第六章　リミットブレイク

｢……ってなわけで、結局ダメだったよ詰草ちゃん……｣
　やがて、何となく千歳と気まずくなってしまったあの日から二日が経ち、とうとう迎えてしまった体育館での終業式の後で、わたしは一人教室へ戻っていた帰りに合流してきた、こちらも久しぶりの顔合わせとなる軍師さんへ歩きながら溜息交じりに報告していた。
｢あはは、どんまいどんまい♪……でも、あれから会ってないんだ？｣
｢うん……なんか気まずくてさぁ……｣
　向こうから会いに来るのを拒む理由はないとしても、わたしの方からも声をかけづらいというか何というか。
　……まぁ、それはこの詰草ちゃんに対しても一緒だったんだけど。
｢ん〜っ……涙の理由、かぁ……｣
｢はぁ……よく分からないけど、やっぱり迂闊な深追いしちゃったのかな？って｣
　ひとの心の深部に飛び込もうとしているのを自覚しておきながら、ちと軽はずみだったかもしれない。
｢ううん、そんなコトないと思うよ？むしろ、いい具合にお膳立てできてるんじゃないかな？｣
　しかし、何だかこっちまで沈んでしまいそうな心地を吐露したわたしに、詰草ちゃんの方は穏やかな表情でそう告げてくる。
｢へー……そういうもん？｣
　軍師さんとしては、むしろこれを好機とみなしますか。
｢ちゃんと揺さぶられてはいるみたいだし、夏休みに入ればできるコトだって増えるから、きっと勝負どころはココからだと思うよ？｣
｢……つまり、これからまた一歩踏み出せと｣
　あの時とはシチュが全然違うとしても、結局わたしを助けるのは自分自身ってコトなのか。
｢頑張ってね〜♪連絡くれれば、私もいつだって相談に乗ってあげるから｣
　そして、何となくだけど再び踏み出す覚悟も決まりかけた中で、頼もしい相棒は向日葵の笑みを浮かべてそう言うと、文字通りにわたしの背中を叩いて押してくれた。
｢うん……ありがとね｣
　やっぱ、腹に一物あろうがわたしにとっては、こっちの詰草ちゃんも一緒に居て一番安心できる友達みたいである。
(……よし……！)
　それじゃブーストかけてもらったし、もうひと踏ん張りしますか。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

｢それではこれにて、今学期を終了します。みなさん、節度を保って楽しい夏休みをね？｣
｢起立、礼〜｣
(……さぁて……)
　それから、最後のホームルームも終わっていよいよ解放されるや、わたしは少し残っていた荷物を詰めた鞄を手に立ち上がり、クラスメートへのさよならの挨拶もそこそこに、短い間だったけれどお世話になったクラスルームから足早に立ち去っていった。
｢…………｣
　上手くコトが運べば、二学期の初日に“わたし”はもうココには居ないだろうから、何となく寂しさも感じてはいるものの、取らぬなんたらの皮算用で名残を惜しんでいる暇はない。
(とにかく、まずは千歳と会おう……)
　その後でどうするのかは決めていないけれど、顔を合わさない事には何も始まらないから。

｢……柚月さん？もう出て行っちゃったよ？｣
｢え……｣
　……と思いきや、意気込んで隣のクラスへ乗り込んだものの、目当ての魔女の姿はなし。
　どうやら、ホームルームが終わるのはこっちの方が早かったみたいだけど……。
｢いつもはそんなにすぐ帰ったりしないんだけど、今日はなんだか急いでた様子ですぐに居なくなっちゃったのよねぇ｣
｢そう……ありがとう｣
　ってコトは、避けられたかな……？
(も〜、めんどくさいなぁ……)
　そこで、最初の頃は勝てる気がしなかったあの麗しのヘンタイ魔女が、まさかこんなヘタレさんだったとは……と脱力を覚えつつ、仕方がないので｢会いたいんだけど、今どこ？｣と携帯メールを打つわたし。
　まぁ、こんなになるまで放っておいたわたしも悪いとしても……。
｢…………｣
(お……)
　すると、廊下で暫く待っているうちに着信の振動が伝わり、メールボックスを見ると『まだ学校にはおるけど、探さんでええよ』という返事がきていた。
｢ん〜〜っ……｣
　これって、まだ一人にしておいて欲しいという意味なのか、もしくは本音は探しに来て欲しいというツンデレのつもりなのか、イマイチ判断しにくいところだけど……。
(まぁいいや、居るのなら見つけてやるとしますか……)
　他に用事は無くて探す時間はたっぷりとあるし、何より千歳の心情がどうあれ、今はわたしが会いたいのだから。

｢……とは言っても、一体、どこに隠れてるんだろ？｣
　しかし、それから敢えてメールの返信はせずに魔女探しに踏み出したわたしだったものの、すぐに立ち止まりたくなってしまう。
　わざわざ探すなと言ってるんだから、すぐに見つからない場所へ隠れてはいるんだろうけれど、“わたし”の方はまだ普段の千歳の行動パターンを把握しきっているワケじゃないので、結局はしらみつぶしに探索する羽目になりそうな。
(それはちょっと骨が折れそうだし、いっそ詰草ちゃんと手分けするのも……？)
　いや、さすがにこれは人の助けを借りちゃダメな気はする。
　まぁ、誰か千歳をよく知ってそうな人に聞き込み調査をするくらいはヨシとして……。
｢……うーん……｣
｢一ノ葉さん｣
｢はい……？｣
　そんなこんなで、やがて色々と思考を巡らせつつ一年の教室から特別教室の並ぶ校舎への渡り廊下へ差し掛かったところで、背後の方から急に聞き覚えのある声で短く呼び留められ、どくんとわたしの心臓が高鳴ってしまう。
｢ちょっと、いい？｣
　すぐに声の主を認識して恐る恐る振り返ってみると、そこには華奢で綺麗な顔立ちはしているものの、刺々しいツリ目が威圧感も振りまいている、かつてのわたしの天敵が立っていた。
｢ま、まぁ少しくらいならいいけど……｣
　本当は忙しいし断ってもいいんだけど、それでもなるべく関わり合いたくないながらも敵前逃亡もイヤというフクザツな感情のまま、渋々と応じるわたし。
　……それにしても、“わたし”自身は苦手意識を払拭したつもりなのに、やっぱり未だに後遺症は残っているみたい……。
(あれ……？)
｢ん……？｣
｢……ねぇ、そういえば千歳見なかった？｣
｢何よ、いきなりどうして私に？｣
　しかし、昔の因縁もだけど、今は今で用事のある相手だったのをふと思い出したわたしが逆にこちらから切り出してみると、太白さんは不機嫌そうに尋ね返してくる。
｢いやさ、大体いつも千歳の近くで見るんで……｣
｢人をストーカーみたいに言わないで！……というか、あなたが知らないなら知らないわよ｣
｢いや、わたしだっていつも一緒に居る仲でもないんでさぁ……｣
　確か個人ファンクラブにも入会しているって聞いたけれど、思ったより使えないなぁ。
　……いやまぁ、正確に知っていたらその方が恐いのかもしれないけれど。
｢……それより｣
｢あーはいはい、何かわたしに用事があったんだっけ？｣
｢まぁ、用事ってほどでもないんだけど……｣
　ともあれ、それから素っ気無く仕切り直してきた太白さんに、先程よりは肩の力が抜けた心地でこちらも応じると、何やら改めてわたしの顔をジロジロと観察しはじめてきて……。
｢…………？｣
｢やっぱり、何か違う感じがするのよね？｣
　やがて、ぼそりと吐き捨てる様に呟かれた猜疑心たっぷりの言葉に、わたしの心臓が再び高鳴ってしまう。
(えええ、今さら勘付いちゃった……？！)
　そういえば盲点だったけど、因縁深いこの人もわたしを良く知っている一人になるのか。
｢……ね、ホントに本人なの？｣
｢わたしは一ノ葉風音。それ以上でも以下でもないし、瓜二つな双子だっていないけど？｣
　あまり似ていない可愛らしい妹は一人いるとしても。
｢まぁ、そうよね……｣
　とはいえ、ここは真っ向から論点をすり替えてはぐらかすと、太白さんも難しい顔は浮かべつつもこちらの言い分を受け入れる。
　……よし、うちの幼馴染と違って突飛な発想は思い浮かばない手合いみたいだから、ここはもう一押し……。
｢赤木さんにも言ったけど、人って何かのきっかけでがらりと変われるものだから｣
｢そのきっかけは、柚月さんとの出逢いとでも？｣
｢うーん……ちょっと違うかな……？｣
　というか、他でもない向こうの世界のアナタと答えてやりたいのに、言えないのがつらい。
｢全く、ムカつくわね……そういう、いつもハッキリ言わないところが｣
｢言わないっても、言えないことだって多いでしょうよ｣
　……まぁ、ある意味お陰様であれからはなるべくハッキリと物事を言う様にはなったんだけど、ほんと向こうの世界でのやり取りを教えてあげたい……。
｢……詰草さんには、あなたには手を出すなってずっと言われてきたけれど……｣
｢わたしだって、ずっと頼りっぱなしになる気も無いんだけどね？｣
　ともあれ、また一気に不穏な空気になってきたのは感じているものの、ここは一歩も引かずに言葉を返してやるわたし。
｢……！あなた……｣
｢だからさ、いつまでもアナタに怯えっぱなしのわたしだとは思わないで｣
｢…………ッッ｣
　……結局、何を言ってもわたしがムカついて仕方が無いのなら、こっちの世界でも同じやり方でスッキリとさせるしかないのか。
(ごめん千歳、ちょっと行くのが遅くなるかも……)
　まぁたぶん、多少は痕が残っても行けなくなる程のことにはならないだろうから……。
｢…………｣
｢…………っ｣
｢…………｣
(……ん、あれ……？)
　しかし、一触即発の睨み合いになった状態から一度視線を空へと向けて覚悟を決めようとした矢先、ふとその先に見つけた小さな人影に、剣呑とした気分がふっと霧散してしまうわたし。
　あそこにいるのって、もしかして……？
｢ちょっ、なにを余所見して……｣
｢太白さん｣
　それから、わたしは注意を外されて怒りのままに伸びてきた天敵の手を掴むと、今度は真剣そのものな目で見据えながら短く呼びかけた。
　……なんか、今の流れで何かを悟った気がする、わたし。
｢な、なによ……？！｣
｢あのさ、もう昔は昔の話として、二学期からはみんなで一緒に仲良くしない？｣
｢き、急に何を言い出すの……？！｣
　そして、丁度芽生えてきた気持ちをそのまま言葉にすると、案の定わたしの天敵は呆気にとられた表情で動きが止まってしまったものの……。
｢……いやね、わたしにとってのあなたって目障りで心を蝕む疫病神でしかないと思っていたけど……案外そうとも言い切れないかなってさ？｣
　まさか、その疫病神に絡まれたのがきっかけで目当ての相手を見つけてしまうとは。
｢そ、そこまで言う……？｣
｢事実だし。わたしさ、中学の頃はあなたの所為で不登校寸前まで追い込まれて、しかも担任に相談しても全然力になってくれなくて、あの時はホントどうしようかと思った｣
　……そして、絶望してうちに帰った後に自分が出した結論で分岐したのが今のわたし達。
｢…………｣
｢だから、ようやくアナタと離れられると安堵しつつも進学先で見かけた時は、それだけでいきなり転校してしまおうかとか考えたと思うんだよね｣
｢思う……？｣
｢あーいや……まぁでも、またこのまま三年間もそんな思いを引きずるのもイヤだし、アナタの方もこれ以上突っかかってきてもロクなことにならないでしょ？｣
　正直、千歳に執心している時点で、わたしには詰草ちゃんの力を借りなくても残酷に逆襲してやる方法だってあるんだけど、今更そういうのも、ね。
｢よくもまぁ、そんな上から目線で……｣
｢違うよ。それでも、何だか太白さんにありがとうを言いたくなった出来事が丁度あってさ｣
　すると、悪いように解釈した相手の目がまたも険しくなりかけたところでわたしは短く否定すると、今度は掴んだ手を一旦離し、両手で天敵の手を握り締めた。
｢へ……？｣
｢……ま、今すぐにとは言わないけど、二学期までにでも考えといてよ。じゃね？｣
　そして一方的にそう締めくくったわたしは、握った手を離して軽く手を振りつつ、駆け足で校舎の踊り場へと戻っていった。
(ん〜……なんか勢い任せで和解の提案なんてしちゃったけど……)
　でも、やっぱり運命の流れというものは、ほんの些細なはずみやきっかけで変わりかねないんだなとは思わせられた。
　……だからこそ、わたしは暗い未来を回避する為にもキーマンとなっている魔女に逢いに行かなきゃ。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　＊

｢はぁ、はぁ……｣
｢……はぁ、はぁ……っ｣
　やがてわたしは、心が突き動かされるままに、無心で空へと続く階段を駆け上がっていた。
｢はぁ……っ｣
　というか、最初はあの魔女さんが一人にしておいて欲しいのかわたしに探して欲しいのか分からないと言ったけど、今なら察するコトはできる。
(やっぱり、待ってるのね……ったく、もう……！)
　だって、さっきのわたしと太白さんとのやり取り、千歳が気付いていないはずがない。
　それでも、あの場所から動かないというのなら……。
｢はぁ……はぁ……ふぅ……っ｣
　ホント、世話が焼けるんだから……！

｢……結局、ここにいたのね、千歳？｣
｢風音ちゃん……｣
　ともあれ、汗を滲ませつつもやがて階段を一番上まで駆け上がって、その先にあるドアを開けて屋上へと出てやると、渡り廊下から見えた時と同じ、よじ登れない高さのフェンス前に立ったままの魔女さんが、儚さに満ちた表情を浮かべてこちらへ振り返ってきた。
｢もう、こんな場所ってのは基本ぼっちか後ろめたい人が他人の目を避けたくて通うもんよ？｣
｢……ふふ、うちはそのどちらにも該当しとるなぁ｣
　そこで、まずは偏見と皮肉たっぷりなセリフを向けてやったわたしに対して、千歳は自虐めいた笑みを浮かべて肯定してしまう。
｢はぁ？一体何を言って……｣
｢魔女っていうのは後ろめたくて、孤独な身やからね？｣
｢…………｣
｢普通の人より少しばかり変わった能力(チカラ)を悪用もしとるし、前にも言われたけど、所詮は悪魔に近い存在なんやなって｣
｢……勝手に一人で何を抱え込んでるのかは知らないけど、まさかここまで来て今までのコトを一方的に放り投げる気じゃないでしょうね？だとしたら、ここでぶっ飛ばすわよ｣
｢こっちの風音ちゃんは過激やねぇ？ぶっ飛ばすなんて、“一ノ葉”さんからは想像もつかなかったセリフやわ｣
｢まぁ、さっきの今で少し気が立ってるのもあるとして、“わたし”の方はそうやって断ち切ったからね？｣
　ただ、今はこちらのわたしも同じように抗うべきとまでは思っていないけれど。
｢ふふ、見てたで。もう少しでここから大声出して止める気やったけど、和解したん？｣
｢さぁね。わたしはそれでいいと思ってるけど、相手はどう受け止めたのやら｣
｢せやねぇ……まぁこれ以上ちょっかい出すようなら、うちからも……｣
｢……もちろん、アンタについてもよ、千歳？｣
｢え……？｣
　そして、こちらの気も知らずに他人事の顔で相槌を打ってきた勘違い魔女さんへ、わたしはぐっさりと釘を刺してやった。
｢急にカノジョ面して付きまとってきたかと思えば、勝手に泣き出して台無しにするし、わたしの方はもうどうしたらいいのか、ここ数日は悩みっぱなしだったんだから｣
｢ご、ゴメンな……うち……｣
｢謝って済む問題じゃないわよ。アンタに膝枕してもらいながら、わたしの方も悪くないなって思い始めてたのに、この気持ちの始末はどうつけてくれんの？！｣
｢…………っ！う……っ｣
　それから、更に畳み掛ける様に悶々と抱えていた本音を告げてやると、千歳は再び顔を両手で被いつつ泣き崩れ始めてしまった。
｢……ちょっ、だからどうしてそこで泣くの……？！この前といい、まるでわたしが悪いコト言ったみたいに……｣
｢ううん……悪いのは全部うち。けど、どうしたらええのか分からんのよ……ぐすっ｣
｢どうしたらって……｣
｢もう、とっくにうちは風音ちゃんの為なら何だってしてあげられる気持ちになっとるのに……でも、いつしかこのままキミと別れたくないって気持ちも芽生えてしもうて……うっ……｣
｢……千歳……｣
　……えっとそれは、もしかしたら少しばかりわたしも悪い……のかな？
　でも……。
｢最初は、せっかくやから一ノ葉さんには普段出来ひんコトさせてもらおうかとか、そのくらいの軽い気持ちやったのに……｣
｢えっと、あれマジだったの？！……はいいんだけど、どの道ずっとこのままじゃいられないんでしょ？｣
｢うん……ぐすっ、その時はいずれ来るはずやけど、うちも色々考えるようになってな……｣
｢それで、この暑いのに屋上でわたしを待ってた、と？｣
　この、雲ひとつ無いカンカン照りの青空の下で。
｢いっそ、来てくれへんかった方が、うちも心の整理がついてたんやろうけどなぁ……ふぅっ｣
｢もう、人任せにしたまま自分自身を騙し続けたって、つらいだけでしょーが｣
　まぁ、先日までかくいうわたしも同じようなものだったから、ブーメランなんだけど。
｢ん……ね、補給させてもらってもええ？｣
｢はいはい……今日は特別にいいわよ？｣
　ともあれ、素っ気無く告げてやったこちらの言葉の後で、千歳はようやく再び立ち上がって図々しくも前向きな要求を向けてきたので、わたしも両手を広げて迎え入れてやると……。
｢ふぅっ……っ、ありがとうな……｣
　寂しがりやの魔女は涙で崩れた顔をハンカチで拭う前に、ふらふらとこちらの胸元へ吸い寄せられるようにして歩み寄り、優しくも全力でわたしの身体を抱きしめてきた。
｢……どういたしまして｣
　まぁ、補給させてもらうのはお互い様なんだけどね。
　……ただ、敢えてそれは言葉にせず、わたしは代わりに陽光で暖かくも乾いてきている千歳の頭を慈しむ様に撫でてやった。
｢は〜……満たされるわぁ……｣
｢……うん……｣
　所詮は不器用もの同士、確かにこれが一番手っ取り早いみたいである。
｢……で、これからどーすんのよ？まぁ、もう暫くはこうやって補給させてあげてもいいとして｣
｢せやなぁ……どうしよ？｣
｢どうしよって……もう、考えるの面倒になってきてない？｣
　いやまぁ、わたしもなんだけど。
　……というか、それだから余計に困るとして……。
｢なっとるなぁ……強いて言うなら、このぬくもりを少しでも味わっていたいというだけで｣
｢…………｣
｢……んじゃさ、思い出作りでもしとく？｣
　ともあれ、面倒くさくはなりつつも少しだけ真面目に考えた後で、こちらから水を向けてやるわたし。
｢え……？｣
｢まぁ、名残なんて尽きないとは思うけどさ、それでも出来るだけ｣
｢せやねぇ……せっかく夏休みに入ったんやし、それしかないかぁ……｣
｢……で、結局その気にさせる勝負はわたしの勝ちでいいの？｣
｢ん〜、引き分けでええんちゃう？｣
｢んだね……｣
　少しだけ納得いかないようで、それでも素直に引き分け案を受け入れてしまうくらいには、まぁ確かに痛み分けでいいのかもしれない。
　……結局お互い、少しばかり深入りしすぎてしまったみたいだから。

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