ怪しい本とかだとこういうのってそういう趣味の人とかでも少なからず躊躇するって聞いたけど、佐祐理さんからはそういった雰囲気はまったく感じない。やっぱ舞の事が本当に好きだから....だろうな。
「や....はぁ.....んんっ!」
一心不乱に舞の秘所を舌で愛撫する佐祐理さんの頭を両手で押さえながら必死で悶える舞。......というかあの舞がこんなに乱れるものなんだと少し感慨が生じたりしている。佐祐理さんも今日のこんな舞は初めて見るのだろうが.....俺はそんな事を考えながら、同時に色々な意味での「舞のはじめて」を次々と奪っていく佐祐理さんに軽い嫉妬を覚えていた。
「佐祐理....佐祐理......っ」
うわごとのようにそう唱えながら佐祐理さんの舌を受けて入れている舞。そして、
「.....っ あっ....!」
突如びくんと一度舞の体が弾けた様に反り返り、舞の顔が恍惚に変わっていく。
「.....舞.....」
それを見て佐祐理さんは一端舌での愛撫を止める。見てというか寧ろ舞が達したのを感じたという方が正解だろう。佐祐理さんの口から少し出された舌から舞の雫が糸を引きながらこぼれ落ちる。.....どうやら口の周りも舞のものですっかりびしょびしょになっているみたいだ。
「.....はぁ....はぁ....はぁ.....」
恍惚と疲労が入り交じってぐったりとした表情でそのまま背中を机に預ける舞。その表情があまりに艶っぽくて、いきなり倒壊しかけた俺の理性をなんとか宥めながら、この時の舞の表情は死んでも俺の脳裏から離れないだろうなぁと思った。
「.....舞....ね、気持ちよかった?」
「.......」
佐祐理さんの囁きに少し躊躇う仕草を見せながらも、舞が佐祐理さんとの視線をずらしながら小さくこくっと頷くと佐祐里さんはそのまま舞への愛おしさで一杯になった自分の心のままに再び舞と唇を重ねる。しかも今までのフレンチキスとは違ってお互いの舌を絡め合わせたりしてかなり濃厚なキスだった。
「.....ね、もう一度.....してあげようか?」
互いの唇が離れた開口一番、佐祐理さんがそう促すと舞は横目で微かな声で、
「.....今度は私もさせて....」
と答えた。それは舞自身が佐祐理さんの少々強引なまでの今までの愛情的行為を全て受け入れて、そしてその上でまだ続けたいという意思表示だった。
「うん....舞.....今度は一緒に......」
そんな舞の言葉に佐祐理さんは嬉しそうに答えると舞に跨る様な格好になる。それによって佐祐理さんの秘所もすべて舞の目の前に晒された状態になって舞のさっきの気分を悟ったのか、
「あはは...やっぱり自分も受け身に立つと恥ずかしいね。」
と照れた笑いをこぼす。
「.....だから私もそう言ったのに。」
そして舞が返す。
「ねぇ、さっきも同じ様なやりとりしなかった?」
.....確かに。制服を脱いだ時とまったく同じパターンだ。
「.....それだけ佐祐理が進歩が無いって事。」
その問いかけにさらりと言いのけた舞の返答に佐祐理さんが「舞ひどーい、そんな事ないよおっ」と口を尖らせて反論するが俺も思わず舞に同意してしまう。
....でも同時に凄く微笑ましい場面だった。こんな時でさえもこの二人はいつもの呼吸で接していられる。二人のつきあいの長さが為せるものなのかもしれないけど....なんだか妙に羨ましかった。
「.....今度は私の番だから。」
そう呟くと舞は先手必勝とばかりに佐祐理さんの部分に顔を埋める。
「あっ!.....舞......っ」
舞に先手を取られて舞の舌の刺激に表情を歪ませる佐祐理さん。戸惑いと喜びが混ざり合った様な複雑な表情だった。
「ち、ちょっと待って...舞....やぁっ....ん.....これじゃ.....はぁ.....んんあっ....だめ...」
多分佐祐理さんは今のままじゃ刺激が強すぎて舞にしてあげる所じゃないから舞の動きを緩めて....って訴えたいのだろうが舞は容赦なかった。今までのお返しとばかりに果敢に佐祐理さんを攻め立てる。
「ほら、佐祐理も.....してくれるんでしょ?」
自分でそれどころではない状態にしておいて意地悪く促す舞。
「.....やっぱり意地悪.....」
と少し困った表情で拗ねる佐祐理さんに
「.....佐祐理ほどじゃ無い。」
と舞は間伐入れずに返す。
「もう。.....だったらもう佐祐理も手加減しないから。」
そう言うと佐祐理さんも舞を激しく攻め立て始める。
「ん...佐祐....理....っ」
「ほら、舞.....休んじゃダメだよ....」
.....それはまさに漫画や小説で見た幻想の世界が今この目の前に....って感じだった。しかもそれが自分の良く知っている人同士なものだから余計気持ちがやりきれなくなるほど昂ってくる。.....それと先ほどから微かにだが確かに嫉妬の感情も持っていた。それは舞へなのか、佐祐理さんへなのか、それとも二人に対してなのかははっきりしないが。
そんな中、お互いが攻め合っている途中でふと佐祐理さんがぽつりと呟く。
「......不思議だよね。本当は今教室.....とても寒いはずなのに何故か体が凄く熱い........」
.....見ている俺も滅茶苦茶熱いぞ。というか実は今俺達がいるのは真冬の夜の校内という事をすっかり忘れさせてくれていた。はっきり言って人間ホッカイロ状態だ。
「ん....っ 私は....慣れているから平気.....」
「あ....んっ.....やっぱり舞は凄いよね.... あ...っ そこ.....っ」
.....何か会話の流れが明後日の方向に向いている様な気がするが、あの二人にはこれが普通である。
『.....やっぱり二人共どんな時でもマイペースだよな......』
と俺は少し呆れながらも、まるで常に溶けあっている様に息が合っているこの二人の姿(というか痴態)を羨望の眼差しで見据えていた。
それからも二人は甘い喘ぎを辺りに響かせ、そして時折いつもの呼吸を見せながら......真冬の星空に輝く満月の見守る中で存分に求め合っていった。
「ん.....あ.....っ....舞.....」
「佐祐理.....っ」
その月明かりの下で交わり合う美しい少女達の姿はとても官能的で、幻想的で、そして神秘的で....どこか微笑ましかった。
「......舞....佐祐理....もう..... お願い.....一緒に......っ」
「佐祐理.....ん......佐祐理......!」
......やがて同時に果てる二人。そしてその後に佐祐理さんは体を起こして、
「.....ありがとね....舞......」
と舞への感謝と慈しみを込めて彼女にそう囁くと、最後にもう一度だけ月に映し出された二人の影が一つに重なった。
その後、影が再び二つに分かれてお互い着衣を始めたのを見て俺はようやく我に返り、早々にその場を去ることにした。
『.....う....やっぱ罪悪感が......』
今になって湧いてきた激しい罪悪感を胸に抱きしめ、最後まで覗いていたのは失敗だったかなと少し後悔しながら足早にフロアを下りる。
そのまま本来の目的を忘れて校舎を出かけたが、危ないところで思い出して何とか本来の目的を果たして家路に着く。体が火照っていたのか行きの時より寒くなく、寧ろ吹き抜ける寒風が心地良い様な感覚にとらわれていた。
「おかえり.....遅かったね。お風呂沸いているよ?」
「ちょっと色々あってな、ほら。」
家の玄関のドアを開くと、玄関前で半纏姿で待っていた名雪にまずノートを手渡し、その後俺は靴を脱ぎながら背中で答える。
「また魔物でも出たの?」
「......いや、どっちかというと女神様かもな。」
「???」
心配そうな表情の名雪にいつもの冗談を飛ばすと俺はそのまま階段を上って自分の部屋に戻る。
『.........』
その後俺はベッドの上にあぐらをかいて今宵の出来事を反芻しはじめる。.....あまりにも非日常的な出来事に、今考えると夢か幻じゃなかったかとすら思えてくる。.....しかしあれは紛れもなく現実だろう。俺の脳裏に焼き付いたあの光景がそれを物語っている。そして、あの仲睦まじい二人の姿を覗いていて俺の頭に浮かんできて、次第に無視できなくなるほど大きくなっていた、
『....もしかして俺、あの二人にとって邪魔なのかなぁ.....』
という疑問の答えを漠然と考えるが、結局それは愚問だと払拭する。俺が本当にただのお邪魔虫なら俺自身とっくに行き場が無くなって二人の前から姿を消しているはずだ。要するに佐祐理さんにとって俺は親友で、舞はそれ以上の存在.....どっちがより好きかというより端から同一の立場に立っていないのだ。舞もさっきを見ている限り佐祐理さんと同じ気持ちだろう。
......だったらそれでもいいじゃないか。三角関係で揉めることもないし、あのまま二人の関係がさらに進んでもあの二人の俺への友情は変わりはしないはずだから。俺達はずっと良い友達でいられる.....はずだ。
『.........』
と自分に言い聞かせてもやっぱり何となく心の奥で燻るものが消えなかったりするのも確かだが。
「....俺も」
頭に焼き付いた今夜の二人の姿を思い浮かべながら、
「.....俺もいつか一緒にまぜてもらえる日がくるかなぁ.....」
やがて俺の頭に浮かんで来る淫らな妄想.....
ばきっ!!
その瞬間俺は自分自身を思いっきり殴り飛ばしていた。
そして、その反動でベッドから転げ落ちてそのまま転がって行き、ばんっという大きな衝撃音と共にクローゼットに激突する。.....我ながら大した馬鹿力だ。というか先ほどから蓄積されてきた罪悪感と、それに伴う自分自身への憤りが思わぬパワーを引き出したのかもしれない。.....何となく痛みが心地良いのもその所為だろう。
「凄い音したけど.....大丈夫?」
そこへ名雪がドアを開けて駆け込んでくる。
「.....心配するな。不甲斐ない自分自身に喝を入れたただけだ。」
「そ、そう。.....よく分からないけどあまり自分を責めないでね。近所迷惑だし。」
「.....ああ。悪いな。心配かけて」
天地逆の逆さま状態でクローゼットに張り付いて腕組みしている俺を呆気にとられた表情で見ながらそう言うと、名雪は再び自分部屋に戻っていった。
『......お幸せに....佐祐理さん、舞.....』
.....まだ色々燻るものはあるだろうが、とりあえずそう望まずにはいられない俺だった。
******そして時間は少し戻って******
「......お月様が綺麗だね......」
あれから着衣を済ませた後、二人で座り込んで窓の外の大きな月を眺めていた。今日は満月。.....真冬の綺麗な夜空に一際大きく映っていた。満月のお月様の見守る中で舞と求め合う.....それがわたしが望んだ高校生活最後の想い出作り。
「.........」
舞は月明かりを浴びながらいつものような無表情でわたしの隣で無表情に月を眺めている。一見どうでも良さそうに見えるけど本当はわたしと同じく深い感慨を持って眺めているに違いない。これは推測じゃなくて確証....わたしだけが読みとる事が出来る舞の心の中.....
わたしは舞にもたれかかると、肩越しに舞の体温を感じながら一人で反芻していた。この想い、いつからだったか.....と。舞への気持ちが「大切な親友」から不思議な何かに変わっていったあの日.....
(.....許さないから)
(佐祐理を悲しませたら絶対に許さないから!)
.....九瀬さんの前でわたしの為に本気で怒ってくれたあの時の舞を見た時、わたしの心で何かが弾けた様な感覚か芽生えた。.....多分それは今まで心の中に隠れていたわたしの本当の気持ち。その存在は認識しててもそれが何であるか気が付かなかったほんの小さな心のかけら。多分、これは舞と初めて出逢った日にわたしの心に生まれたんだと思う。
.....でもようやく気付いた。わたしは舞が好き。それは「友情」とは少し違う感覚.....心の中から舞が愛しいという感覚が止めどなく溢れて押さえられなくなって....そして片時も側を離れたくなくなるそんな気持ち。
....もしもその感情を言葉で表現するとしたらこの言葉が最もそれに近いものになると思う。
「愛してる」....と。
「....佐祐理、寒くない?.....」
そう言って舞の手が寄りかかっているわたしの肩を抱きしめる。そうすることで今まで舞の肩に寄りかかっていた私の体が舞の胸に体を預ける形になった。
「ううん。あたたかい.....」
わたしはそのまま舞にもたれかかったままで小さく首を横に振る。そしてわたしの髪に密着していた舞の頬に髪が往復したので舞は少しくすぐったそうな顔を見せた。わたしはその舞の表情を見て更に幸せな気分になる。ずっとずっとこうしていたい.....時がこのまま止まってしまえばいいのに.....
「あたたかいよ....舞.....」
....だからわたしは最後に舞に迷惑になるのを承知で我が儘を言った。誰もいない中庭に呼び出して、「舞と共に通ったこの高校生活が終わる前に舞と最後の想い出を作りたい」って。舞と出逢い、そして舞と共に通ったこの学校で。突然の申し出にも驚いた様子もなく、舞は何も言わずに了承してくれた。
そして、舞が頷いた瞬間、わたしは不意に背伸びして、そして舞の唇を奪った。.....これがわたしと舞のファースト・キス。舞は少し驚いた顔をしたが、すぐに普段の顔に戻り、そして少し微笑みながら(実際には微笑んでいないのだろうけどわたしにはそう見えた)、こう言ってくれた。
「....じゃあ約束通り、今日の夜に教室で待っているから......」
「........」
相変わらず舞は何も言わずにただ片手でわたしを抱きしめたままこちらを見つめている。しかし程なくしてわたしは舞の左手に更に引き寄せられ、そして開いていた右手がわたしの背中に回る。
.....つまり、わたしは完全に舞に抱きしめられた状態になった。
「.....舞.....」
「.....この方が暖かいだろうから.....」
「.....うん.....」
そのまま舞の抱擁に胸に体を預けたままわたしも両腕を舞の背中に回して抱きしめる。舞....わたしの....まい.....
......こうやってわたしの舞に対する想いが変わっていくうちに、わたしが初めて舞に出逢ったときに心に決めた「舞の良さをもっと他のみんなに分かってもらおう」という気持ちが段々と揺らいでゆくのを感じた。「わたしだけでもいいじゃないか」、「わたしと....もう一人、舞の優しさに気付いたあの人がいるだけできっと舞は幸せになれる.....」と。これから何があってもわたしだけは未来永劫、この身がこの世から無くなるまできっと舞の側にいるのだから.....
......でも多分これは独占欲という醜い感情。わたしは自分の心の醜さをそれらしい欺瞞で正当化して舞を自分の中に束縛してるだけではないのか.....そんな事を考えた時、自分がとても嫌になってくる。でも....それでもわたしは舞が好き。ずっと....ずっとこうして側にいていたい.....
やがてわたしの心の中で膨らんだ激情が弾けて涙になって溢れてくる。このままだと舞にいらない心配かけてしまうと思いながらも止まらなかった。
「.....佐祐....理?」
案の定、そんなわたしを見た舞の表情が戸惑いと心配の表情に変わる。
「.........」
わたしは何も言えずにそのままただ涙を流し続ける。早く泣くのを止めなきゃ舞を困らせるだけなのに.....
「.........」
そして舞はわたしに何か言いかけたが、そのまま黙ってわたしの頭を優しく撫で始めた。
「.....舞.....」
流れ落ちる涙をそのままにわたしは顔を上げて舞を見る。.....その時の舞は今までわたしが見た舞の中で一番優しい表情だった。
そしてそのまま舞はわたしにゆっくりと、そしてまるで母親の様な暖かさと共にわたしにこう言った。
「.....悲しいときはいつでも泣いていいから。....私はその度にこうやって泣きやむまで佐祐理の側にいるから。」
......と。
「舞.....! ぐすっ」
舞のこの言葉と共にとうとうわたしの涙腺が一気に弾けた。わたしは先ほどよりもさらに溢れ出てくる大粒の涙を止めどなく流しながら舞の胸に顔を埋める。
「ごめんね....舞....ごめんね.....佐祐理.....弱いから.....わたし....舞を守ってあげたいのに....それなのに.....」
もう自分でも何を言っているのかよく分からないが言葉が縺れてうまく表現できない。ただ小さな子供のようにわあわあと感情に任せて泣き叫んでいるだけ。.....今の姿をもう一人のわたしが端から見たらその目にはどう映るだろうか?
しかしそれでも舞はただじっとわたしの側で抱きしめてくれて....わたしの頭を優しく撫でてくれている。
「.....佐祐理は弱くなんかない......多分私よりもずっと強いと思う。」
「.....そう、かな?」
舞のその言葉を聞いて暫く後、わたしは顔を上げる。.....舞の目に映ったわたしはさぞ酷い顔だろう。
「.....でも弱くなくても.....泣いてしまう事だってあるから.....だから.....」
舞は先ほどの優しい笑みと共に
「だから....私がここにいる。そして、私の側に佐祐理がいる.....」
「......」
.....舞の口から繰り返される先程とほぼ同じ言葉。でも涙腺が弾けた先ほどと違って、今度は泣かなかった。むしろ、まるで潮が引いていくようにさっきまで溢れさせていた涙が引いていくのを感じる。
(弱くなくても.....泣いてしまう事だってあるから)
誰だって一人じゃ生きていけないから.....誰かに縋らないと.....自分自身の行き場を失って潰されてしまう事があるから.....
(だから....私がここにいる。そして、私の側に佐祐理がいる.....)
.....だから.....これでいいんだ。舞だって泣いてしまう事がきっとあるから.....その時はわたしが舞を守ってあげればいいんだ。.....今日は舞に守られてばかりのわたしだけど.....いつかわたしも舞を守って上げられる時が来る.....焦る必要なんてないんだ。だから.....勇気を出して.....自分がいつもその存在になれる様に....ずっと....ずっと.....
わたしは拳をぎゅっと握りしめ、真剣な表情で舞に向き合って、自分のありったけの勇気を振り絞って、.....そして自分の想いを告白した。
「......舞、わたし、舞のこと愛してる.....今までも、そしてこれからもずっと.....例え死が二人を分かったとしても.....だから.....」
「.........」
「だから.....これからも佐祐理だけの舞で居続けて....佐祐理も.....わたしも....舞だけの佐祐理で居続けるから......」
もう涙は流さなかった。これは舞への哀願ではないから。.....そして、この言葉の後に舞に笑顔を見せることが出来た自分が少し誇らしかった。
「.....佐祐理......」
舞は返答の代わりにわたしを抱きしめる力を強めた。少し痛いくらいだったがそれがわたしには嬉しかった。多分わたしも又同じくらい力を込めていたと思う。
......そしてそのまま抱きしめ合ったままで時が過ぎていく。その最中、不意に舞の顔の下にあったわたしの頭に温かい雫がこぼれ落ちて来るのに気付く。
(弱くなくても.....泣いてしまう事だってあるから)
(だから....舞がここにいる。そして、舞の側にわたしがいる.....)
.......わたしはそのまま顔を上げなかった。舞の泣き顔を見ないことが今この場で舞の為にわたしに出来る唯一の事だと思ったから......
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そしてそれからお互い無言のまま暫く静寂の時間が流れたが、やがて舞がその均衡を崩した。
「.....佐祐理.....」
呟くようにわたしに問いかける舞。
「ん?」
「.....そろそろ帰ろうか?もうこんな時間.....」
わたしが応じると舞はそう言ってゆっくりと体を動かし始めた。ふと思い出したように手持ちの時計を見るとすでに日付が次の日に変わっていた。
「そうだね.....そろそろお開きだね......」
わたしもこくりと頷いて舞を抱きしめた腕を解いて机から下りる。そして、
「.....ね、舞....」
「.....?」
机を元に戻している手を止めて首だけこちらに向けた舞に遠慮がちに上目遣いで舞を見ながら、
「帰る前にもう一度だけ.....キスしてもいい?」
と聞いた。すると、舞はこちらを振り向いて、
「......佐祐理が望むなら....嫌じゃない。」
「........」
と、相変わらずの逆接の肯定の後に、わたしの顔を見て気付いたように一呼吸置いて、
「.....ううん。佐祐理なら.....いい......」
その後、舞は順接の肯定に訂正してくれた。そして......
「.....目を閉じて、佐祐理.....」
「ん......」
.......程なくしてわたしの唇に伝わる舞の唇の感触.....今日一日だけで舞と幾度と無く唇を重ねたけど、これが舞からの初めてのキス。
恐らくこれが舞のわたしの告白への正式の返答。そして.....
わたしたちを照らし続けてくれたお月様への互いに交わした永遠の二人の愛への誓い......かな。
*******おわり*******