INOCENT AGE ”穢れなき少女達の伝説”〜さくらの場合〜(後編)

 

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もし、知世ちゃんと出会っていなかったら、私は、「好き」って気持ちを信じることが出来たかな...

思いがけない考えが浮かんだ。一人の夜は、記憶の、どこか遠いところの場所にある、忘れ去られた想いが、ふと浮かぶ。

お父さんも、いぢわるなお兄ちゃんも、写真の中で微笑むお母さんも、私は、大好き。だけど、たぶん、それは、「家族」っていう繋がりがあるからかもしれない。

だから、私にとって、0から始まった「好き」っていう気持ちは、知世ちゃんへの想いが、初めて。

でも、想いは、目に見えない。「見えない」気持ちが「ある」。だから、私は、私の心に、「知世ちゃんが好き」ってきもちがあることを確かめる。

確かめる、って言っても、初めての「好き」だったから、どーやって確かめればいいか、わかんなくて、一人で泣いてたこともあった。

あれは、ある夏の日。日が暮れても、まだ景色が揺れてる時間。知世ちゃんと遠出に出た帰り道でのことだった。

駅で別れるとき「じゃあ、また学校で会いましょう。さくらちゃん」と知世ちゃんが言った。優しい響き。私は、知世ちゃんが、欲しいと思った。

確かな想い、はある日突然やってくるものじゃない。不安な気持ちを抱えてて過ごしてきた人へ届く、優しい贈り物。

駅前は、日曜最後の人の波。たくさんの人がいた。でも、私が直接出逢えるのはどれくらいだろう。私が、出逢ったのは、知世ちゃん。

知世ちゃんが、ボディーガードの付き添いで、車に乗り込んでいく。ドアが閉められると、窓が開けられて、知世ちゃんが手を振る。知世ちゃんの笑顔が、眩しい陽の光のように、私の心に降り注ぐ。心に影が出来た。いつものように、不安な気持ち、苦しい気持ちが、想いを覆う。

心を醜くする苦しい気持ちは、確かにあった。でも、知世ちゃんの、そのときの笑顔が、そっと私の背を押した。やっと、わかったかもしれない。なにか伝えたい。本当に自分の心から、何かしなくちゃいけない。こんな気持ちをくれた、知世ちゃん。

私は、知世ちゃんを思い続けていれば、誰か違う人になって、余裕たっぷりで、知世ちゃんをと一緒にいられると思っていました。

でも、優しい気持ちをくれる知世ちゃんに出逢った。そのときから、私の内側の物語は動き出していた...こわくない、こわくない。確かな永遠が、ある。過ぎ去っていく時間に、絶対に負けない本当の気持ち。今この瞬間が、過去になっても、変わらない気持ち。

知世ちゃんは、まっすぐに気持ちをくれる。それが怖いこともあった。でも、何も知らなかったのは、私の方だった。私も、出来るだけ優しく、出来るだけ楽しく、笑顔を渡そう。

私も、まっすぐに知世ちゃんを見つめた。先のことは、分からない。いつか、ひとりぼっちになってしまうかもしれない。...でも、今を一緒にいられることが嬉しい。この瞬間の、この気持ちを大切にしたい。大好きだから...

私は、車が見えなくなるまで、手を振っていた。私は、知世ちゃんと出会った。そして、信じる想いが生まれた。その確かさが、「好き」って気持ち。

心の遠いところにあった想いを、私は、確かめた。満ち足りた気持ちになる。はやく寝よう。この気持ちを抱えたまま、また明日、大好きな知世ちゃんに会うために。

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